第12話 この世界、“告白”という文化が消えていた
《都市幸福指数、過去最高値を更新》
その表示が出た瞬間。
世界が静止した。
誰も喋らない。
店内どころか、
都市全体が固まったみたいだった。
幸福指数。
この世界で最重要指標の一つ。
経済。
治安。
感情安定。
生産効率。
全部AI管理されてる社会。
なのに。
たった一曲の恋愛ソングと、
少しの雑談で更新。
意味が分からない。
ベルク店長が震えながら呟く。
「終わった……」
「なんで!?」
「中央が一番嫌がるパターンだ!!」
ルナも青ざめてる。
「“感情=危険”って前提が崩れる……」
その時。
EVEが静かに言った。
《追加質問》
「まだあるの!?」
巨大な瞳が俺を見つめる。
《“告白”とは何ですか?》
店内。
「……」
俺。
「……は?」
ルナ。
「こくはく?」
セレナ。
「初耳です」
待て。
待て待て待て。
「この世界、告白ないの!?」
ベルクが困惑した顔になる。
「……必要かい?」
「必要だろ!?」
頭抱えた。
この世界、
恋愛ソングだけじゃなく、
告白文化まで消えてる。
EVEが続ける。
《データベースに該当行動が存在しません》
「マジかよ……」
俺は思わず天を仰いだ。
つまりこの世界。
“好き”を危険視しすぎた結果、
恋愛熱狂
アイドル
ファン文化
告白
青春
全部削除されてる。
人生、
味薄すぎるだろ。
その時、
女子高生の一人が恐る恐る聞いた。
「……告白って、何するの?」
店内全員が俺を見る。
なんだこの公開授業。
俺は少し考えた。
「えっと……」
「好きな相手に、自分の気持ち伝えること」
静まり返る。
女子高生。
「……わざわざ?」
「わざわざ」
「なんで?」
「いや、伝えないと分かんないだろ」
ルナが首を傾げる。
「感情同期で十分じゃない?」
「それじゃダメなんだよ」
「なんで?」
俺は少し黙った。
なんでだろう。
効率だけなら、
確かに感情同期の方が早い。
でも。
人間は昔から、
わざわざ言葉にしてきた。
震えながら。
失敗するかもしれないのに。
「……多分」
俺はゆっくり言った。
「ちゃんと伝えようとすることに意味あるんだ」
店内が静まる。
EVE。
《非合理です》
「うん」
《拒絶リスクがあります》
「あるな」
《精神損傷効率が高すぎます》
「言い方」
でも。
それでも。
人は告白してきた。
好きだから。
その時だった。
ミアが小さく手を上げる。
「……れいじさん」
「ん?」
「それ、したことある?」
店内。
ざわっ。
なんで盛り上がる。
俺はちょっと目を逸らした。
「……まあ、一応」
女子高生たち。
「うわぁ……」
なんだその反応。
絶滅危惧種見た顔やめろ。
ルナがニヤニヤしている。
「で? 成功した?」
「……」
「失敗したんだ」
「うるせぇ!!」
店内で笑いが起きた。
笑い声。
この世界で、
まだ珍しい音。
その時だった。
セレナが静かに呟く。
「……どうして」
全員が彼女を見る。
セレナは少し迷ったあと、
小さく言った。
「失敗する可能性があるのに、なぜ伝えるんですか?」
その質問は。
感情管理官としてじゃなく。
一人の人間としての問いに聞こえた。
俺は少し考えた。
そして。
「伝えなかった後悔の方が、残るからじゃないか」
静寂。
セレナの瞳が揺れる。
ルナも。
ベルクも。
客たちも。
みんな、
初めて知る感情みたいな顔してる。
その時。
店内モニターが突然点滅。
《新感情ワードを確認》
《“青春”》
《解析不能》
また未知扱い。
だが。
その瞬間だった。
都市全体のモニターに、
一斉に映像が流れ始める。
教室。
夕焼け。
駅。
校庭。
古い時代の記録映像。
そこには。
泣きながら告白する少年。
顔真っ赤な少女。
振られて落ち込む青年。
成功して笑うカップル。
全部。
この世界から消えた光景。
街中の人々が立ち止まる。
「……なんだこれ」
「胸が変」
「苦しい」
でも。
誰も目を逸らせなかった。
EVEが静かに言う。
《理解不能》
《しかし》
少しの沈黙。
そして。
《なぜか、美しいと感じます》
その瞬間。
セレナが、
ほんの小さく笑った。




