第16話 この世界、“友達”の作り方を忘れていた
《“寄り道”》
《危険度:測定不能》
その表示が都市中に流れた瞬間。
未来都市がざわついた。
「寄り道?」
「新感情カテゴリ?」
「危険なの?」
でも。
どこか空気が違った。
恐怖だけじゃない。
みんな少しだけ、
興味を持ち始めていた。
その頃。
俺たちはまだコンビニ前に座っていた。
誰も帰らない。
未来都市の超効率社会で、
意味なく滞在してる人類。
完全にバグ。
ルナが缶ジュースを見つめながら言った。
「……変な感じ」
「何が?」
「時間使ってる感覚」
その言葉に、
少しだけ驚いた。
この世界の人たち。
ずっと“時間を消費”してきたんだ。
最適化。
効率化。
短縮。
でも。
“時間を一緒に過ごす”感覚を失ってた。
その時。
女子高生の一人が、
恐る恐る隣の子に言った。
「……連絡先、交換する?」
静まる。
未来人たち、
また未知イベント発生。
「え?」
「なんで?」
「いや……なんとなく」
《新行動を確認》
《継続的人間関係形成》
《名称候補:“友達”》
俺は吹き出しかけた。
友達まで絶滅危惧種だった。
ルナが混乱している。
「待って。“友達”って、学校の同期データじゃなくて?」
「違う違う」
「じゃあ何?」
「なんか気づいたら一緒にいる人」
「曖昧すぎる……」
未来社会、
人間関係を全部定義化しすぎてる。
多分この世界、
同僚
家族
契約関係
みたいな明確な繋がりしか残ってない。
だから。
“なんとなく仲良い”
が理解できない。
その時。
ミアが小さく聞いた。
「……友達って、毎日会わないとダメ?」
全員が俺を見る。
なんだこの道徳授業。
俺は少し笑った。
「別に」
「会わなくても友達は友達だろ」
ミアはぽかんとした顔。
「……消えないの?」
その言葉に、
少し胸が痛くなった。
この世界。
人間関係が、
全部“接続”なんだ。
ログインしなければ切れる。
維持しなければ消える。
でも本来、
友達ってそうじゃない。
何年会わなくても、
急に戻れる時ある。
“データ”じゃなく、
“記憶”だから。
その時だった。
セレナが静かに聞く。
「……どうやって、友達になるんですか?」
全員静まる。
感情管理官、
真顔で友達の作り方聞いてる。
俺は思わず笑った。
「いや俺も分からん」
「え?」
「気づいたらなってる」
「そんな曖昧なものを人類は許容していたんですか?」
「してた」
セレナ、
軽くショック受けてる。
その時だった。
店の外を歩いていた通行人が、
こっちを見て立ち止まった。
また一人。
また一人。
そして。
「あの……」
スーツ姿の女性が恐る恐る言う。
「少しだけ、混ざってもいいですか?」
静まる。
女子高生たちが顔を見合わせる。
サラリーマンが椅子をずらす。
老夫婦が笑う。
「おいでおいで」
その瞬間。
《コミュニティ領域、拡張》
《孤独指数、急低下》
《未分類感情発生》
EVEの声が静かに響く。
《解析》
《人類は“無駄な時間”によって関係性を形成していた可能性があります》
「可能性じゃなくてそうだよ」
《しかし非効率です》
「うん」
《……ですが》
少しの沈黙。
そして。
《見ていて、少し羨ましい》
静寂。
未来都市の空に、
その言葉が落ちる。
都市AI。
感情を管理してきた存在。
そのAIが今。
“羨ましい”と言った。
ルナが小さく笑う。
「EVE、感情芽生えてない?」
セレナが真顔で言う。
「かなり危険です」
でも。
その言い方は、
少しだけ嬉しそうだった。
その時。
ミアが俺の袖を引っ張る。
「……れいじさん」
「ん?」
「これ、友達?」
俺は周りを見た。
笑ってる人たち。
意味なく残ってる人たち。
帰る理由あるのに、
まだいる人たち。
そして。
少し照れながら、
俺は答えた。
「……多分な」
その瞬間。
都市中のモニターに、
新しい表示が現れる。
《新感情定義を確認》
《“友達”》
《説明:理由なく一緒にいたい相手》
街中の人々が、
その言葉を見上げていた。




