剣と拳
一方その頃。
「なぁっ!?」
「僕の動きに着いていける体はもう出来てる。でも、それを動かす本人にその経験が足りていない……。要は、頑張れってことだよ」
レングは、ブレイに指南を受けていた。
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「僕の我儘を通したんだ。何か要望はあるかな?」
「あー、それならワタシの弟子を見てやってくれ。近接戦闘ならオマエの方が向いてるだろ」
模擬戦闘終了後、そんな会話があった。
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そして、今に至る。
「ちゃんと才能はある、身に余るくらいにね。だから、焦らずに積んでいくだけだ」
「そうですね……」
「何か不満でもあるのかい?」
「不満なんてそんな……。俺はただ……師匠に、ヴァエルさんに、返せないほどの恩を貰っているんじゃないかと……」
「恩がどうとか言ってる場合じゃないのは分かってるだろ?今のあいつは言わば、親代わりだ。子どもが親に恩を返せない、そんな事は無い。ただ、生きて成長を見せる。それだけでいいんだ。それに、人を育てるというのは得難い経験だからね。もちろん、君が苛烈な環境にあった、というのは聞いている。でももうそれは忘れていい。そこから進むことが、恩を返す第一歩だから」
言っていることに正当性はある。しかし、あんなバトルジャンキーがこういう事を言うのか。というようなことをレングは考えていた。
「……良し、じゃあ次はストレングスを全開で使っていい」
「良いんですか?」
「それくらいじゃ、僕には勝てないから」
レングはそのような挑発的なセリフに、少しだけムッとした。
「そうだね……。僕は全力で君の攻撃を防御するから、それを崩しにきてくれ」
「分かりました。こちらも全力でやらせて頂きます!」
レングは、いつものクリスタルの魔道具を腕に付けている。対してブレイは、何の変哲もない木剣を手にして対峙する。
「はっ!」
ストレングスの魔力を全身にみなぎらせ、地面を蹴り、ブレイに拳を向ける。
「はぁっ!!」
「……」
レングの一撃を、涼しい顔で受け流す。
「らぁっ!」
「読みやすいな」
もう一度。
「まだぁっ!」
「まだ足りない」
またも受け流される。打ち付け合う剣と拳。そこには絶対的な差があった。ブレイが得意とするのは防御など考えない絶え間ない攻撃の剣であり、防戦は逆に不得手の方である。……それでも、防がれる。
「ここかな」
「なぁっ」
レングは攻撃の隙を着かれ、体勢が崩れる。それには全く力を加えられていない。そのまま、首にゆっくり剣を当てられる。
「今日はもう終わりにしよう」
「ま、まだ!」
「向上心が強いのは良いことだ。だけど、君は入学の準備も必要だろう?安心して欲しい、君ならいつでも稽古をつけよう。気に入ったからね」
「わ……分かりました」
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「パイセン、最近機嫌いいっすね」
「そうかな」
「そうっすよ、絶対!」
前までは見せなかった笑みを浮かべながら、
「僕の強さを示しても、それでも尚立ち向かってくれるやつが好きなんだ。みんな、僕を前にすると戦意すら無くしてしまうからね」
「……じ、自分!やれる……っすよ!」
「……そうなの?」
ほんの少しの興味を向けられる。戦闘態勢を取ってすらいない。剣すら装備していないし、仕掛ける気も無いだろう。それでも、この男を眼前にすると、戦うという気が削られ抉られる。それを考えるのが烏滸がましいと感じるほどの差。その差を、無意識に叩きつけられる。
「ぐ……う……」
「……いや、いいよ」
少しの興味が消え去る。それを感じ取ってしまったから。
「……うぅ」
「僕の目の前に立てるようになったら、その時は相手をするよ」
そう言って、グランの前からブレイが離れる。
「不甲斐ないっす……」
あの人に好意は抱いている。だが、それとは別に恐怖も感じてしまう。そんな調子では一生あの人は振り向いてくれないと知りながら、その感情を消すことは出来なかった。




