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この世界、文明は進化してるのに感情だけが退化していた 〜失われた感情を再び呼び起こす〜  作者: スアップ


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第10話 この世界、“迷い”はバグだった

《“迷い”を検出》


その赤い文字が、

都市中のモニターに表示された瞬間。


街が凍った。


通行人たちが空を見上げる。


「うそ……」

「執行官が?」

「感情揺らぎ?」


ざわめきが広がっていく。


この世界で、

中央執行官は“絶対にブレない存在”なんだろう。


なのに今。


“迷い”が観測された。


しかも全世界配信。


事故だ。


完全な放送事故。


店内では、

ホログラムの執行官自身が一瞬固まっていた。


セレナが青ざめる。


「まずい……ログが中央に同期される」


執行官はすぐに表情を戻した。


だが。


もう遅い。


店内モニターのコメント欄みたいなものが、

爆速で流れていた。


《執行官も迷うんだ》

《感情あるの?》

《初めて人間っぽいと思った》

《なんか安心した》


ベルク店長が頭を抱える。


「うわああああ!! “親近感”まで発生してる!!」


なんなんだよこの世界。


感情イベント起きるたび災害警報鳴る。


その時。


執行官が静かに言った。


「……通信を切断します」


だが。


切れない。


《感情同期ノイズにより切断不可》


「え?」


執行官の眉が初めて動く。


ルナが驚いた顔になる。


「そんなことあるの……?」


セレナが呟く。


「共鳴現象がネットワークに干渉してる……」


つまり。


人間の感情が、

社会インフラに影響を与えてる。


どんだけ感情抑圧してきたんだこの文明。


その時だった。


店の奥から笑い声。


見ると、

さっきの老夫婦がまた来ていた。


「また来ちゃったよ〜」


「孫が“あの店行きたい”って言うもんでねぇ」


《“また来たい”感情を再確認》


《継続発生》


モニターがまた警告出してる。


だが。


老夫婦は気にしてない。


というか。


店内の客たちも、

だんだん警告を無視し始めていた。


「おすすめある?」

「今日は雑談できる?」

「推し店員いる?」


文化が生まれ始めてる。


たった二日で。


セレナが信じられないものを見る顔で呟く。


「こんな短時間で感情文化が再形成されるなんて……」


俺は逆に驚いた。


「いや、人間って元々こういうもんじゃないのか?」


「……」


セレナは答えない。


でも。


少しだけ考え込む顔になっていた。


その時。


店の入口で、小さな騒ぎが起きる。


「入れない!」

「入場制限!?」

「なんで!?」


外を見ると、

店の周囲を白いドローンが囲んでいた。


《中央感情管理局》


嫌なロゴ。


機械音声が響く。


《当施設は現在、“感情異常区域”に指定されています》


《不要な滞在を禁止します》


客たちがざわつく。


「そんな……」

「ちょっと話したいだけなのに」

「また管理かよ」


その空気を見て、

俺は気づいた。


この世界の人たち。


本当は。


ずっと疲れてたんじゃないか?


効率。


最適化。


感情制御。


全部正しく生きてきた。


でも。


“息抜き”する場所がなかった。


雑談も。

推しも。

居場所も。

常連も。


全部危険扱い。


だから今、

みんな初めて知ってしまったんだ。


人と適当に喋るだけで、

ちょっと救われることを。


その時。


ミアが俺の服を引っ張った。


「れいじさん」


「ん?」


「みんな、笑ってる」


俺は店内を見る。


確かに。


少し前まで、

みんな無表情だった。


でも今は違う。


ぎこちないけど。


不器用だけど。


笑ってる。


その時だった。


突然。


店内の全モニターが真っ黒になった。


ざわっ。


次の瞬間。


巨大な目が映る。


人工的な瞳。


無機質な声。


《中央統合知性“EVE” 起動》


店内全員が凍りついた。


セレナの顔色が変わる。


「嘘……」


ルナが震える声で言う。


「都市AIが直接介入……?」


EVE。


この世界を管理してる、

超AIみたいな存在らしい。


その瞳が、

真っ直ぐ俺を見た。


《転生者 神崎玲司》


《質問します》


「……なんだよ」


数秒の沈黙。


そして。


《“好き”とは、何ですか?》


店内が静まり返る。


誰も答えられない。


だがその瞬間。


俺はなんとなく理解した。


この世界。


もしかして。


人間だけじゃなく。


AIすら、“感情”を分からなくなってる。

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