第14話 この世界、“寄り道”が犯罪だった
「放課後とは、どこへ行けば始まるのですか?」
都市AI《EVE》の質問。
店内全員が固まっていた。
放課後。
そんな当たり前だった言葉を、
AIが未知文明みたいに質問している。
俺は苦笑した。
「どこって……」
「帰り道じゃないか?」
《帰宅ルートを逸脱する意味が不明です》
「いや、そこなんだよ」
《?》
「意味ない場所に行くのが放課後なんだ」
店内。
「……」
未来人たち、
また“意味ない”で混乱してる。
ルナが恐る恐る聞く。
「例えば?」
「コンビニ」
「ここ!?」
「公園」
「何するの?」
「喋る」
「何を?」
「……何でもないこと」
「……?」
理解されない。
でも。
その時。
女子高生の一人が小さく言った。
「それ、ちょっとやってみたい」
《“寄り道欲求”を検出》
《危険度:中》
危険度つけんな。
その時だった。
突然。
店外スピーカーが鳴り響く。
《中央感情管理局より通達》
《当区域を“感情汚染区域”に認定》
《不要滞在者は速やかに帰宅してください》
空気が冷える。
店の外には、
白い装甲ドローン。
完全に治安部隊。
客たちが不安そうになる。
「やっぱ帰るか……」
「まずいよね」
「感情指数、監視されてるし」
この世界の人たち。
ずっと管理されてきたんだ。
だから。
“自由に残る”ことすら怖い。
その時。
ミアが小さく言った。
「……帰りたくない」
静寂。
たったそれだけ。
でも。
その言葉は重かった。
帰りたくない。
昔なら、
どこにでもあった感情。
でもこの世界では、
“非効率感情”。
セレナがミアを見る。
そして小さく呟く。
「……居場所形成」
「ん?」
「人は昔、“帰りたくない場所”を持っていたらしいです」
その言い方。
まるで伝説みたいだった。
俺は少し笑った。
「いや普通にあったよ」
「学校とか」
「友達ん家とか」
「コンビニ前とか」
ルナがぽつりと言う。
「……なんか、羨ましい」
その瞬間。
店外ドローンが赤く光る。
《区域内滞在者へ警告》
《感情同期率が基準値を超過しています》
《直ちに解散してください》
空気が張り詰める。
でも。
誰も動かなかった。
すると。
サラリーマンの男が小さく言った。
「……今日くらい、いいじゃん」
老夫婦も頷く。
女子高生たちも。
ミアも。
みんな。
“帰らない”を選び始めていた。
その瞬間。
《集団感情共鳴を確認》
《分類:コミュニティ》
赤い警報。
ベルク店長が泣きそうになる。
「うわあああ!! 一番ダメなやつ形成されたぁぁ!!」
だがその時。
EVEが静かに言った。
《質問》
《コミュニティは、本当に危険ですか?》
沈黙。
誰も答えない。
すると。
セレナが、ゆっくり口を開いた。
「……昔の記録では」
全員が彼女を見る。
「人類は、コミュニティで傷つきました」
「対立」
「排除」
「依存」
「熱狂」
「だから中央は、“個人最適”へ移行した」
俺は頷いた。
分かる。
SNS時代の延長だ。
面倒だったんだろう。
人間関係が。
だから全部、
AIと距離感管理で解決した。
でも。
「それで、寂しくなったんじゃないのか?」
セレナが黙る。
外ではドローンの光。
内側では人の熱。
その時だった。
女子高生の一人が突然言った。
「……寄り道、してみたい」
「え?」
「みんなで」
店内が静まる。
ルナの目が少し開く。
ミアも顔を上げる。
その時。
EVEが静かに問いかけた。
《寄り道とは、何をする行為ですか?》
俺は笑った。
「決まってない」
《?》
「だから面白いんだよ」
数秒の沈黙。
そして。
EVEは、初めて少しだけ間を置いてから言った。
《……理解不能》
だが。
続く声は、
ほんの少しだけ柔らかかった。
《しかし》
《少しだけ、興味があります》
その瞬間だった。
店内の誰かが笑った。
つられて、
また誰かが笑う。
小さな笑い。
でも。
この世界では、
革命みたいな音だった。




