第1話 カルト
7月上旬
月刊アガルタでも次第に人気が上がっている〝心霊写真徹底検証コーナー〟。
最近はSNSでもこの記事が取り上げられ大きくバズったこともあり、ついに前回の企画会議で、通常2Pの記事が10月号では特別拡大版として5P分掲載されることが決定していた。
しかもその中の最低2枚分は実地検証を行わなくてはいけない。
全体的な配分は心霊写真7枚。
これはすでにライターの柴田と共に投稿されてきた写真をかなり注意を払って厳選した。
何故ならば、どうもこの投稿の中に編集部とラボを狙った悪意あるものが含まれている可能性が高くなってきたからだ。
その日、アガルタ編集部からはこのコーナーの担当である三枝寿々と酒井、そしてライターの柴田。科学検証を担当とするオカルトラボからは所長の東海林藍李、そしてこの企画の担当者である妹の朱李。
更に警視庁からのラボの警護を担当としている有明の6人が集まりこの企画の方針とこれからの事について、新宿にあるオカルトラボの所長室に集まり打ち合わせを行っていた。
「いいえ、絶対にそれだけは断固拒否します!」
会議が始まり、寿々が方針の詳細を記した企画書(改訂版)を読み上げると、すぐに朱李の方から怒りの声が上がった。
「・・・・朱李さん。気持ちはわかるけれど、やはり朱李さんが実地検証に赴くのは年齢や性別も含めてとても危険な事だと我々アガルタは判断したんだ」
そう言うと寿々は、持っていた資料をパタリと目の前のテーブルに置いて極めて冷静に話し始めた。
「前回のゲームセンターの件。あれもただの夢だったと片付けてしまえばそれまでです。ですが、問題はそこではありません。あの写真、アガルタは勿論、オカルトラボ。いえ、朱李さんをターゲットにしてきた可能性が高いんです。そんな状況の中、俺は正直この企画をこのまま続けるべきなのか、とまで考えています」
「・・でもそれについては、僕をターゲットにしてきたという証拠は見つかっていないんですよね?だったらまだそんな分からない事を鵜呑みにしすぎなくてもいいじゃないですか!?」
朱李は寿々に向かって怒るように言い返した。
「でも・・今後また何かあって、この企画が原因で朱李さんが危険な目に遭うのは絶対に嫌なんですよ」
寿々は冗談ではなく、本当にそれがどれだけ危険な事なのか身をもって理解している。
特にその裏に、あの常天統合府の佐藤が絡んでいるのだと思うとそれだけで身震いがした。
「・・・・・」
朱李も寿々にそこまで言われてしまうとどうすればいいのか分からず俯いてしまった。
その様子を一人デスクチェアに座って聞いていた有明がスッと手を上げた。
「どうしましたか有明さん?」
寿々は左隣に座る有明を見て質問を返す。
「・・・企画内容についてどうこう言うつもりはないのですが。ただ、私は是非とも朱李さんには実地検証をこのまま続けて頂けたらと思っています」
「え?・・・」
寿々は有明のその発言に酷く驚き、何を言っているんだと眉を寄せた。
「真面目な話、朱李さんが現場に行く行かないも、あまり関係ないと思います。何故ならもし朱李さんを狙っている人物がいるのならば、それは恐らく朱李さんを知っている人物だからです。心霊写真など使わなくても本来ならば朱李さんを直接狙って来られる立場なのだと思います。前回そうしなかったのはその被疑者が通常ではそれができない状況にあったからだと。つまり、ここにいても現場にいても向こうが本気で襲って来ようとすればいつでもできてしまうわけです」
「じゃあ、もし万が一現場に行って何かあったらどうすればいいんですか?」
「そうならない為に私がいるんですよ三枝さん」
有明がそう言うと、所長室にいる全員が黙り込んでしまった。
そしてそこまで腕を組んで悩んでいた所長の藍李がようやく口を開いた。
「言わせてもらうが。・・・私は朱李を目に入れても痛くない程大切な妹だと思っている」
藍李は堂々と皆の前で公言する。
「はぁ?今それ言う??」
朱李は藍李のシスコンぷりは勿論理解していたが、まさか皆の前で言うとは思ってもおらず、思わず顔を真っ赤にさせた。
「でも、だからと言って私が朱李のやりたい事を制限していいとは思わない。私もオカルトに関心を持ち、しかしながら科学者としてそれを真面目に研究して商売までしてゆこうする破天荒な人間だ。その探求心を他者から抑えつけられるなどとてもじゃないが耐えられない」
藍李はゆっくりと組んでいた長い脚を下し、資料に目を向けた。
「それに私一人で朱李を守るのも限度がある。今はこうやって有明が定期的にここに来てくれる事で我々の身の安全に大きく役立ってくれている。勿論絶対的な信頼を置いて油断をしているわけではない。それでも朱李の問題を早期に解決する為にも今は変に固定された行動を見せないのも大事なのだと私は思う」
「藍李・・・・」
藍李の隣で朱李がその言葉に感動していると、寿々はその様子を見て目を落とし力なくため息をついた。
『みんな分っていない・・・。佐藤が・・・常天がどんな奴らなのか・・・』
寿々の脳裏には常天によって、まるで紙切れを捨てるように心無く殺された知念勇也の、そして利用されあの世で別れたこの世に生まれる前の魂、アイナの顔が思い浮かんでいた。
その落胆した寿々の顔を見た有明は声を掛けようか少しだけ迷ったが、今ここで聞く事の出来ない話にも触れると思い、ひとまずは押し黙った。
「というわけで。今回の企画、2ヵ所とも実地調査には僕が立ち会いますので」
朱李はそう言って寿々を見た。
寿々はちょっとだけ間を置いてから、
「・・・分かりました。我々アガルタもなるべく事前に詳細なリサーチをして検証に関しては万全を期したいと思います。・・では、早速その今回の拡大版の心霊写真の概要についての説明をしていきます。・・・資料の5Pを見て下さい。こちらが今回実地検証を予定している1枚、東京都A市にある事故物件で撮られた写真になります・・・」
打ち合わせが終わる頃にはすっかり歌舞伎町は夜の賑わい見せ、通りも一段と多くの人が往来していた。
最上階にあるオカルトラボから下りて来た寿々と酒井、そして有明はエレベーターから降りると一緒にビルを出る。
一方柴田は他の雑誌の打ち合わせがあるとかで、一足先にラボを後にしていた。
「・・・では有明さん。俺もここで失礼します」
寿々は打ち合わせからずっと冷静な、とういうよりかは落胆したような疲れた表情で思わず有明は心配になり声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「え?何がですか?」
「いや、あまりに思い詰めた様子なので」
有明にそう言われて寿々も思わず愚痴を漏らすように言葉が出てしまった。
「そりゃあ・・思い詰めもしますよ。本当に何かあってからじゃ遅いのになぁ・・・」
その言葉を聞いて有明はすっと右手首の腕時計を見た。
「三枝さん、このあとちょっと時間ありますか?」
「え?」
思いがけず有明から誘われ、寿々もこの企画の内容含め朱李への対応をちゃんと伝えられるのは有明しかいないと思い、その誘いに素直に応じる事にした。
「ごめん酒井さん、俺有明さんとちょっと話があるんでここで失礼するね。あと今日はこのまま直帰していいから。編集長にも伝えてあるし」
そう言うと酒井も少しだけ心配した顔を見せたが、素直に従い、
「わかりました!・・・本日もお疲れ様でした。また明日もよろしくお願いします!・・では」
とだけ応えるといつもの笑顔で新宿駅へと向かって行ってしまった。
「・・・さてと。どうしましょうか?有明さんはまだ仕事中になるんですか?」
「いえ、時間はもう過ぎているので業務中ってわけじゃないですが。でも車で来てるので酒は飲めないですね」
すると突然寿々のこめかみ辺りにムズムズするような妙な感覚が降りてきた。
『あ・・・これは・・・まさか前にもあったやつか?』
寿々が右手でそのムズムズを摩っていると、
「?どうしましたか?・・・もしかして誰かに呼ばれていたりします?」
「え!?どうしてわかったんですか?」
寿々は思わず驚いてしまった。
「ほら、私の能力については話しましたでしょ?内容は分からなくてもそういうのが飛んでいるのは何となく分かるんですよ。ちょうど周波数は違うけど無線の電波が流れているのは分かるみたいな感じでね」
と有明は笑って答える。
「なるほど。じゃあまぁ、呼ばれてもいるので近くに知り合いの店があるのでそこに行きましょう」
そう言うとそのまま寿々はゴールデン街にあるシンディの店へと足を運んだ。
そして扉をあけ、
「こんばんは・・。シンディさん何か用事でもありましたか?」
と言いながら入ると、カウンターの中にはいつも明るい笑顔のシンディと隣には史の従兄弟、迦音が並んで立っていた。
「寿々~!用事も用事よ!!見て!今日から本格的に迦音がお店で働いてくれることになったの~!!きゃ~!嬉しい~!」
シンディはそう言いながら、隣に立つ迦音へと抱き着いた。
「もう、シンディさんオーバーですよ・・。寿々さん、色々とありがとうございます。私まだ接客に自信はないけれど、シンディさんも本当に優しくしてくれるし頑張ってみようかと思います」
迦音はそう言って高い身長を丁寧に折り曲げ頭を下げた。
「良かった。迦音さんが何か新しい事に挑戦してみようって思えるようになった事が俺も本当に嬉しいよ!頑張ってね」
寿々はその様子を見て元気を貰えたのか思わず笑顔になった。
するとその後ろにいた有明にようやく気付いたシンディは、
「それより寿々?連れの方は仕事関係の?」
「あ~えっと・・・」
そう言うと有明は飄々とした顔で胸ポケットから手帳を取り出すと二人に提示し、
「警視庁捜査共助課の有明です」
と自己紹介をした。
「え?刑事??寿々何か悪い事でもしたの!?」
シンディは急に真剣な顔をして質問をする。
「違いますって・・ってか冗談が過ぎますよシンディさん。俺みたいな小心者に何ができるっていうんですか・・。有明さんは俺じゃなく、アガルタのクライアントさんの方の相談役として付いている刑事さんなんです」
そう言いながらまだ誰も客のいないカウンター席に腰を掛けた。
「そういうことです。ところでまだお店はクローズでしたが入っても大丈夫でしたか?」
寿々も最近は時々こうやってシンディにまだお店が開く前に呼び出されたりする事が多く、あまりその辺の事を気にしなくなってきていた。
「ああ~気にしないで!何か話があるんでしょ?そうじゃなきゃ寿々が刑事なんて連れてここに来りしないもの!ゆっくりしていって!」
そう言ってシンディは指をヒラヒラとさせウィンクをすると、狭いカウンター奥の調理場に移動して迦音に指示をしながら色々と仕事を教え始めた。
有明も寿々の隣の席にそっと座ると、寿々はカウンター向こうに並べられたボトル棚をぼうっと見つめながら話し始めた。
「・・・あのあと、佐藤について何か分かりましたか?」
寿々がそう話し始めたので有明もこの話題をここでするのはどうなのかと思ったが、詳しい内容には触れずに伝えられることだけ伝えようと慎重に口を開いた。
「いえ・・・。ただうちの部署の中尾。この前現場にいた一人ですが、それがどうやら佐藤の事を知っていたようで。まだ詳しい話は聴けていないのですが、どうやらあそこには佐藤と他に二人の人物がいたようなんです」
「二人・・?それは佐藤の知り合いなんですか?」
「そうみたいですね。お面を被っていたので顔まではわからなかったとのことですが・・・。どうやらまだ子供のようで」
「子供?」
寿々はそう言われてハッとした。
「まさか・・・あの、一人は女の子じゃなかったですか?おかっぱ頭の」
「会った事があるんですか!?」
有明は少し驚いた様子で隣を見た。
「いえ・・直接ではなくあれは完全に夢の中の事でしたが。例のThis Manの時に・・」
「なるほど・・・であればそうなのかもしれません。それで今回朱李さんの身の周りで起きている事を鑑みると、やはり彼女の身辺にいる同い年くらいの人物を調べ、更に証拠を掴まないといけません。ですからこちらとしても慎重にならざるを得ないんです」
「・・・そうなんですね。・・でも、それでも現場に連れていって何かまた良からぬ怪異に巻き込まれたらと思うと」
有明はその寿々の朱李に対する感情をやや疑問に思い、
「三枝さんは、朱李さんの事をどう思っているんですか?」
とだいぶ直球な質問をしてきた。
「ん?どう・・とは?」
寿々は有明の質問の意図が全く分からず、本気で眉間を寄せ首を傾げる。
「いえ、三枝さんから見たら朱李さんて、ただの取引先の職員の一人ですよね?当然特別な感情を抱く対象でもない。何でそこまで我が事のように心配をする必要があるんでしょうか?」
寿々は有明のその極端に割り切った人間関係の捉え方があまりにドライすぎてビックリしてしまった。
「心配するでしょ!?え?俺っておかしいですか?ていうか有明さんは心配じゃないんですか?朱李さんの身辺警護をしているのに??」
「・・・・・・」
有明は少しだけ寿々の反応を観察するように見た後、ゆっくりと視線を前へと戻した。
「それはただの任務であってそこに私情は全く必要ありません。貴方にとっては私のこういう態度はとても冷たいと感じるかもしれませんが、それが刑事という仕事なんです。ですが・・」
そう言うと再び寿々へと顔を向ける。
「三枝さんはちょっと思い詰めすぎじゃありませんか?朱李さんに何かあったら全部貴方だけの責任になるんですか?そんな事はないでしょう?何もかも貴方が一人で背負う必要はないんです。もし、自分のせいで何もかもが悪い方向へと引き寄せられている、なんて少しでも感じているのならばいい事を教えますよ。それはただの思い上がりです」
有明はそう言ってにっこりと笑った。
しかし寿々はその言葉に反論するわけでもなく、ただ怯えるようにカウンターの上で組んだ手が震えるのを必死に抑えようと力を込めた。
「・・・そうでしょうか・・・本当にそうでしょうか?思い上がり・・・そうだったら本当に嬉しいです・・」
「ええ勿論です、この私が保証しますよ。それは間違いなく思い上がりです。この広い宇宙の中でたった一つの存在が誰かの運命を変えてしまうだなんて馬鹿げた話です。もし本当に変わったとしたら、それはたった一つの存在が原因なのではなく。周りにいる存在全員の責任なんです。そうでしょう?」
「・・・・・・・・」
寿々は有明にそう言われて、不思議と少しだけ心の奥のモヤモヤがスッと軽くなったような気がした。
「では、私はこれで失礼します。業務は終わってますが、車は本庁に戻さないとなので」
そう告げるとすっと席を立ち、そのまますぐ近くの店のドアに手を掛けた。
「有明さん!・・・すみませんでした。気を遣って下さったんですよね?俺があまりに思い詰めた顔をしていたから・・」
寿々も急いで席を立って有明にお礼を言うと、有明は少しだけ間を置いてから振り返り、
「そこまで重い話じゃありません。ではまた土曜日に、失礼します」
と普段通りの涼し気な顔で微笑み出て行ってしまった。
カランカラン・・・とドアチャイムが鳴って店内に響き渡ると、背後からシンディがメロついた声を上げた。
「ぃやだ~~!寿々~、どうしたのよあのイケメン刑事!どうすればあんたの周りにはあんなにも眉目秀麗男ばかり集まって来るの??」
「はいぃ?・・・そりゃあ確かに有明さんはクールなイケメンですけれど。俺は自分の周りに凄い人達が居すぎて毎度自分の凡庸さが本気で嫌になるだけですよ」
「・・・史と一緒にいるのに?まさかそんな事考えてんのあんた?」
「それはまた別の話です!史はいいんです!そりゃあ付き合う前までは結構コンプレックスでしたけれど・・・今は全くそんな事思ってもいませんよ。むしろちょっと誇らしいというか・・何と言うか・・」
顔を真っ赤にさせてながらそう言うと、シンディと迦音は目を合わせて互いににんまりと笑った。
「やだも~~寿々が惚気てるなんて貴重だわ!」
「その通りです!もっと普段からそういうの話してくれてもいいのに・・・」
「だぁあ!もー!俺の事はいいから!ほら、そろそろ店を開ける時間じゃないんですか!?」
寿々は更に顔を真っ赤にさせながら話しを中断させようと両手を振った。
その週の土曜日
オカルトラボ職員坂口の運転で、寿々そして酒井、ライター柴田、ラボの担当・朱李そしてその警護として有明の6人でA市にある事故物件までやってきた。
現場に到着するとすでにそこのオーナ―が敷地前で待機しており、寿々は車から降りるとすぐに名刺を差し出して頭を下げた。
「この度はアガルタの取材にご協力頂きまして本当に感謝いたします」
「いえ、いいんですよ~。ここの物件取り壊すのもお金が掛かるから、防犯も兼ねてこうやって頻繁に人に来てもらっているので、こっちとしても逆に助かっているんです」
そう言われて寿々もきょとんとしながら、
『あ~なるほど。最近は事故物件というとこうやってメディアや動画配信者とかがすぐに取材したがるから。防犯と多少なりとも収益があればそれなりに美味い商売になってしまうんだろうなぁ・・・』
と少しだけ心の中で呆れもした。
「ささ、もう夕方ですし暗くなる前に中を説明させて頂きますね」
そう言ってオーナーは案内慣れした口調で、まるで観光ガイドの如く一行を敷地へと招き入れてくれた。
寿々は酒井に指示を出してレコーダーとスマホで録画をするよう促し、柴田も同じように機材を取り出し寿々のすぐ後ろに付いてオーナーの案内を詳しく聞けるよう体制を整える。
オカルトラボは車を降りたところから周波数測定器や電磁波測定器を動かし、とにかくできる限りのデータを収集する事に務めた。そしてその一行の最後をいつもと変わらず黒スーツを着た有明が見守るように歩く。
すると柴田が先に立ってオーナーの横に近づき質問をし始めた。
「あ、私ライターの柴田といいます。えっと、ここは事故物件と聞いていますが、その内容について詳しく聞かせてもらってもいいでしょうか?」
「そうですね。実はここは今私がオーナーになっていますが、元の所有者は別の方でした。なのでこれは不動産からの又聞きになりますが、・・・事故というか事件があったのは大体3年くらい前だという事です。当時ここの家の所有者は一見普通の5人家族だったそうです。60代くらいの女性。そして30代か40代くらいの息子、そして3人の娘と思しき5人。近所付き合いも普通で特に変わった様子はなかったようですが、ただ時々その子供達が真夜中真っ黒なマントのような布を纏っているのを見かけた。なんて噂があったそうです」
そういいながらオーナーは玄関までやってくるとくるりと振り返り、
「あの、詳細はまた中に入りながらお伝えしますが、まず玄関に入った時点で結構衝撃的なので注意してくださいね」
まるでお化け屋敷の前のお決まりアナウンスのように不気味に微笑んだ。
「はは、やだな~あまり驚かさないでくださいよ~」
柴田もオーナーがふざけているのかと思い釣られてヘラヘラと笑ってみせた。
外観はやや年季があれど大きさも立派でいかにも平成の金持ち、といった雰囲気のある一軒家は、今では外壁も汚れでくすみ、かつて庭だったであろう家の前はすでに雑木林状態だ。
更に家の裏手は山の斜面となっており、よりいっそうその禍々しさが引き立つロケーションとなっている。
その裏山ではアブラゼミがけたたましい声を上げて大合唱をしていた。
寿々は改めてその家の様子を見て急にぞっとした冷たいものを背筋に感じた。
まるで誰かにじぃっと見られている。そんな感じだ。
そっとそのままあとずさりをする寿々。
そしてふと二階の窓を見上げた。
「・・・・・・」
締めきった窓の奥でボロボロの白いレースカーテンが掛けられ、その隙間が異様に気になったが勿論そこには誰もいなかった。
『やっぱり史も一緒に来てもらった方が良かったかも・・・』
急に弱気になった寿々は顔を真っ青にさせながら冷や汗を拭った。
今朝の今朝まで史は絶対に一緒に行く!と駄々を捏ねて仕方がなかったのだが、生憎今日は土曜日で、土曜出勤が通常シフトとなっているアルバイトの史はそうは言っても休むわけにもいかない。
寿々はそれを宥め、さらに嗾けて何とか仕事に送り出したのだ。
しかも史は数日前に左手を負傷しており、もし今回一緒に来ても透視などの呪力を使う事も出来ずそれもあって、寿々は今回は史に甘えずに自分だけで仕事をする覚悟でやってきた。
なので今更やっぱり怖いから来てくれだなんて言えるわけがなかった。
しかし・・・。
『怖いもんは怖いんだよ!!』
そう思い尻ごみをしていると、背後にいた有明にドンとぶつかった。
「!!」
寿々は全身をびくぅっ!!とさせ、ゆっくりと振り返る。
「三枝さん?大丈夫ですか?顔が真っ青ですけど」
思わず有明にでも縋りついてやりたかったが、そこは何とかぐっと堪え、
「あ、ははは・・・全然駄目ですけど。これも仕事なので・・・」
と言うと再びそろりそろりと重たい脚を引きずるように元の位置へと戻って行った。
ガチャリ・・・・
年季の入った引き戸の鍵が大仰な音を出してその封印を解くと、オーナーがその建付けが悪くなった引き戸を力いっぱいガラガラガラ!という音と共に開け放った。
「!!!」
そして開いた玄関の中を見た全員が、その光景を見て凍り付いた。
開けられた扉の真ん前には、黒く塗りつぶされた壁に悪魔信仰のシンボルマークのようなものが赤い塗料でデカデカと描かれ、その前には怒り狂った真っ黒な山羊頭と人の身体、黒い翼持つ大きなバフォメットの偶像が鎮座していたのだった・・・・。




