第2話 悪魔崇拝
オーナーに案内され、開かれた事故物件の玄関先。
そこにあったのは、まるで黒魔術のような悪魔崇拝を連想させるシンボルマーク、そして真っ黒な山羊頭の偶像だった。
「・・・・・」
一行はその異様な光景に唖然とする。
「まぁ~そうなりますよね。私も初めてこれを見た時は同じ反応でしたから」
とオーナーはちょっとだけ楽しそうに答えた。
「あ、でも今のところこの偶像が何かあったとかは全く聞かないので、ここはまだ大丈夫だと思いますよ?では中の方へどうぞ」
そう言いながら汚れた玄関先で靴を脱いでスリッパへと履き替える。
「そうなんですねぇ・・・つまりここの家ではそういう悪魔崇拝のようなカルト的な事が行われていたんですか?」
オーナーに続きライターの柴田も玄関に入ると興味津々にその偶像を写真に収め始めた。
「ええ、そうらしいです。結局さっきお話しした家族と思われいた娘らしき3人は血縁関係では無く、ネットか何かで知り合った信者だったそうです」
「へ~・・・じゃあ残りの男性と年配の女性は?」
「う~ん、それも不動産屋の話しでは実は親子だったのではないだろうかって話だけで。確たるものは何もないんですよ」
オーナーは柴田の質問に答えながら廊下を歩いて中へと行ってしまった。
その後を寿々と酒井も追うが、
「酒井さん、録音お願い!」
というと寿々は録音をしている酒井を先に上がるように促した。
「はい!」
酒井もかなり緊張した様子だが、先の二人に遅れまいと慌ててスリッパに履き替えるとパタパタと廊下を急いで駆けて行く。
それを見た寿々は、
『何だか俺が怖くて酒井さんに先を押し付けたようになっちゃったな・・。ごめん酒井さん!』
と密かに心の中で謝罪をした。
玄関のインパクトが強かったからか廊下は至って普通の民家のように見えた。
そして廊下の突き当りがキッチン兼リビングとなっており、先に行った柴田が中に入った途端びっくりした声を上げた。
「え!?・・・・これってどういうことですか?」
その声に釣られて酒井、そして寿々、オカルトラボの朱李と坂口、それから有明も続く。
「え?・・・」
酒井もリビングに入った途端驚きを隠せずに声を上げた。
「どうしたの酒井さん?」
寿々が声を掛けてながら中へと入ると、そこは20畳ほどの大きさなのにまるで今まで誰一人として生活をした事がないんじゃないか、というくらい何も無いただひたすら綺麗な空間が広がっていた。
フローリングは殆どキズも見られない。生活どころかここに踏み入る事すらなかったのかもしないと思うほど綺麗だった。
「え?何でですか?ここってもしかしてリフォームしたとかですか?」
柴田が驚いて聞くと、
「いえ違うんです。本当に1階は生活をした形跡がほぼないんですよ。不気味ですよね?だってこんなに広いんですよ?5人も住んでいてここに入らないなんて事ありえますか?」
オーナーも何度も説明したくだりなのだろうが、それでもこの異様さには本気で気味の悪そうな顔をした。
「朱李さん、どうですか?敷地からここまでで何か変わった事とかってありましたか?」
寿々はリビングに入ってきて同じように驚きながらもデバイスに集中していた朱李に話しかけた。
「いいえ、特に変わった事は何もありません。外の周波数も家の中の電磁波も至って普通の数値ですね。それにしても・・・何なんですかねこの家」
朱李はそう言うと、デバイスと持ちながら右側のキッチンへと向かった。
寿々もそれに付いてゆく。
「本当に5人も人が生活していたんですかね・・・。見て下さい、このキッチン。埃こそありますが、シンクも換気扇もとてもじゃないけれど使用していたようには見えないですよ」
「確かに。それともここ以外にも家の中に別のキッチンとかがあるのかな」
寿々と朱李が話していると、リビングの真ん中でオーナーが説明の続きをし始めた。
「えっと、よろしいでしょうか。この家の使用にあたってですが、いつも皆さんにはこの部屋で待機をして頂くようお願いしております。ちなみにこの先の襖奥は6畳の和室となっていまして簡易的なマットだけは用意していますので、もし仮眠などで必要でしたらご使用ください。ただし、大変申し訳ないのですがそちらのキッチンの使用は事前に連絡しましたとおり、禁止とさせて頂いています。実はそこの蛇口だけは何故か水が出ないようになっていまして、もし水道水が必要な場合は洗面所の方をご利用ください。あとトイレは1階2階共にありますが、こちらは1階のみ使用可能となっています」
と流暢な説明がされると、いよいよ本題へと移っていった。
「まぁここは本当に綺麗なので、こういう感じで人が来てくれても安心してご案内できるのですが、2階は全く別世界のようになっていますのでこちらはちょっと覚悟していおいてください。では上へ案内させて頂きます」
入口のすぐ隣で様子を伺っていた有明は表情一つ変えずに部屋の中のありとあらゆる場所を興味ありげに見渡している。
その横を通り全員が先程と同じ順番でぞろぞろと廊下へと戻り始めた。
リビングを出てすぐ左横が2階への階段となっている。階段の右横がトイレで、そのまた横が洗面所と風呂場だ。
洗面所もトイレも驚くほどの汚さはないのだが、それなりに古めかしさはある。
風呂場に至っては残置物が押し込められているようで使用は不可とのことだ。
そうしてようやく階段を上がってゆくと、上がり切ったところで柴田が思わず声を上げた
「うわ!」
そこはまるで1階の様子が嘘のように夥しい程の残置物と、まるで昨日までここで生活していのではないだろうか、という程の散らかりようだった。
廊下にも様々なゴミが散らばり、足の踏み場を選ばないと何某かを踏みつぶしてしまいそうだ。
当然生活臭も酷い。
「うぁぁ・・・」
前を歩く酒井が一気に気分が悪くなったようにして口を押えた。
「酒井さん大丈夫?無理なら俺代わるよ」
寿々は階段を上がり切ったその場で見るからに荒れ果てた廊下を目の当りにし、既に気分が悪くなった様子の酒井を心配した。
「うぅ・・頑張りたいのは山々なのですが・・・私、ちょっとこういう臭いが本当に苦手で・・」
「いいよいいよ。分かる俺も駄目だけど、多分酒井さんよりかは慣れているから。とりあえずレコーダ―だけ貸して」
寿々がそう言うと酒井は素直に持っていたレコーダーを渡し、気分悪そうに登ってきた階段を下りて行ってしまった。
寿々はその様子を見て、後ろにいた朱李と坂口にも声を掛けた。
「お二人は大丈夫ですか?」
そう言うと、朱李は特になんて事ないといった顔をして、
「僕は大丈夫。まだ耐えられる感じです。坂口は?」
と後ろを見ると、酒井と同様の顔色だ。
「実は俺もこの臭いかなりダメっすね・・・・。あ、でもマスク持ってきているんで!これで何とか乗り切ります」
そう言いながらポケットから取り出したマスクを掛けるのを見て寿々は心の中で、
『俺もマスク持って来ればよかったなぁ・・・』
と自分の不備に少しだけ落ち込んだ。
そうして先に行ったオーナーと柴田に追いつこうと寿々は再び2階の廊下を慎重に歩きはじめる。
二人は階段を上がって右側すぐの部屋へと入っていった。
「どうも、2階が信者の生活空間だったようなんです。ですからほら・・」
そう言いながらオーナーは部屋の奥の机の上に並べられたものを指差す。
そこにはカセットコンロとその上に乗せられたやかんや鍋類、そして僅かなグラスや皿が見て取れた。
「ここで煮炊きしたって、下の立派なキッチンを使わずにどうやって残飯とか捨ててたんですかね・・・」
柴田は足元の残置物を気をつけながら奥の机へと進み、写真を撮りながら不思議そうに話す。
「いやぁ、それは私も疑問だったんですけどね?2階のトイレが1階に比べてかなり汚いので多分そこで全てやっていたみたいですよ?」
「なるほどねぇ・・・。間取り的にはここは2階で一番広い部屋になりますか?」
「そうですね、この部屋が約10畳くらいで、残置物の感じからして多分ここで女性3人が主に生活していたんじゃないかなと思います。・・・では続いて隣の部屋へ」
オーナーは廊下へ戻り隣の洋室を開けた。
「う・・この部屋はまた各段に臭いがキツイですね・・・っていうか2階の臭いってもしかしてここが原因ですか?」
「そうなんですよ。私もここにはまだちゃんと入れていなくて・・・。実はここは60代女性の部屋だったみたいですが、どうもこの中で遺体のまま長い間放置されていたようです」
「だからかぁ・・・。えっと中には入っても大丈夫ですか?」
柴田が質問すると、
「いいですよ?でも床に敷かれた布団あたりは体液の痕なんかもあるので気をつけてくださいね」
オーナーもこの部屋には近づきたくないらしく、鼻を押さえながら道を譲りその場からサッと後退した。
寿々もなるべく近づきたくなかったので自ずと後ろに下がると、その前を朱李がササっと割って前に進んだ。
「え?朱李さん大丈夫ですか?」
驚いた寿々が聞くと、
「大丈夫ではないですが、これも仕事なので」
そう言って足元を気をつけながら果敢にも中へと踏み込んでゆく。
その姿を唖然としながら青ざめた様子で見守る寿々と坂口。
最後に進んできた有明も全く何とも思っていなさそうな様子で部屋へと入っていった。
「・・うわぁ・・流石に鼻で息はできないな」
朱李が顔を顰めながらも計器を扱っていると、すぐ隣に入ってきた有明を見て、
「有明は何でそんなに余裕そうなんだ?」
と聞くと、
「まぁ本職なので、なんて事はありませんよ」
そう言いながら床の残置物と死体があったであろう布団の上をまるで捜査をするように観察し始めた。
寿々も一応この企画の責任者なので、中に入れなくてもせめて入口で様子だけ見守ろうと中を覗き込んでみたのだが、
『うぉあああ・・やっぱ無理!前に史と事故物件に行ったあの時と同じ臭いがする・・・』
と口を両手で覆いながら涙目になった。
しかし中を見て、
「?」
入って向かい側はあまり日当たりの良くない窓になっており、そこが先ほど玄関から見上げて見えた窓なのだと、レースカーテンの状態を見て気が付いた。
『さっき見えてたこの窓、この部屋だったのか・・・。うぅ、とりあえず今は何も視えなくて良かったな・・』
寿々がそんな事を考えていると、柴田がもう無理といった様子で口を押さえながら顔を真っ赤にして出て来た。
「はぁ・・・。あまりにきつかったから途中から息止めていたんですが、限界でした」
するとそれに続くように朱李と有明も廊下へと出て来た。
オーナーは、
「じゃあ2階の最後の部屋ですが、この先になります」
そう言って廊下の突き当りを案内をする。
そこは他の2部屋と比べると比較的物も少なく、むしろ殺風景とも言える和室の部屋だった。
「ここが多分残りの1名の男性が使用して部屋のようです。どういう相関関係なのかは不明ですが、どうも他の信者よりかは高いヒエラルキーの存在だったのかもしれません」
柴田もその部屋を見て、
「本当ですね・・・。残された洋服なんか見ると結構ガタイのいい男性だったのかなって気もしますが、クローゼットの中の服も比較的高そうな感じですし、一番偉かった、ってのは何だか頷けます。・・・となるとこの家はこれで全部って事になりますか?どうも投稿された写真と同じ部屋が無かったように思うのですが?」
と聞くと、オーナーはよくぞ聞いてくれましたとばかりに再び怖い顔をした。
「・・・実はこの家、これだけじゃないんです・・・こちらです」
そう言ってオーナーは和室を出るとそのまま階段を下りていってしまった。
「?」
それを聞いた柴田と寿々は目を見合わせ、互いに嫌な予感とばかりに顔を顰めた。
オーナーに続いて階段を下りて来た一行。
そしてオーナーは再びリビング前まで来ると、階段下にある物置のような扉の前に立った。
「この家、実は地下室があるんです。というかまさにそこがこの悪魔崇拝の本拠地となっています」
と言いながらゆっくりとその扉を開いた。
「うわっ・・・」
一番前にいた柴田ですらその扉の向こうを見て驚愕している。
それもその筈だ。
扉の裏には玄関先にあったあの禍々しいシンボルと同じマーク、そして地下へと続く階段にはびっしりと下地が見えないほど大量のお札が貼られていた。
「悪魔崇拝・・・ではあるんでしょうけれど、どうも独自の宗教観のようで、西洋風なのかと思えがこうやって中にはびっしりとお札が貼られているんですよ。そしてこの物件が事故物件だと言われているのは2階の部屋に遺体があったからだけじゃないんです。・・・実はこの下の地下室で別の複数人の死体が見つかったからなんだそうです」
「ええ!?本当ですか?もし本当だとしてもそれって公表されてないですよね?」
柴田は事前にちゃんとリサーチした筈なのに、地下室の存在も含めその事については全く知らなかったのだ。
「ええ、そうですよね。表向きにはここは2階のあの部屋の事しか出ていませんからね。・・・確かにこの地下であったであろう事に関しては信憑性に欠ける部分もあります。私も不動産屋からは周辺住民からの悪臭の苦情で事件が発覚して、他4人は警察に連行されその後の消息は不明。という報道と同じ話を聞いていました。しかし周りの住民からは、3年前のある夜、突然この家の敷地にパトカー8台救急車5台が入って行って翌日からは立ち入り禁止のテープが貼られていたという目撃情報が多数あるんですよ。救急車5台はちょっと異常ですよね?本当に2階の遺体だけで捜査に入っているのならそんなに救急車が必要なわけがないんですから」
その話を聞いてその場にいた全員が絶句した。
「さ、下を案内します・・・。下には電気が通っていませんので、その壁に掛けてあるもう一つの懐中電灯を使ってください。あと下は通気口はありますが、空調などはないので絶対に無理して入らないでください。何かあっても私は保証できませんので。あくまでも自己責任でお願いします」
そう言って入口の右に掛けてある懐中電灯を指差した。
その懐中電灯を取ったのは一番後ろにいた有明だった。
「私が最後尾なので私が照らしますよ」
自前の懐中電灯を照らしながらオーナーを先頭に、酒井以外の全員がその気味の悪い階段を慎重に下りてゆく。
皆壁に貼られたお札に触れないように気をつけて一歩一歩階段を下りた。
そして一番下まで下りたところで柴田が階段を下り切る手前でピタリと足を止めた。
「うわうわうわ・・・・ちょ、ちょっと!!」
そう言うと急に顔を真っ青にして今下りて来た階段を駆け上がって行ってしまった。
「ええ、柴田さん!?」
まさかの柴田リタイアに寿々も顔が青ざめその場から動けなくなってしまった。
先に行ったオーナーは、部屋を照らすライトだけがチラついて見えるだけで、数段上にいる寿々の位置からはまだ地下の様子を伺う事はできない。
「そんな・・嘘だろ・・・あの柴田さんまで逃げ出すだなんて・・」
そう言って後ろを見て自ずと助けてくれと言わんばかりの顔を見せると、最後尾にいた有明が仕方なさそうに前にる坂口と朱李を除けて下りてきてくれた。
「灯りがないと危険ですからね。私が行きますよ」
と親切にも寿々の隣まで来てくれたのは嬉しかったのだが、寿々だってぶっちゃけすぐにでも上に戻りたい気持ちで一杯だ。
すると必然的に最後尾になった坂口が急に、
「うわぁあ!!い、今背中触れた!!ヤバいヤバいヤバい!!」
と叫びながら急いで上に戻って行ってしまった。
「はぁ?背中を触られただって??そんな馬鹿な」
直ぐ前にいた朱李はどうにも坂口の異常な動揺っぷりを疑うような目で見ていると、
その様子を見ていた寿々も全身をビクっとさせ強張らせた。
坂口がいたちょうど階段の折り返し部分から真っ黒な影に白く眼だけ光らせる者がこちらを見ていたかと思うとひゅっと姿を消してしまったからだ。
「!!今・・そこに目だけ白い黒い影が・・・」
寿々を挟んで朱李と有明も寿々が差す方向を確認するが、すでにそこには誰もいなかった。
「・・・今はもういないようですが。三枝さんどうします?下に行けそうですか?」
何ともなさそうな顔をした有明が質問してきたが、とてもじゃないが下になんて行きたくない。
しかし、編集サイドが全員いなくなったら朱李と有明が下に行く理由もなくなるのだ。
それならばせめて朱李も下に下りることを拒否さえしてくれれば・・・。
「しゅ・・朱李さんは・・?大丈夫なんですか?」
寿々は出来る事ならば朱李もすんなりリタイアしてくれと願ってそう聞いたのだが、
「あぁ・・確かに下りなくていいならその方がありがたいですが、別に僕はまだそこまで心霊とかを真正面から信じているわけでもないので。気持ち悪いですが、寿々さんが行くのならば付いていきます」
そう言われて寿々は無責任にも一番嫌な返し方をされたなと思ってしまった。
「・・・わ、わかりました。じゃあ、あの有明さん、悪いんですがもし俺が気絶したら殴って起こしてくださいね」
と涙目で訴えると、有明はちょっとだけ吹き出しそうになるのを堪えながら、
「・・・わかりました。殴りはしませんが、ちゃんと起こしますよ」
と目線を逸らしながら答えてくれた。
「皆さん?どうしましたか??」
下から聴こえるオーナーの声が真っ暗な部屋の中に反響して寿々は更にビクっと体を震わせる。
「す、すみません・・・今行きますので・・」
寿々はそう言いながらゆっくりと階段を下りた。
そこで見たものは・・・・。
部屋の壁全てが真っ黒に塗りつぶされ、階段同様にお札がべたべたと貼られており。
更にコンクリートの床には真っ赤な塗料で不気味な黒魔術のような円陣が描かれていた。
しかもその円陣。なんと所々真っ黒にくすんだ血痕のような人の形をしたシミがくっきりと残されている。
その数4体。
更に一番奥にある祭壇には逆さ十字を掲げ、その前に玄関先にあったあの真っ黒な山羊頭の偶像が鎮座していた。
そして何よりも不気味だったのは、その祭壇前に置かれた血を抜くための石の台だ。
「・・・・・」
寿々はそれを見て身動きが出来なくなった。
声すら出す事もできない。
何故ならば、その石台が岐阜県のあの〝皮裂村〟にあった〝御光の母〟の祭壇にあったものと恐ろしく似通っていたからだ。
『いやいや・・・そんな筈はない。だってここは〝御光の母〟と関係するようなものは何もなかった・・。それに〝御光の母〟には男の信者はいないはず。こんな悪魔信仰でもないし・・・石台なんてそんなただの飾りみたいなものだろ?』
隣で周波数系を計っていた朱李もその光景に唖然として動きが止まってしまっている。
しかしオーナーが持つライトの灯りに照らされた血痕のような跡を見た途端、朱李は「ひっぃ・・」と小さく声を上げたかと思うと、口を覆うようにして急いで上へと走って行ってしまった。
「へ・・朱李さん!?」
寿々も顔を真っ青にしながらも、こっちはこっちでもう腰を抜かしそうなのだ。
朱李を追いかけて一気に階段を登ることなど不可能だった。
それを察した有明は、寿々の身体を支えるように腰にぐいっと手を回した。
「まったく・・だから言いましたでしょ。そんなに何でもかんでも自分一人で背負わなくてもいいんだって」
「あ、ありがとう・・・ございます・・」
ほぼ失神しかけていた寿々は、物凄い冷や汗と恐怖からの涙でベショベショになった顔で有明に感謝するしか出来なかった。
「どうしましょうか、ここの説明はもうよろしいですか?」
寿々は何であのオーナーはこの部屋をあんなにも普通に説明できるのか全くもって理解できなかった。
商売の為?それともこういう反応を見られるのが楽しいから?
何にせよ、投稿された写真はこの場所で撮られたのは間違いなさそうだった。
今はそれが確認できただけでもまず成果の一つとしなくてはならない。
寿々はもう二度とここに入りたくなかったので、有明に支えながら必死に震える手でスマホを構えその場所の写真をパシャリと写した。




