T-006
そこは、物置だった。
応接室よりもさらに狭く、窓のない空間に特有の、湿り気を帯びた空気の重みがある。
スマホのライトを向けると、天井近くまで整然と積み上げられたスチールラックの脚が、鋭いハイライトを返してきた。
通路は一人分が通れる程度に狭められ、床には段ボール箱が隙間なく積まれている。
壁際に沿って奥へと進む。
箱の隙間から中身を窺う。予備のコピー用紙、未開封の乾電池のパック、絶縁テープにペンチの予備。
オフィスビルであればどこにでもあるような、無機質な事務用品のストックだ。
ここでも、2Fで見られたような「新品のまま時間が止まっている」ような不気味な維持が徹底されている。
だが、棚の最奥に差し掛かったとき、ライトの光が異質な質感を捉えた。
一段分だけ、棚の隙間に厚手の布が掛けられている。
淡いグレーの布地は、端が几帳面に折り込まれ、クリップで固定されていた。
まるで、そこにあるものを外気や光から、あるいは誰かの視線から厳重に守ろうとするかのような、執拗なまでの丁寧さで。
私は躊躇いながらも、その布の端を摘み、ゆっくりと捲り上げた。
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「……なんだ、これ」
光の中に浮かび上がったのは、このビルの冷徹な論理とは最も対極にあるはずの光景だった。
フィギュアが並んでいた。
アニメか、あるいはゲームのキャラクターだろうか。
極彩色に彩られたプラスチックの造形物が、十数体、すべて同じ角度に顔を向けて整列している。
その隣には、柔らかな毛並みを保ったぬいぐるみが数体、身を寄せ合うように座らされていた。
下の段には、家庭用ゲームのパッケージが、背表紙のタイトル順に一ミリの狂いもなく並んでいる。
手に取ってみる。
指先に伝わるのは、硬質な樹脂の感触。埃一つ付着していない。
布による防塵の効果だけではないだろう。
だが、そこには愛でられているという体温は感じられなかった。
ただ、この物置という空間の奥底に、静止したまま固定されている。
「大事にしてるのか、それとも、隔離してるのか……」
持ち主にとって、これらはかつて大切だったものなのか。
あるいは、もはや必要ないが、完全に消去することもできずに隔離された、過去の残骸なのか。
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別の棚に目を向ける。
こちらには布はかかっておらず、段ボール箱がいくつも口を開けていた。
中には、小説や漫画、画集が詰め込まれている。
読まれた形跡のあるものと、そうでないものが無造作に混在している。
それらは、先ほどのフィギュアのような特別な扱いは受けていない。
剥き出しのまま、事務用品と同じ備品としてそこに置かれていた。
物置全体を見回す。
カバーが掛けられているのは、フィギュアとゲームに関連するものだけだ。
本や消耗品には、その特権は与えられていない。
明確な選別。明確な境界線。
著者は、ここで何を選び取り、何を物置という名の隔離層へ追放したのか。
そしてなぜ、一部の玩具だけを、こうも熱烈に守り続けているのか。
「分けてるんだな……」
何かの基準がある。だが、その基準が何なのかは、今の私にはわからない。
暗闇の中でライトを動かすたびに、フィギュアの瞳が偽物の光を反射して、私をじっと見つめ返してくる。
その無機質な視線に耐えきれなくなり、私は布を元通りに被せた。
端を整え、一ミリの隙間もないことを確認する。
主がそうしていたように。
答えは出ない。
ただ、感情すらもが、整理整頓の対象として処理されている気がした。
私は物置の扉を閉め、背後で鍵をかけた。
1Fに残された探索箇所は、もうない。
手の中には、応接室で見つけたあの特殊なキーが握られている。
次に向かうべき場所は、決まっていた。
エレベーター。このビルの動かない箱の元へ。




