叶わぬものほど
「今日も昨日と同じだ。分かったら走ってこい」
「は、はい!」
地道な体づくり。しばらくはこれをやらせることにした。強くなるのに近道なんて無い、そういうことを教えたい……のもあるが、一番はこれをしない状態でストレングスを使い続けると、恐らく体が壊れる。強い魔法を使いこなす才能は生まれつき備わっていても、こればっかりはな。
「……さて」
レンズが行ったのを確認したヴァエルは自らの店に戻り、魔導具を作り始めた。精密に、迅速に。この行動は、ヴァエルがこの町に来る頃、魔物を狩ってさまよい歩いていた時にうっすらと考えていた、これ売れるんじゃないか?という考えを実行して上手くいったことに由来している。魔法の修行もできるため一石二鳥とも思っている。
一つ目の魔導具を作り終えたヴァエルは、魔力の循環を速めていく。そうして、髪に黒が混じり始める。その状態で先程のように魔導具を作る。……が
「…」
魔導具が手を離れれば、すぐに砕けてしまった。
────
ヴァエルは焦っていた。ここ数ヶ月、まったく進んでいる気がしない。弟子に近道など無い、と教えている矢先にこんなことを思うのは格好がつかない、それに師匠として失格だろう。ではなぜ、そう思ってしまうのか。それは───
アレから逃げたあの日から、吸魔族に関係する話を聞かない。ステラが余程の致命傷を与えたのだろうか、それとも撃破したのだろうか。確認する方法は無い。だが、前者であった場合、どうやったって傷は時間をかければ治るものだ。そしてもう、治るのには充分すぎるほどの時間が経過している。束の間の安寧は、あの人がくれた時間だ。その時間で、少なくとも強くなることはできた。それでも足りない。アレを倒すのにはまったくもって、足りていない。何度覚醒を、それに近しい成長を望んだか分からない。
それに、ヴァエルにはもう1つ悩みがあった。
今まで誰も、ステラにすら伝えていないこと。……ワタシには、妹がいた。おぼろげだが、確かにいた。ワタシと同じで、まともな扱いのされていない子。ワタシは捨てられたが、あの子はどうしているだろうか。ワタシと同じ末路を辿ったか、それとも……。生きているなら手を差し伸べて、救いたい。ただ、ワタシの思想を押し付けているだけかもしれない。それでもワタシの妹なら、生きたいと願うはずだ。もし、アレと生きることを願っているなら、それでも構わない。だがその場合は……。いや、考えても仕方ない。
「すみませ〜ん」
……客か。
来客の声に反応して、そちらの方へ近づく。
「初めまして、ヴァエルさん。貴方様が作る魔導具がそれはもう、素晴らしいとの評判でして、こうして尋ねてきた、という訳ですよ」
「……ほう」
この男を、ワタシは知っているわけではない。
「ワタクシも、ぜひその魔導具を試してみたいと思いまして」
それでも、危険だとワタシの予感が告げる。
「おっと、自己紹介を忘れていました」
……コイツ、人間じゃない。
「ノーブ・ウォートと申します」
らしくないほど焦っているのは、ノーブの気配を隠す能力が高いことに関係しています。ずっと、嫌な予感が付き纏っている、それでもワタシはちっとも進めない。




