第6話 クラッチ
それは7戦目のことだった。
「くそ・・くそ・・くそ・・!!全然追いつけない!!」
落ちてくるスライムのバランスは最高難易度にアップし、敵からの攻撃スピードも格段に速くなっていた。
更に敵の属性にも注意しないといけない。
例えば敵が水属性なのに、安易に寿々の炎属性の攻撃を連発しても効率がいいわけがない。
コンボを狙って途切れない限り5連以上の繋ぎでの攻撃を維持しているが、黄色や紫、更に加わった他より大きい白スライムは邪魔になるだけで使いどころがなく、かつ出現数も少なくもはやただの連鎖妨害となっていた。
「朱李さん!HPがあと20%しかありません!」
スライムの落下と敵からの攻撃のスピードが速く、朱李は今はもう他の事に目を向ける余裕も無かった。
「今話しかけるな!!」
有明に話しかけられて苛立ったのが原因か、目の前の敵、頭が三つある獣ケルベロスが攻撃体勢を取った瞬間、〈溜めて〉いたコンボが途切れてしまった。
「あ!」
隣で口をギュッと結んでハラハラとその様子を見守っていた寿々だったが、思わず声が漏れてしまった。
瓶の中のスライムはどんどん溜まりまくっている。
勿論この中が一杯になっても負け判定になる。
次の瞬間!ケルベロスの地獄の炎が4人を襲った。
「!!」
【ピピ――――!!!】
プレイヤーのHPゲージが0になったところで軽快な笛の音が響き渡り、全員の目の前が暗転した。
気づくと4人は馬車へと戻されていた。
「・・・・・・・・」
座る場所は変わらず全員元の位置に腰をかけている。
だが朱李は顔を覆うようにして一人項垂れていた。
「負けた・・・・。魂が一つ減ってしまった・・・」
そう呟いて酷く落ち込む朱李に、寿々と史そして有明は顔を見合わせた。
有明は一旦手綱をそっと置くと、馬車は自動的に進行を止め、立ち上がって馬車の中へと移動し、一人分空けて史の隣へと腰を掛けた。
「すみませんでした。タイミング悪く話しかけてしまって。私の責任ですね」
「・・・・・」
勿論それが直接的な原因ではない事くらい朱李にも分かっていた。
全て自分の判断ミスだ。
「ごめん。俺も動揺して思わず声が出ちゃったし・・」
寿々も合わせるようにして謝罪する。
朱李は一度大きく息を吐くと、
「・・いいえ、有明のせいでも三枝さんのせいでもありません。僕の判断ミスです」
そう答え、まるでお通夜のように暗く重い雰囲気に馬車の中は静まり返った。
「はぁ・・・・」
そこにまるで何を言っているのか、とばかりにあからさまにうんざりした史の溜息が響き渡った。
「判断ミスではないですよ。実際こういうパズルゲームはトライ&エラーで進むのがセオリーです。初見でクリアできるようには絶対になっていないんです。だからのめり込みやすいし人気もあるんです」
史の言い分はその通りだが、それでも朱李の性格からいったら、失敗の二文字は相当なメンタルダメージがあるのは間違いない。
「朱李さん。多分あのケルベロスとはもう一度戦う事になるんじゃないかと思うんだけど。その前に点数とスキルを確認して少し立て直しを計ってみない?」
寿々は少しだけ面目なさそうな顔をしながらも、朱李に提案してみた。
数秒間、微動だにしなかった朱李だったが、急に立ち上がると気を取り戻す為に自分の頬を両手でパシパシと軽く叩いた。
「分かりました」
そう言って手のグローブから設定画面を映し出しす。
その数値を見て史が話し掛けた。
「現在の獲得点数は・・・・2万500か・・・。有明さんの点数と合わせると全部で5万500。しかし、有明さんの時のように今回はまだ次のプレイヤーへの表示が出ていない事を考えるとまだこのゲームを続けなくてはいけない。今7戦目でケルべロスとの戦闘だった。属性も3種類あってとても闘いづらい。・・・・・まずやるべきは魂を千点で交換する事。これは絶対だ。更にディフェンスオブジェクトを追加。さっきは憶測だけアタックを選択したけど、ケルベロスには絶対にこっちが優位だと感じた。デコイについては既に消費済みだが、あの感じだと今回の攻撃パターンからするとあっても無くてもといいと思う。予備で一つあってもいいな。・・それとこれは朱李さんは嫌がるかもしれないけれど」
そう言うと画面から朱李へと目線を移した。
「嫌?僕が?」
「・・・メンタルアップとインテリジェンスアップを最低2つ交換した方がいい」
「・・・・・・」
その言葉に朱李のプライドは更に傷ついたように見えた。
しかし、確かにこのゲームで自分の弱点が浮き彫りになったのも否めない。
朱李は自分が思っている以上にメンタルへの影響が大きい事を否定できなかった。
「・・・・全部で9千の消費・・か。だが、ケルベロスを倒したところで獲得できそうな点数は大体5千から7千程度の予想だ。メンタルアップは素直に従う。けれどインテリジェンスはとりあえず1個で抑えたい。それで全部で7500の消費。もし獲得点数が運よく7千だったとしたらその時点で所持点数は5万丁度になる・・・」
そう言って3人の顔を見ると再び全員がそれに同意するように頷いた。
有明は立ち上がり、黙ったまま御者の席へと戻った。
そこへ、
「・・有明」
朱李が声を掛けた。
「?」
振り返ると朱李は素直に頭を下げた。
「さっきの言い方は・・その、最低だった。すまない」
素直に謝罪する朱李にびっくりした有明は少しだけ慌てると、
「いえ、私も加勢もできないのに空気まで読めずに本当にすみませんでした。一番朱李さんが大変だと言うのに」
「・・まぁそうなんだよ。僕が一番大変なんだよ。だから・・有明はとりあえず応援要員という事で次もよろしくな!」
そう言っていつもの嫌みったらしい生意気な朱李へと戻っていた。
「わかりました」
有明も笑いながらゆっくりと頷いた。
「さてと。じゃあもう一度ケルベロスに挑戦だ!」
メンタルアップをしたせいなのか、朱李の闘志は更に燃え上がっているようにも見える。
有明が手綱を持って、馬車が動き出すとそれはすぐに訪れた。
【ティロティロリィィイ♪】
その古臭い間の抜けたエンカウント音も8度目となれば慣れたものだ。
再び暗転になると4人は戦闘のステージへと移動させられた。
しかし・・・。
「何だって!!?」
敵を目の当りにした朱李は、一気に顔が青ざめた。
勿論それは寿々も史も有明も同じだ。
4人の前に現れたのは予想していたケルベロスではなく、なんとアイスドラゴンだったからだ。
「あ・・アイスドラゴンだと??なんだってまた僕の属性を潰すような敵なんだよ!!」
属性だけではない。大きさだってケルベロスの5倍近くはある。
どう見たってボスの類の敵である。
「朱李さん。驚かないで冷静に聞いてください・・」
左隣の有明はそう前置きすると、ゆっくりと右上のプレイヤーHPゲージをさした。
「・・・ゲージが2本あります」
「!?」
そう言われ、寿々も史もそれを見て絶望した。
「今さっき魂を一つ増やしたのに・・・」
寿々もそう言うと、史が続いた。
「ボスだから、持っている魂全部を懸ける必要があるって事なのか・・」
「あるいは最低2ゲージないと太刀打ちできない・・」
有明もそう言うと、全てが計算ミスだった事を悟った。
「あぁ~・・もう・・わかったよ。つまりこの戦闘で負けたら僕は死ぬってわけだな!はぁ・・もうゲームなんてこりごりだ!!」
朱李がそう叫ぶのと同時に上空の瓶の中に大量のスライムがプルンプルンと落とされカウントダウンが始まった。
【3・・2・・1・・ピィ―――!!】
朱李は先ず最初にディフェンスオブジェクトを発動させた。
すると目の前に青白く発光しながらスケルトンタイプの壁がスゥ―ッと出現する。
見ると上部にタイマーが備わっている。
「なるほど。これは時間制限があるのか。じゃあ早速遠慮せずにこっちからの攻撃を連発させるぞ!」
そう言うと早速赤いスライムを5つ繋げて寿々の炎攻撃を繰り出した。
ボォオオ!!という赤い炎がアイスドラゴンを襲う。
ゲージはほんのわずかだが減少を見せた。
『・・今の攻撃で1/20程度・・。コンボ技で一気にブーストさせていかないと最後のあたりになれば勝算はなくなる・・』
有明は自分が攻撃要因にはなれないので、朱李ほどではないにせよとにかく数値を見て素早くアドバイスを出せるように待機する。
朱李は続けて緑を5連繋げた。
史が風属性が付いた投げナイフを連投する。
攻撃力は当然寿々の優位属性に比べると本当に微々たるものだ。
すると今度はアイスドラゴンがコールドブレスを吐いて攻撃を繰り出してきた。
パチパチパチパチと地面も空気も一瞬にして凍り付いてゆく。
しかしそれをディフェンスオブジェクトがガキンッ!!という効果音と共に防いでくれた。
「やった!ディフェンスが効いている!」
寿々は思わず年甲斐もなくその場で嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
その様子をこんな状況だというのに、誰しもが「なんて可愛いのだろうと・・」思わず声に出しそうになり、ぐっと喉の奥にしまい込んだ。
朱李はすぐに気を取り戻すと、紫と黄色を潰してコンボ解除を避けつつ再び赤を5連させ寿々に炎の攻撃を打ち出させた。
続けて緑。
実際これしか出来ないというのもあるのだが、それをしながらも、もう一つ別の場所で消化中のスライムと繋がらないようにして赤だけを溜め込んでもいる。
コンボで攻撃力を倍増させて最終的に7連以上の炎攻撃を仕掛けるつもりなのだ。
だがここに来て一番嫌なパターンになってしまっていた。
「くそ・・やっぱり青も小出しに消費しないと瓶の中がヤバいな・・」
そう思い、コンボを崩さないようにして朱李は一先ず消化させる為に5つ繋がった青を消した。
すると朱李の攻撃。
雷を帯びた氷属性の一撃がアイスドラゴンへと入った。
バキンッ!!!
大きな氷が割れるような効果音が鳴り響く。
が、最悪な事にその攻撃によってアイスドラゴンはノーダメージどころか、若干だが回復をみせた。
「え!?嘘だろ?回復までするのか??」
待機していた寿々はその理不尽さに震えた。
しかし朱李は、
「やっぱりな・・そんな事だろうと思ったよ」
そう言いながら再び赤を5つ繋げて炎攻撃を食らわした。
回復した分と同じくらいのダメージが入り、ここでプラマイゼロの状態になる。
だがアイスドラゴンのゲージはまだ2/20にも及んでいない。
気づけばそろそろディフェンスオブジェクトのタイマーが切れようとしていた。
と同時にアイスドラゴンが両足をドゴドゴと踏み鳴らし始めた。どうやら突進の準備をしているようだ。
「モーションはいいから早く!」
朱李は思わず焦りの言葉が出てしまった。
そしてディフェンスが切れるその瞬間!ドドドドド!!という地響きと共に朱李へと向かってきた。
朱李は焦りつつもその突進に身構える事無く、上空のスライムパズルで紫と黄色をとにかく消化し続けた。
「朱李さん!!」
物理的なダメージがないと分かっていても、寿々はその光景に震えあがり叫ばずにはいられなかった。
が、
ガキンッ!!という音がしてアイスドラゴンは消えかかっていたディフェンスオブジェクトに跳ね返されてしまった。
「よ、良かったぁ・・・」
思わず涙目になりそうな寿々は、へたり込む事も出来ないが、気持ち的にはもう自分の魂が抜けてしまいそうなくらいびっくりしていた。
「モーションが始まった瞬間が起点判定だったのでしょう。だからその時点でまだあったディフェンスが有効になったのだと思います」
史は再び風属性の投げナイフを繰り出しながらそう答えた。
そこで有明が何かに気づいたようだった。
「朱李さん、さっきから三枝さんと史君の5連の攻撃を続けていますが、それ結構いいかもしれません。同じ攻撃を同じ順番で繰り返すたびに史君の投げナイフの攻撃力が倍増しています」
「はは。もしかしたらと思ってやってみていたけれど。やっぱりそういう効果もあるんだな!勿論数値の上限はあるだろうけど、もしかしたら次辺りに炎と風の合わせ技とか来るんじゃないかと期待しているんだ!」
と言っている間にも再び青の消化を強いられた。
ここは仕方なくコンボを崩さないように調整しながら青を5個ずつ消化させてゆく。
『・・・僕の攻撃で回復は仕方ないとしても、問題はこの必ず1個だけ残る白のスライムだよ・・・他のスライムよりも若干大きくて滅茶苦茶邪魔で場所の調整が難しい・・。とにかく端っこに寄せて触らないように何とかキープさせないとな』
そう思っていると先ほど言っていたチャンスが巡ってきた。
再び赤いのスライムが並び、そしてその上に緑のスライムが5個ずつ並んだ。
「よし!!」
朱李は満を持して、赤のスライム、そして緑のスライムをほぼ同時に消し去った。
すると寿々と史が同時に攻撃モーションを発し、史は本当ならば投げナイフの攻撃なはずなのに、初めて見る動きをすると、寿々の炎の攻撃の後に、マントを大きく翻し竜巻のような風を後ろから放った!
「凄いこれが合わせ技!?」
有明の目線の先で、竜巻状になった炎がアイスドラゴンを激しく襲った。
しかも現在22コンボ中だ。
攻撃力は通常より大きなものとなった。
ゴォォォォオオオオオオ!!!
低音の効果音を発しアイスドラゴンの体力ゲージがみるみる内に削られた。
勢いは凄まじく一気に半分までゲージを落とした。
「イェエスッ!!」
朱李の聞いたことのない歓喜の声が響き渡った。
しかし問題はここからだ。
ディフェンスがないアイスドラゴンの攻撃。
これがどれほどのものなのか・・・。
そう誰もが覚悟していると、まさにその思いが引き寄せたのではないかというタイミングでアイスドラゴンは再び大きく息を吸い込むと周囲の空気をパキパキと凍らせ、一気に地面に向かって吹きかけてきた。
ゴオォォォォォォ!!!
向こうの攻撃は凄まじいものだった。
痛みや寒さはないのだが、その覇気が大風になって4人を襲う。
「!!」
飛ばされこそしないが、思わず身構えてしまう。
しかしそんな中でも寿々の隣で一人戦う朱李は目を閉じる事なくゲームへと集中していた。
『凄い・・。もしかしたらメンタルアップのおかげもあるのかもしれないけれど、攻撃に全く動じる事なくずっとパズルに集中しているなんて』
が、その直後、誰もがその攻撃力に絶句した。
「嘘だろ・・・HPゲージがまるまる一本削られているだと?」
史もその攻撃力に思わず体がよろめいた。
つまりもう一回今のコールドブレスを喰らえば朱李は敗北し・・・そして。
朱李はその事について考えるのをやめていた。
『その時はその時だ。とにかく今は溜めた赤スライムを崩さないまま10連を狙う!あと少しなんだ・・』
朱李は落ちて来るスライムの動きに十分気をつけながら一度もコンボを崩す事なくその時を冷静に待った。
だが次のターンで何故か今まで出現する事が無かった白スライムがポロリと落ちて来た。
「は?ちょ・・やめろ!!それが今来たら集めていた赤が崩れるだろ!!」
白スライムは他のスライムより重いらしく、投入された瞬間にまるで瓶の中をグワリをかき混ぜるようにして転がった。
「!!」
見守る3人は思わず声が出そうになったのを必死で抑えた。
とそこで再びアイスドラゴンが足踏みを始める。
「なんだってこんな時に!!」
朱李は焦りながらも、とにかく冷静になろうと必死に動き回るスライムの動きだけに集中した。
周りから寿々と有明の声が何かを告げていたような気がした。
だが朱李の耳にその声は届かなかった。
心臓の鼓動だけが体中に響き渡り、周りの動きがまるでスローモーションのようにも見えた。
とその時。
「きた!!」
朱李はその動きを確実に捉え、赤いスライムが12連した瞬間を見逃さなかった。
一気に剣を振り上げそのラインをなぞり上げる!
「いっけぇええええ!!!!」
振り切った剣先から、飛んで来た極大の閃光によって寿々の身体がふわりと空中に舞い上がり始めた。
「え?え?」
当の本人は何事かとびっくりして顔だけ慌てた様子だ。
直後、空中でひらりと宙返りした寿々は何と真っ赤な不死鳥へと姿を変えた。
「ケェエエエエエエエ!!」
天高く響き渡る雄たけびを上げると、不死鳥は一気にアイスドラゴンへと突進をした。
アイスドラゴンも朱李を目指して突進をし出す。
その途中で両者は大きくぶつかり合った。
煌々と光が溢れ、再び大風が大地を襲った。
炎と氷・・・果たしてどちらが・・・。
光が収まると、寿々は再び元の位置に元の姿となって戻ってきた。
「はぁ・・はぁ・・怖かった・・・」
今度は涙目どころではない。
普通に泣いている。
有明は急いでプレイヤーHPゲージを見た。
なんとギリギリあと10%を残している。
問題はアイスドラゴンの方だ。
ゲージの方は・・・
「そんな・・まだあと20%も・・・」
そしてそれを見て愕然としたのか、何とここまで続いていた50コンボが全て消失していた。
「朱李さん!!朱李さん!!」
朱李は完全に動きを止めていた。
「・・・もう・・だめだ・・」
そう呟いたその時、
「朱李さん!!白を繋げて!!早く!!!」
史の馬鹿でかい声が全員の鼓膜を破壊するのではないかって大きさで耳を通り抜けた。
「・・・・うっさ・・・。何?白だって??」
朱李はあのずっと邪魔をしてきた白のスライムが仲良く隣り合わせになっているのを見た。
『これが何だって言うんだ。どうせ僕は死ぬんだ。もうどうだっていいだろう・・』
すっかり戦意喪失した朱李の頭の中には走馬灯のように、姉の藍李やクラスメイト、そして懐かしい写真の中の父と母の記憶が映像となって駆け巡っていた。
『死んだらどうなるんだろうな。やっぱり何もなくなって散るように消えるのだろうか。それとも・・父さんや母さんに会えたりするのかな・・・』
「朱李さん!!お願いだから聞いてくれ!!」
隣で叫ぶ寿々の必死な様子がぼんやりと目の端に入った。
『三枝さん・・・ああ。ちゃんと好きだって伝えておくべきだったかな・・ていうか、今言えばいいのか?』
そう思い力なく寿々の方を向くと、
「三枝さん・・」
と声を掛けたところで再び史の馬鹿でかい声が耳をつんざいた。
「おい!朱李!!ちゃんと聞け!!お前は無能か!!」
「・・・・は?無能・・だと?」
その言葉に一気に腸が煮えくり返ってきた。
なによりも史に言われた事が一番気に食わなかったらしい。
「さっきからうっさいんだよ!!馬鹿でかい声で叫ぶな!!」
「いいから早く白を繋げろ!無能!!」
「くぅぅううっ!!!無能無能言うなぁあああ!!!」
朱李はやけくそになってその白のスライムを切りつけるように繋げた。
剣を振り下ろすのと同時にその白の閃光は、なんと有明の頭上へとギュイィンと飛んでいったのだ。
「は?」
朱李と寿々はその光景に同時に唖然とした。
何と言っても初めて有明のターンが来たのだ。
有明自身も一体何が起きたのか分からない様子でオロオロとしていると、
光を浴びた有明は全身を白く光らせながら一気にぐんぐんと巨大化してゆく。
最終的に5m近くの巨人へと姿を変えると、のし、のしとアイスドラゴンへと近づき、そのまま大きな拳を上から叩きつけたのだった。
「・・・・・」
朱李はもう何も言葉が出て来なかった。
ドン!という鈍い地響きと共にアイスドラゴンはぺしゃんこになると、ドット状に光りながらブワッと広がって消えていってしまった。
4人は何とか馬車へと戻って来ていた。
「・・・・・」
そして全員が一気にその場に倒れ込んだ。
「待って・・・これ本当にあと俺と史の分もあるのか?」
倒れながら、そして涙を流し寿々は訴えた。
有明はゆっくりと体を起こすと、
「朱李さん・・・設定画面を・・・」
と疲弊しきった顔でそう言った。
しかし、
「・・・・・おい、秦・・・秦史!」
朱李はとんでもなく怖い声で史を睨みつけている。
「二度と僕の事を無能って呼ぶなよ・・」
「・・・・・」
史はその恐ろしい顔を少しだけ憐憫の目で見ると、
「はいはい。朱李さんは無能ではありませんでしたよ」
と小馬鹿にするように答えた。
朱李は相当ムカついているようだったが、史を睨みながら無言で手のグローブに付いた石を操作して設定画面を開く。
すると、
「・・・・ま?本当に??」
その数字は朱李すらも予想していなかった。
なんと獲得点数は一気に上限の5万点になっていたからだ。
「凄い!!朱李さんやりましたね!!」
寿々もその点数を見て一気に気力が戻って来た。
「信じられない・・・」
そう言うと有明は、
「信じられなくはないですよ。朱李さんはそれだけ頑張っていました。本当に」
と本心から出た言葉だと分かるその言い方に朱李も思わず感動してしまった。
『こんなの、学力テストで全国一位をとるより遥かに嬉しい・・。まさかこんなところでこんな気持ちになれるなんて・・』
と少しばかり涙目になっていた。
そしてその涙を指で拭うと、
「有明も三枝さんもありがとう・・。本当に二人がいてくれて良かったよ・・・。性格悪い奴が1人混ざっているのがマジで残念だけどね」
と再び史を睨みつけた。
寿々もその様子を見てドン引きしている。
『少し前まではもしかしたら朱李さんは史に気があるのでは?って思っていたけれど。これは間違いなく・・1ミリも無いな・・・』
朱李は設定画面の上部に次のプレイヤーという文字とカーソルが出ているのを確認した。
「次のプレイヤー設定はここから始めるようですね。どうしますか?三枝さんでいきますか?」
朱李は史を計算に入れていないのか、無視して寿々に向かって質問をした。
「どうする史?」
仕方なく寿々が史に質問すると、
「勿論寿々さんが先でいいですよ。現在全部で8万点です。もしダメだとしても最後に俺が何とか頑張りますので」
しかし寿々はここで少し悩むようにして史に提案してみた。
「正直、俺は次だろうと最後だろうと、どのみち有明さんや朱李さんのようにやり切れる自信がない。史の言う通りだったと思う。後ろになればなるほどプレッシャーが凄いと」
「・・・・ではどうします?あと狙うべきは2万点です。俺もどんなゲームがくるのか予測できませんが、よっぽど酷い事がなければ何とか最低2万は稼げるような気がします。それに賭けますか?」
寿々はその提案を受けようかどうしようか本気で悩んだ。
「ところで史はゲームはどうなんだ?今までやってた事はあるのか?」
「そうですね。実は高校に入ってすぐに同級生に誘われて1年半くらいはとあるeスポーツチームの練習相手を時々やらされていました。正直最低限は出来るかと」
「え?eスポーツ?チーム??そんなの初めて聞いた!」
「ええ、初めて言いました」
「・・・じゃ、じゃあ大抵のゲームの操作は問題ないはずなんだな?」
「恐らく」
「分かった。じゃあ俺は史に賭ける」
そう言ったところで史が立ちあがり、朱李へと近づいた。
「はぁ?まさか秦さんが先にやるのか?」
とあからさまに嫌そうに言うと、史は上から朱李を見下ろしながら余裕の笑みを浮かべ、
「そうですね。俺が先にやって朱李さんと同じ5万点を出しますよ」
と嫌みったらしく嘲笑った。
「カーーッ!!んとにお前ムカつく言い方しかできないんだな!」
「いいから早く設定画面操作させてください」
そう言うと史は朱李のグローブの上の大きな水晶のような青く光る石をタッチパッドのようになぞり、カーソルを合わせると〖次のプレイヤー〗をクリックするようにコツリと叩いた。
パッと場面全てが暗転し、急に誰もが見た事のあるような場所へと飛ばされた。
【キ~ンコ~ンカ~~ンコ~~ン・・・・】
これまた聞き覚えのある予鈴が響き渡る。
どう見てもそこは・・・、
「学校?・・の廊下だな」
史はそう言って辺りをキョロキョロと見渡した。
後ろを見ると、寿々と有明の姿がブレザーの高校生姿になっていた。
勿論自分も当然のようにブレザーを着ている。
「はは・・やっぱり私達もゲームの登場人物として組み込まれているんですね」
有明はその姿を確認すると苦笑いをした。
「何で僕だけジャージなんだ・・・」
反対側で赤地で白ラインの入ったジャージを着た朱李が不服そうに呟く。
すると史はさも当然かのように、
「朱李さんは前のプレイヤーだから除外なんでしょう。遠慮せずにゆっくり休んでいて下さい」
と嫌みっぽく言いながら、スタスタと廊下窓際近くにあった筐体へと近づいた。
「なんだかこいつを見るのが久しぶりに思えるな・・・。さて、じゃあ俺のゲームは・・・と」
筐体に映し出されたスタートのカーソルをポチリと押下した。
すると目の前の虚空にデデ~ン!と現れたゲームタイトル画面を見て目が点になった。
「・・・・〖エクス・カルテット~緋の彼方のシンドローム〗・・・」
そのタイトルのクルクルとしたキャッチ―なデザイン、ピンク色の書体から予想するに所謂ギャルゲーのような予感がプンプンにおっている。
寿々と有明は引きつった顔をしながら唖然とした。
何故ならば、ご丁寧にもタイトル右下に【Z指定・18歳以上の対象】のマークがしっかりと表示されていたからだ。
「・・・最悪」
寿々はそうボソリと呟いた。




