身体が追いついていないから
火魔法とストレングスを器用に使い分けて、目に映る敵を倒していく。この前蜘蛛に捕まっていたヤツと同一人物とは思えないほど見違えるような戦い方だった。
「はぁっ!」
残りは後もう少し、そう思ったレングだったがそれが、自覚できないほど小さな気の緩みを生んだ。それが原因だろうか。
「……痛っ!」
全身に強烈な痛みが走る。思わず動きが止まってしまうほどの痛みだった。形勢が逆転してしまった。目の前のオークはこの隙を見逃さず、手に持っている棍棒で……
「こういう時の為、ワタシがいるんだ」
レングの目の前にいるオークに、ヴァエルが作ったであろうクリスタルが、先程までとは違ってさらに大きく鋭く、確実に殺せる形に洗練されていてかつ、とてつもない速さで突き刺さった……というより吹き飛ばした。
「……!」
驚いたレングがヴァエルの方に振り返ると、そこには白い髪に黒色が混ざっており、ヴァエルの魔導具である義眼と義手が、心做しか黒色に濁っていた。
「……これはワタシの責任だな。教えすぎてもいけないのか……。他人に何かを教えるというのは、こんなにも難しいのか」
ステラは、凄いな。
そんな事を思いながら、ゆっくりとレングの方に向かう。近づきながら、魔力を循環させる速さを通常時に戻らせていく。
「すまない、ワタシの失態だな。もう少し身体に慣れさせた方が良かった」
「……大丈夫です。それに、戦いを経験するなら早い方が良いですから」
「オークの討伐は、あの一体で終わりだ。……痛むだろ、肩を貸してやる。帰るぞ」
「……ありがとう、ございます」
現状の問題は、身体が全く追いついていないことが原因で起こっている。だからまずは、身体を作ることから始めさせるか。
────
「身体の痛みはどうだ?」
「だいぶ和らいできました。けど、まだ……」
この前レングが挑んでいた大蜘蛛は、数体いれば話は変わるが、一体だけならそう強くは無い。だが、それに敗北している。そんなヤツが一体や二体そこらじゃない数のオークを相手にして有利に戦闘を進めることはできないだろう。確かに火魔法の使い方や、少しの戦闘の心得は教えた。それでも、あそこまで戦うには足りないだろう。それを可能にしたのは、かつてストレングスを使用していた者──勇者の記憶だ。
つまりは、身の丈に合わない経験を体験できてしまったことで、形だけ立派で中身の無い成長をしてしまったということだ。もちろん、その記憶を噛み砕いて自分のモノにするのはレングの才能がかなりのものであるということの証明だ。だがまあ、そうだな……。
「今日の体験で、戦う事が恐ろしくなったりはしていないか?」
「いえ、特には……」
「ならいい。じゃあ、明日からやる事を伝えよう」
「何を……?」
「魔法の方は今で充分。お前に必要なのは肉体の鍛錬だ。地道にゆっくり、少しずつ……これに、近道なんて無い。それでも、お前が生きるための、強さを望むなら……」
「やります!なんでも!」
「やる気があるやつは嫌いじゃない。少しでも長生きするために、ワタシが教えられることは教えよう。今日は休んで明日、また来い」
「はい!」
────
「さて、今日はまず、ワタシと腕相撲をしてもらう」
「腕相撲……ですか?」
「お前の身体の現在地が知りたくてな」
「でも……ヴァエルさんは、とても華奢に見え……あっ、いや!なんでも!無いです!」
「いや、そんな慌てないでいい。少し修行を厳しくするだけだ」
「……」
「はっ、冗談だ。体質的な関係でな。そう見えるが、力はある方だ。遠慮はするな、全力で来い」
「冗談に聞こえません……。それはそれとして、いきますよ!」
そう言って腕相撲が始まったが、ヴァエルはいとも容易くレングを負かした。
「つ、強い……」
「まだまだ計測していくぞ」
それから、どれだけ重いものを持てるか、やどちらの足が速いか、など様々な計測をしたが、レングが勝てるものは無かった。
「うぅ……強い」
「だいたい分かった。これから、鍛錬を初めていくぞ」
「明日から……ですか?」
「いいや、今からだ」
「……最初のこと、根に持ってませんか」
「ワタシの事をそんなに器が小さいヤツだと思っているのか?」
「い、いえ……」
「長く生きたいんだろ?なら、やるしかないな」
「が、頑張ります!」




