第7話 ウェアウルフ
「・・・・・・ホラーゲームですね」
史はそのタイトル画面を見てそう呟いた。
「いやいや史?絶対に違うと思うけど?一体どこからその考察やってきた??」
寿々は史の発言に驚きながらツッコミをいれる。
「だってほら、タイトルを見て下さい。〖エクス・カルテット〗つまり特別な5人の関係、そして何よりも副題が〖緋の彼方のシンドローム〗。これはもう絶対に殺し合いをします」
しかし史は決してボケて言ったわけではなく自信ありげに答える。
「・・でもどう見てもタイトル書体がホラーな雰囲気じゃないぞ?しかも年齢制限があるし、つまり18禁要素を含む恋愛シミュレーションなんじゃないのか?」
寿々はその落ち着きっぷりにかえって焦りながら聞き返すと、
「そうかもしれませんが、俺的には終盤は登場人物の痴情のもつれで全員が殺し合いになるんだと予想しますね」
と何も問題なさそうな顔で話を続ける。
その言い方も含めて寿々は、何だかいつもの史らしくなくて不安になってきた。
「・・だって、登場人物もわからないし。史は嫌じゃないのか?」
そう少しだけ声のトーンが落ちた寿々を見て、史は真剣な眼で答えた。
「いいですか?これはあくまでもゲームです。それに俺は寿々さんの分も含め5万点を目指さないといけません。たとえどんな内容であってもここは全てを冷静に捉え、判断し、一発でトゥルーエンドを選択しないといけないんです。ですからエロや残虐演出があっても絶対にこれが俺個人の意思だと勘違いしないで下さい」
「・・・そうは言っても・・」
そうは言っても寿々は目の前で史が見知らぬ登場人物達とイチャイチャしたあげく、殺されそうになるのを見るのだけは絶対に嫌だった。
どうすればいいのか悩んでいると、
「駄目です!!」
と有明が腕を組み本気で怒った顔をして史をしかりつけた。
「何言っているんですか有明さん?ダメって言ってももうこのゲームは始まっているんですよ。それにこれで俺が最低2万点を獲得しないと全員で脱出出来ないんですよ?」
「でも絶対に駄目です。何故ならば、朱李さんはまだ17歳です。だからこのゲームを進める事は私が許しません。まさか私が警察だって忘れていませんよね?」
「・・・・・・」
そう言われ、寿々と史は顔を見合わせた。
寿々は有明の言葉が嬉しくもあったが、同時にどうすればいいのか分からなくなってきてしまった。
「・・・・・まさかと思いますが、有明さん。俺にスキップを使わせようと言うんですか?」
「そうです。こればかりは仕方ないと思って下さい」
「でも3万点ですよ?正気ですか?このあと寿々さんが5万点獲得のプレッシャーを背負う事になるんです。でないと俺達は全員で脱出できないんですよ?」
「・・・・・・・・その時は覚悟を決めましょう。一人だけを救います。候補の優先は言うまでもなく朱李さんです」
有明と史の間に不穏な空気が流れた。
無言で睨み合う両者。
そして寿々は、スキップさせたとして、本当に自分が5万点獲得できるのか・・・。やはり自信など全くなかった。
それでもこればかりは覚悟を決めなくてはならない。
「・・・史。スキップしよう。俺、5万点を取れる自信は全くないけれど。それでもやってみるよ・・」
と寿々は恐怖で引きつった顔を向けたが、史はその顔を見て胸が締め付けられた。
実際冒頭のイベントだけでもクリアして、少しでも点数を獲得してからスキップしてもいいのではないかとそう思っていた。
しかしそれを有明に説明しても、きっとダメの一点張りになるのは間違いなさそうだ。
それに無理矢理先に進めれば、有明は本気で処罰を受けさせる気だろう。
そこまで行ってしまえば、寿々と史を引き込みたい有明にとっては逆に願ったりかなったりになってしまう。
「3万点・・・・」
史は更に苦い顔になった。
すると近場の教室の中で椅子に座って様子を伺っていた朱李が立ち上がった。
「僕の事はあまり気にしなくてもいい、と言いたい所だけど。どうにも秦さんの恋愛シミュレーションなんて吐き気がするので見ないで済むならありがたいです。確かに3万点は相当痛いけれどこの際否定はしません。それともし次のゲームで三枝さんが点数を獲得できなかったとして、一人しか脱出できない場合も、もう一度その時に誰が外に出るかをしっかりと話し合いましょう」
史はもう一度寿々を見ると、
「本当にいいんですか?」
と問いかける。
「・・・・・・・・・ああ」
震える声で頷くと、史は頭を掻きながら筐体へと近づいた。
そしてオプション画面を開き、項目に載っている〖スキップ〗にカーソルを合わせそれを決定した。
再びバチンと電気が落ちるように辺り一面が真っ暗になり、筐体だけがどこから照らされているのかも分からないスポットライトの中に浮かび上がった。
今まで制服とジャージだった姿も全てキャンセルされ、全員元の服装へと戻されている。
「・・・寿々さん」
そう言って史はスポットライトに照らされた筐体から離れ、寿々に操作を促した。
ゆっくりと近づく寿々。
寿々はその中に映るスタートの文字前で点滅するカーソルを見つめた。
「・・・・・・・・」
『本当にこれで良かったのだろうか?』
そんな思いが何度も駆け巡った。
しかしもうそれを考えている場合でもない。
寿々はまだ覚悟ができないまま、決定ボタンを震える指で押下した。
カチリ・・・・・。
【ミーーン、ミンミンミンミン、ミィーーーー・・・・】
暗がりから明けると急に肌と目を刺すような強い日差しが飛び込んできた。
しかも今スタートしたばかりだと言うのに、すでにその日差しで熱せられた地上からの照り返しが全身を襲う。
そうだ。これは紛れもない真夏の熱気。
「・・・・・なんだ?」
寿々は目が慣れてきて見えてきたその光景に驚愕した。
「そんな・・・嘘だろう・・・」
そこは、2歳から14歳の幼少期を過ごした懐かしき我が家だったからだ。
家の前の通りに人や車などは無かったが、そこからブロックの塀を超えると母と亡くなった父が中古で購入した群馬県桐生市の平屋の民家が建っていた。
寿々が中二の時に母真紀と義理の父三枝彰が再婚した後は売りに出され、既に所有権はなくなり確か数年前にこの家は取り壊されたと真紀から聞かされていた。
しかし今自分の目の前にはしっかりと住んでいたあの頃と同じ状態で存在している。
寿々はふらりふらりと歩みながら敷地内へと入っていった。
「・・・・まるで本物みたいだ」
これがゲームの中だと分かっているのに何故かそのリアルさに驚きを隠せない。
そして毎日開け閉めしていた両開きの門に手を差し出し、違和感に気付いた。
「あれ?」
そう言って自分の手、腕、脚全てを確認する。
すると自分の身体がいつも以上に痩せこけて縮んでいる事に気が付いた。
「まさか!俺子供に戻ってないか??」
そう言ったところで背後から、
「三枝さん!?」
と声の高い女の子の声が聞こえてきた。
「え?」
振り返るとそこにいたのは、明るい茶髪の背の高いボーイッシュな小学生の女の子。
でも顔は間違いなく朱李そのものだった。
「もしかして、朱李さん??」
「そうみたいです。自分でも驚いたのですが、これって今度は見た目が小学生の頃に戻ったって事なんですよね?」
朱李も驚いているようだったが、
「・・それより、有明と秦さんはどこに行ったんでしょうか?」
そう言われて寿々もハッとして、辺りを見回した。
すると、敷地の入口脇に立つ一本の電柱の影に、何やら怪しい人物がこちらを見ているのが目に入った。
「・・・?あれは・・・」
寿々は電柱へと近づきその隠れている人物に目を向けた。
「有明さん?」
そこのいたのはこの真夏だというのに長ズボンに上は長袖のフードパーカーを被り、顔を覆うように隠す一人の少年。
一瞬ちらっとだけ見えた目の色から、子供になった有明のように見えた。
しかし有明は必至に顔を隠すようにフードを深く覆い、袖から手も出さず何だか様子がおかしい。
「あ、はい。そうです・・・」
何とも歯切れの悪い返事が返ってきた。
「え?どうしたんですか?そんなところで。ちょっと皆で作戦会議をしたいのでもっとこっちに来てもらってもいいですか?」
寿々はそう言って促すと、
「いやぁ、私はちょっと今回はここで待機させて頂いてもいいでしょうか?」
と更に怪しい返答が返ってきた。
「どうした有明?今更子供の姿になったくらいで僕も三枝さんも驚く事は何もないぞ?」
朱李もその様子が気になったのか、腕組みをしながら有明に声を掛ける。
しかし、
「いえ。本当にすみませんが・・・」
と本気で気まずそうな雰囲気で後ずさりをしていると、その背後から急に勢いよく1m近い大きな灰色の影が敷地内へと走り込んできた。
「え!?」
寿々は自分を通り過ぎて一目散に門へと駆け寄ったその生き物に腰を抜かしそうになった。
その生き物は後ろ脚で立ち上がると、大きな体を門へとぶつけるように手を掛けた。
「ウォン!!ウォン!ウォン!」
「・・・ひゅ・・日向吾!!?」
寿々がそう言うと、ようやくその声に気が付いたスウェーディッシュ・エルクハウンドの混種は、寿々に向かって飛びついてきたのだった。
「うわ!」
日向吾は寿々へ飛びつくと顔中を長い舌でベロベロと舐めまわす。
「ちょ・・やめてくれ・・はは、やめろって日向吾!」
寿々はその姿に驚きながらも本当に嬉しくてついつい朱李と有明を置いて、その場で日向吾をぎゅーと抱きしめた。
「そうか、このゲームは俺の子供の頃の世界が舞台なんだな。だから日向吾もいるのか・・・・・ん?」
と日向吾を撫でまわしながらふと疑問が湧き上がった。
そしてそのまま真顔で日向吾を見つめる。
「・・・・・・・・・という事は史は何処に?」
そう言われて朱李はもう一度回りを見たが、通りにも敷地内にもそれらしき人物は見当たらない。
「・・・どこにも秦さんらしき人はいないです。おかしいですね。今まではゲームへ入ると皆一緒の場所にいたはずなのに」
朱李にそう言われて寿々はゆっくりとだが顔色が変わっていった。
そして再びベロを出してはぁはぁと息を切らす日向吾を見つめ呟いた。
「・・・まさか。史か?」
「ウォン!」
日向吾はその問いに大きく太い鳴き声で返答をした。
「「えええええ!!!」」
寿々と朱李は同時に同じトーンで声を上げた。
その声に驚いたのか、慌てたように門が開くと中から寿々の母真紀が心配そうに出て来た。
「あらあら、こんな暑いのにそんなところにいたらみんな熱中症になっちゃうわよ?とにかく、早く家の中へ入って?」
そう言って全員に声をかけた。
真紀の登場で更に喜んだ日向吾こと史は、ピョンピョンと飛び跳ねながら真紀にも飛びついた。
「はは、ほら日向吾もあまり元気すぎるとバテちゃうのよ?もうお爺ちゃんなんだから落ち着いて」
と嬉しそうに飛びかかる日向吾を抱えると、ゆっくりと地面へと下した。
「朱李さん。詳しくは中で話すけど。とりあえず今は、俺の同級生ってことで合わせておいてください。それと、俺はまだこの頃〖三枝〗の苗字じゃなかったので、呼ぶ時は寿々でお願いします。有明さんも!」
と小声で話しながら最後にもう一度まだ電柱の影に隠れている有明にも声を掛けた。
「わかりました・・」
朱李はそう言われ、ちょっとだけ嬉しそうにしている。
「あ、あの。こんにちは、僕は寿々・・くんの同級生の東海林朱李といいます」
朱李はそう言って真紀に丁寧に頭を下げた。
「あら、丁寧な挨拶をどうも。寿々の母です。いつも寿々と仲良くしてくれてありがとうね。とにかく、皆中へ入って?」
そう言いながらひっつく日向吾の背中を摩るように押し、更に寿々と朱李と有明に手招きをしながら中へと入って行ってしまった。
「さ、朱李さんもとりあえず中へ入って!」
寿々が言うと、朱李も従うように先に門の中へと入ってゆく。
問題は有明だ。
寿々はいつまでたっても様子のおかしい有明を心配して、再び電柱へと近づいた。
「一体どうしたって言うんですか?こんな真夏の一番熱い時間帯にそんな格好で外にいたら本当にどうかしてしまいますよ?ほら、一緒に中へと行きましょう」
そう言って有明の背中を押そうと手を伸ばしたが、有明ははっきりとそれを拒むように避けた。
「すみません。本当に私は無理なので・・」
さっきからそれの一点張りだ。
「・・・・何か言えない事情でもあるんですか?」
寿々が真剣な顔をして聞く。
どう考えてものっぴきならない事情があるようにしか思えない。
「・・はい。これだけは絶対に誰にも知られてはいけない事なので」
寿々も有明の違和感に何となく気づき、まさかと思いながらもそっと手を伸ばした。
「バレたら・・有明さんの命に関わりますか?・・・それとも俺の命に?」
「・・・・・・」
有明は何も答えず、それでも頑なに顔を隠し続けた。
寿々は有明の腕をそっと掴むと、顔を逸らし極力有明を見ないようにしたまま優しく引っ張った。
「わかりました。じゃあ顔は見ないので、とりあえずこのまま中へ来てください」
「え!?」
寿々は有明を連れ、玄関へ入ると玄関の靴箱の上に飾られた紙製のお面を有明に被せた。
「?」
有明がその行動にビックリしていると、
「俺が年長の時に作ったロボットのお面です。母さんが気に入ってずっと玄関に飾っていてくれていたんです。とりあえずそれを被っていればバレる事はないと思います」
有明は寿々の行動に驚きながらも、救われたと言わんばかりに安堵の溜息を吐き、
「三枝さん・・ありがとうございます・・」
と頭を下げた。
寿々はそれを見て少しだけ有明に近づき、
「さっき朱李さんにも言ったのですが、俺、まだ三枝じゃないので、寿々で呼んでください」
と小声で囁いた。
「有明さんの下の名前は・・確か・・」
「えっと・・白朗です」
そう言いながら少しだけ照れているようにも見えた。
すると家の中からチャッチャッチャッ!と爪を鳴らし、廊下を走って日向吾が戻ってきた。
「ゥウォンッ!!」
どうやら少しだけ二人のそのやり取りに怒っているようにも見える。
『・・はぁ。もしかしたら史は前プレイヤー判定が出ているのか?日向吾とまた一緒に過ごせるのは本当に嬉しいけれど、なんとかして史とも会話できたらいいのに・・』
寿々はそう思いながら靴を脱いで上がると、居間のテーブルに向かって腰を下している朱李と真紀が話しているのが見えた。
「ええ!あら、ごめんなさいね。あまりにも格好いいお友達が来たのでびっくりしちゃったけれど。朱李くんじゃなくて朱李ちゃんなのね!?」
真紀はそう言って全員分の麦茶をコップに注ごうと用意をしているところだった。
「あ~~・・・と、母さん?ちょっと皆でゆっくり話したいからさ。麦茶は部屋に持っていていい?」
寿々が慌てて聞くと、
「ん?別にいいけど。どうしたの寿々?急に母さんだなんて・・」
といつも通りの口調で話してしまったので、この頃は普通に〝お母さん〟と呼んでいた事をすっかり忘れていた。
「あ!ごめん、ちょっと間違えた。じゃあそういう事だから、俺・・僕が麦茶持っていくね?お母さん」
寿々は自分の話し方にヒヤヒヤしながら、ぎこちなくお盆にグラスを戻すと慎重に運び廊下奥の自室へと向かった。
全員を部屋に入れると、寿々の自室だったその7畳間はベットもあるおかげで一気に狭くなった。
日向吾になった史は何も言わずに寿々のベッドに上がると、早々に丸まってゆっくりと休みはじめてしまったが、朱李はその様子を見て、
「さえぐさ・・・あ、っと寿々・・くん?」
とこちらもかなりぎこちなさそうに話かける。
「言いづらいようだったら三枝で構いませんよ?ここでなら母さんも聴いてないだろうし。あ・・でも俺もうっかり朱李さんとか言っちゃいそうだから、・・ここはやっぱり割り切って名前で呼びますか?」
「じゃあ、せめて寿々さんって呼ばせてください」
そう言うと、寝ていたはずの日向吾がバッと首を上げ、朱李に向かって「ウォン!」と一声吠えた。それはまるで『ダメ!』とでも言いたそうな吠え方であった。
寿々はベッド脇にもたれて床に座っていたところから、日向吾に手を伸ばすと、頭をくしゃくしゃとなでながら、
「仕方ないだろ?今はこのゲームがどんな内容なのかも分からないんだから。とにかく仕様が分かるまでは、母さんに俺達の事がバレないように進行させたいんだよ」
そう説明すると、日向吾は「フン!!」と仕方なさそうに息を吐いて再び丸くなってしまった。
それを見ていた朱李は不思議そうに首を傾げ、
「・・寿々さん・・と、その秦さんってどういう関係なんですか??そもそも何で秦さんは寿々さんの家の犬って事になっているんですか?」
と解せない表情で聞いてきた。
寿々は少しだけ悩んだが、ここは一旦史との過去についてだけは話しておいた方がいいと思い史との関係を説明した。
「実は史は、昔こうやって一緒に暮らしていた犬の日向吾の生まれ変わりなんだよ。朱李さんにしてみればこういうスピリチュアルな事って信じられないかと思うけど・・」
「・・そう・・、確かに僕からすれば今起きている全てが信じられないですが。・・・・でも寿々さんと秦さんが異常に仲が良い理由が主従関係にあったのならば、納得の方が先にきます」
そう言ってオカルト否定派の朱李としては珍しいくらい素直に事情を飲み込んでくれた。
「それに、ちょっと勘違いしていました!僕はてっきり秦さんは寿々さんの事を本気で好きなのかも、って思っていたのですが。好きの意味が元犬として飼い主への愛情なのだと言うのならば全てが腑に落ちました!!」
と急に力説をし出した。
「え・・」
「ウゥウォン!ウォン!」
日向吾は激しく『違うぞ!』と言わんばかりに吠えるが、それを寿々がすぐに宥めた。
「いいからほら、落ち着けって」
そう言いながら今度は首の後ろに手をまわし誤魔化すように頬を何度も摩った。
「それから・・・有明は何でそんなお面を被っているんだ?」
朱李は部屋の入口手前で、へロヘロの線で描かれたロボットの面を着け、ちょこんと正座をしている有明へ率直な質問を投げかけた。
「・・・それは」
再び気まずそうな有明に助け舟を出すように寿々が口を挟む。
「有明さんは子供の頃、ちょっとコンプレックスがあったようで。それでどうしても姿を出すのが嫌だそうです。だから俺達もそこはちゃんと理解しておきましょう。それに・・まずはゲームです!」
寿々はそう言って話題を本題へと戻すとスクっと立ち上がった。
そして自分の部屋を見回した。
「・・・・」
その部屋はつい2ヵ月前、自分の内側で眠り続けていた鬼神アグルを〖次元の狭間〗で追いかけて来た時の自室とほぼ同じ状態だった。
本棚には歴史書や歴史漫画。そして大好きで何かあればおもちゃより優先して買ってもらっていた植物や恐竜、宇宙などの図鑑シリーズ。
特に古代文明についての図鑑が一番のお気に入りだった。
机の脇に飾られたカレンダーと学校から配られた学級だよりの日付を見て寿々は確信した。
「ここは、俺が小学3年だった時の部屋だ」
そう言いながら机にそっと手を触れた。
『前に来た時は、この机にすら触れられなかったっけ・・』
そう思いながら寿々はふと部屋の引き戸横に違和感を覚えてそちらを見た。
『あれ?俺の部屋って入ってすぐ左は押し入れを改造した両開きのクローゼットだったよな・・』
寿々は更にその半間に分けられた2つの扉に注目した。
一つは記憶の中にあるクローゼットと同じ素材の折れ戸式の扉。もう一つは同じ素材に見えるが、折れ戸ではなく、半間分の普通の開き戸になっている。
もしかして、と思い寿々はその開き戸タイプの方の扉を開けた。
「あ、やっぱり!」
するとそこにあったのはあのポリビアス筐体だった。
「うわ、こんなところに?」
寿々の横から朱李も一緒になって筐体の画面を眺める。
有明も驚いて立ち上がり、二人の背後からその様子を覗き込んだ。
寿々はとりあえずこのゲームの概要がどうなっているのかを確かめる為にコントロールバーを動かした。
「何々・・?タイトルは・・・『悪霊退散』?なんか、嫌な予感がするな・・」
そう言いながらそのままオプション画面へと飛び、ゲームの説明を開いた。
「このゲームは登場人物の中に潜む『悪霊』を暴くゲームです。一人一人と会話をし、『悪霊憑き』を探し当ててください。『悪霊』に憑りつかれている人物は自ら『悪霊憑き』である事を発言する事はできません。また、『悪霊』である事を自らバラそうとした場合、プレイヤーが魂を抜かれ退場となり永遠に元に世界に戻る事はできません・・・。何だこのゲーム・・。これじゃ今までのルールと違うじゃないか!?」
寿々が画面を読みながらそう言うと、背後にいた有明が呟いた。
「つまり・・【人狼ゲーム】って事ですかね?今ここにいる中に『悪霊』に憑りつかれている者が既に混ざっているようですね。そしてそれが誰なのか、全員で調べ。また『悪霊』に憑りつかれた者は自分がそうだと絶対に気づかれないよう別の者へ誘導させたり、騙したりしながら競い合うゲームです」
寿々はそれを聞いて背筋が凍りついた。
『・・・嘘だろ?既にこの中に『悪霊』に憑りつかれている人が居るって言うのか?』
寿々は隣の朱李、そして有明を見て、ベッドの上でこちらを見ていた日向吾姿の史を順々に見た。
そして急に全員が敵なのではないか?という恐怖に襲われ、同時に絶対に違う!という拒否反応が押し寄せて来た。
隣で不安そうな表情で寿々を見ていた朱李も同様に全員の顔を見回し、
「・・寿々さん。とりあえずまだゲームの説明の続きがあるみたいですし、この後どうすればいいのか教えてもらいたいです」
と催促をした。
「あ、ああ・・わかった。・・・続きは・・えっと。昼間のうちに『悪霊』に憑りつかれた人物をあらゆる手段で詮索して、寝る直前にその存在を全員で決めて外に追い出してください。もしその存在が当たっていた場合は無事朝を迎え点数が加算されます。もし間違っていた場合はプレイヤーが『悪霊』に憑りつかれた者に殺され魂が消失します・・・。このプレイヤーって言うのは勿論俺の事だよな」
そう思いながら寿々は今一度自分の状態を確認してみた。
当然ながら今は自分が『悪霊』に憑りつかれているような感じは一切しない。
多分憑りつかれている場合は、どこかにその印が浮上して当人だけ分かるようになっていると思われる。
『どうしよう・・・。これ本当にどうすれば効率良く『悪霊』に憑りつかれた人を探り当て、確実に点数を稼げるのだろうか・・・』
そう思いながら寿々はもう一度振り返り全員と目を合わせた。




