第15話 この世界、“コンビニ前”が青春だった
笑い声が広がっていた。
小さい。
でも確かに。
店の中に、
“空気”が生まれていた。
誰かが笑う。
誰かがつられる。
なんとなく残る。
それだけ。
たったそれだけなのに。
この世界では異常事態。
店内モニター。
《継続滞在率、異常上昇》
《目的未定義》
《非効率行動が連鎖しています》
ベルク店長が頭を抱える。
「もう終わりだぁ……」
「なんでそんな毎回滅亡みたいな反応なんだ」
「だって人が“意味なく集まってる”んだぞ!?」
未来社会、
雑談耐性ゼロである。
その時だった。
女子高生の一人が恐る恐る言った。
「……外、行ってみる?」
静まる。
“外に出る”。
ただそれだけ。
でも。
この世界では、
かなり大きな行動らしい。
ルナが不安そうに聞く。
「……何するの?」
「いや、別に」
俺は肩をすくめた。
「コンビニ前でダラダラするだけ」
店内。
「……」
完全に未知文化扱い。
ミアが小さく聞く。
「だらだら……?」
「なんとなく座って」
「飲み物飲んで」
「喋ったり」
「……意味は?」
「ない」
また混乱してる。
だが。
女子高生たちは顔を見合わせた。
「やってみたい」
「ちょっと分かるかも」
その瞬間。
《“放課後行動欲求”上昇》
《青春カテゴリ形成中》
モニターがまた騒ぎ始める。
ベルク店長、
もう半分諦め顔。
「青春が実体化してる……」
なんだよその言い方。
その時だった。
店外ドローンの警告音が強くなる。
《不要滞在を確認》
《速やかに帰宅してください》
《帰宅してください》
《帰宅してください》
怖い怖い怖い。
でも。
誰も動かなかった。
むしろ。
みんな少しイラッとしてる顔。
サラリーマンの男がぼそっと言う。
「……帰りたくねぇな今日」
老夫婦も笑う。
「たまには寄り道もいいねぇ」
女子高生たちは飲み物を持ち始める。
完全にイベント前。
その時。
セレナが小さく言った。
「……私も」
全員が振り向く。
セレナ、
少しだけ視線を逸らした。
「“寄り道”を観測する必要があります」
ルナがニヤける。
「それ、来たいだけでは?」
「違います」
耳赤い。
分かりやすすぎる。
俺は吹き出した。
「じゃあ行くか」
《どこへ?》
EVEの声。
俺は店の外を指差した。
「コンビニ前」
《そこには何がありますか?》
「何もない」
《?》
「だからいいんだよ」
数分後。
異世界の未来都市。
超高層ビル群。
空飛ぶ輸送体。
感情管理ドローン。
その片隅で。
俺たちはコンビニ前に座っていた。
意味もなく。
女子高生たちはジュース。
サラリーマンは缶コーヒー。
老夫婦は温かいスープ。
ミアは小さなパン。
ルナは新商品。
セレナはなぜか姿勢がめちゃくちゃ良い。
「……」
「……」
沈黙。
風だけが吹く。
するとルナが不安そうに言った。
「……で、何するの?」
俺は笑った。
「別に何もしない」
「え?」
「それがコンビニ前」
未来人たち、
また理解不能顔。
でも。
数分後。
少しずつ会話が始まった。
「今日仕事だるかった」
「それ分かる」
「このジュースうまい」
「新味らしいよ」
中身ない。
完全に中身ない。
だが。
みんな、
少し楽しそうだった。
その時。
ミアが空を見上げた。
「……きれい」
全員がつられて空を見る。
夕焼け。
赤く染まる未来都市。
誰かが写真を撮るわけでもない。
分析もしない。
評価もしない。
ただ見る。
その瞬間だった。
EVEが静かに言った。
《感情波、安定》
店内モニターではなく。
空全体に、
その声が響いた。
《現在、区域内ストレス値が大幅低下しています》
全員。
「……え?」
EVEは続ける。
《非効率行動にも関わらず》
《精神安定率が向上》
《孤独指数が減少》
《幸福値、継続上昇》
静寂。
そして。
ルナが小さく笑った。
「……寄り道、すごいね」
セレナも空を見ていた。
ずっと。
感情を抑えて生きてきた人の顔で。
そして。
ほんの小さく呟く。
「……これが、“放課後”」
その瞬間。
都市全体のモニターに、
見たことのない表示が出た。
《新社会行動を確認》
《名称登録》
《“寄り道”》
《危険度:測定不能》
なぜか最後だけ怖かった。




