第5話 スラッシュスマッシュ
決定ボタンを押したと同時に再び空間が切り替わり、今度は夜の首都高から一気に驚くほど明るい世界へと移動させられた。
朱李はそのあまりにも強い光を遮るように頭上に手を翳し、次第にその明るさに目が慣れてきたところで、自分がまるで中世ヨーロッパのような雄大な大地の上に立っている事に気が付いた。
更に自分の出で立ちがどうも様子がおかしい事にも気が付き、首から下を覗き込んだ。
「・・・・・・は?」
「うわぁああああ!!」
すぐ後ろから叫ぶ声が聞こえてすぐにそちらを振り向くと、寿々が何処かで見たような・・。
いや、確実に見た事のある格好をして慌てふためいている。
「何で!?何でいきなりこんな格好に??」
その姿は、紺色の半ズボンに赤と白の縞々のニーソックス、茶色い皮の膝上ロングブーツ。さらに上半身はゴテゴテのアクセサリーをジャラジャラとつけたチェーンとポンチョタイプの深みのあるボルドーの外套。更に頭の上には先っぽが折れ曲がった所謂魔女帽子らしきとんがり帽が被せられていた。
「・・・本物のベルル・・」
朱李はその姿を見てボソリと呟き、驚きながらもまるで夢心地な様子で目をキラキラと輝かせた。
一方朱李の方は、全身群青色を基調としたヴィクトリア調にも似た煌びやかな金の刺繍と装飾が施されたロングジャケットとその青に映える白いマント。スラッと長い脚に似合う灰色のパンツスタイルに皮のブーツ。腰には厳めしい家紋が入ったロングソードを帯刀している。
身長172㎝ある朱李はまるで宝塚の男役のようにとても凛々しく美しい男装姿だった。
「って待てよ・・・この服装ってまさか?浅野さんの同人誌のキャラクタ―なのでは?」
ようやくそれに気が付いた寿々は、目の前でキラキラと目を輝かせて近づいてくる朱李の姿にも驚いた。
「え?朱李さんの格好ってそれ・・」
次の瞬間朱李は寿々の両手をバシっと握り締めると、
「・・・とても良く似合ってます」
顔を高揚させ、とても感動した様子で寿々を見つめる。
「いや・・朱李さんの方が似合ってますけど・・」
そう言うや否や、
「ちょっと待てえぃい!!」
と横から史が朱李の手を払うように下から上へと手刀を入れた。
「!!」
寿々と朱李は史のその姿を見てあまりのインパクトに言葉を失った。
「・・・・・・秦さん。何て格好をしているんですか?」
白い目をした朱李にそう言われた史の格好は、浅野の同人誌ではヒロイン役になるグイネビア姫が身分を隠す為に女盗賊に扮した時の衣装そのままだった。
幸いだったのは下がスカートで無かったことくらいだろうか?
それでも全体的にぴっちりとしたラインで胸元が大きく開いた白いシャツとウエストラインを強調させるコルセット。その上からゆったりと羽織られた深緑のフード付きのマントがなければ視覚的な際どさを隠す事が出来なかったのは間違いない。
史は恥ずかしさよりも怒り気味に、
「それはこっちのセリフですよ!?いいですか?知らないかもしれませんが、朱李さんのその格好をしたキャラクター、ベルルのライバル、魔法騎士ヒューゴのモデルは俺なんです!だから本来ならば俺がその格好をするのが正しいはずなんです!!」
と早口で捲し立てるように訴えた。
「そんな事を言われても僕が決めたわけじゃないんだから仕方ないだろ!?」
朱李はうんざりした顔で反論すると史は更に食ってかかった。
「大体何で朱李さんが浅野さんの同人誌を知っているんですか?」
「少し前に酒井さんがラボに来た時に、自分の最推しはコレです!といって布教の為に僕にくれたんですよ。それを読んだ影響があるのは否定しませんけど」
2人のいがみ合いもこの状況にもやれやれと思い、寿々はふと有明の姿が見当たらないと思い周囲を見渡した。
「えっと有明さんは・・・」
そう言ったところで背後から、
「ここにいます・・・」
と元気の無い声が聞こえてきた。
振り返るとそこにいたのは、シンプルなシャツとベストとパンツスタイルの至って普通の町人風の格好をした有明がげんなりとした顔で立っていた。
「大丈夫ですか?顔色悪いですけれど・・。でも衣装は特に俺達みたいに奇抜でなくて何て言うか羨ましい・・・」
寿々が声を掛けると、
「衣装は別に何でもいいのですが・・・。先ほどの私のゲームから比べると雰囲気が変わりすぎて、正直ギャップで風邪をひきそうです・・」
気落ちした有明を横目に、朱李はもう一度周囲を確認する。
「それにしてもやはりこういう感じであれば、魔法を使ってモンスターを倒すような内容なのだろうか・・・」
「そうですね。まずは筐体でゲームの説明を確認しましょう」
有明は気を取り戻して朱李に申し出た。
「わかった」
同意すると朱李はすぐそばにあった筐体画面に近づき画面を確認してみた。
先ほどは何もしなくてもそのままゲーム設定がホログラムのように浮かび上がり開始されたが、今のところそういう画像が空に浮かんでいる様子はない。
「どういう事だ?筐体の方も何も表示が出ていない。これは既にゲームが開始されているという事なのか?」
戸惑う朱李の隣に近づき、有明も横から画面を覗き込んだ。
「もしかしてUIが非表示になっていたりはしませんか?」
「それ以前に筐体の方が全く反応しないぞ?これでは先ほど得た点数で事前にスキルアップもできないじゃないか」
すると寿々が何かを見つけたようで二人を呼ぶ声が聴こえてきた。
「有明さん!朱李さん!こっちに馬車があります!!」
「え?馬車?」
呼ばれた二人は寿々の方へと向かうと、山道へと続く森の入口に幌馬車が馬の付いた状態で乗り捨てられているのが目に入った。
「もしかしてこれに乗れってことなのか?」
朱李がそう言うと、
「でもこの馬車、御者がいませんね・・。もし乗らないとだとしても誰かが運転しないとですが」
史がそれに応え、暫くの沈黙のあと全員が1人の人物に目を向けた。
「・・・いやいや。今さっきあれだけ怖い思いしたばかりじゃないですか?どうするんですか?これがまた馬車でのチェイスゲームだったら」
3人に注目された有明は、勘弁してくれと言わんばかりに後ずさる。
「この格好と世界でチェイスゲーム・・とは考えづらいですが。それにしてもやはり馬を扱った事が俺にはないので」
史がそう言うと、朱李が寿々の方を向いて質問をする。
「三枝さんはありますか?」
「ごめん・・俺もない」
「僕もです」
3人は再び有明へと視線を戻した。
すると有明は大きなため息をつきながら、
「・・・乗馬の経験なら少しだけあります。って事は必然的に私って事ですね・・・わかりました」
と観念したように項垂れ、大人しく御者の席へと上がり始めたのだった。
3人は少しばかり気の毒な気もしたが、とにかくこれに乗ってどこかにいけば何かが始まるかもと思い、乗車する為に後方部へと回った。
少しだけ段差がある足掛けを見て寿々は、
「朱李さん、一人で乗れそうですか?」
と自然に手を差し出す。
勿論朱李は寿々のその優しさがとても嬉しかったのだが、流石に一人で乗り込めないわけもなく、
「あ・・ありがとうございます。馬車に乗るくらいは問題ないです・・」
と改めて見た寿々のその服装に妙に照れた様子で、そそくさと先に幌の中へと入って行ってしまった。
その様子を隣で見ていた史は、相当面白く無さそうなしかめっ面になり、
「・・・いい加減気づきませんかね?」
と寿々へ呆れた様子でツッコミを入れた。
「ん?何がだ?」
寿々は今だに朱李から相当な好意を寄せられている事に全く気が付いていない様子だ。
史も気づいてもいないくらいなら別にいいか、と面倒くさそうに腕を組みながら溜息をつくと、寿々は史のその様子に何故か赤面し、開き切っていた史のマントをそっと閉じた。
「?」
「いや・・・ちょっと格好が刺激的で気になるかな・・と」
「は?俺としては寿々さんの方が際どいとしか思えませんけれど、そんな半ズボンとニーソックスって・・・」
寿々の格好では足元を隠す事は出来そうにない。
しかし寿々は更に顔を赤くさせ気まずそうな顔をしながら、
「俺の筋肉もない棒のようなおっさんの脚なんて気色悪いだけだって・・・。それより史のその・・コルセットで協調されてはだけて見えそうな胸筋の方が・・えっちっていうか・・・俺的に危ういんだよ」
と小声で恥ずかしそうに申告した。
「え・・・・と。そうなんですね・・わかりました気をつけます」
史もそんな事を言われると思っていなかったので、少しばかり恥じるようにマントをしっかりと閉じると二人してようやく馬車へと乗り込んだ。
全員が席に着くとまるでタイミングを合わせたように馬車が動き始めた。
すると御者席にいた有明が驚いた様子で幌の中に声を掛けてきた。
「どうも手綱を持っただけであとは自動で進んでくれるようですね」
声を聞いた寿々が前方の布をかき分けて外へと顔を突き出す。
「そうなんですね!じゃあもしかしたら誰でも運転はできるのかも。あ、前の方は開けておきます!」
そう言いながら幌から垂れたカーテン状の布を、寿々は左右にかき分けると留め金でまとめ、前方の景色を開放させた。
上空には綿あめのような穏やかな雲が流れ、聞いた事の無い小鳥の囀りが響き渡っている。
その驚くほど長閑な光景は、先ほどのチェイスゲームのような殺伐した雰囲気は一切無く、反動なのか4人はとても穏やかな気持ちで馬車の旅を愉しみそうになっていたその時。
【ティロティロリィィイ♪】
という軽快な音と共に情景が一変した。
「!!・・あれ?これは・・・」
朱李は突如妙な空間に飛ばされ、急に手に剣を持たされている。
横を見ると等間隔で同じように戦闘態勢を取らされている3人がいた。
更に目の前に出現したのは小柄な毛の無い猿のような形をしたモンスターが2体、行く手を塞いでいる。
いわゆるゴブリンというタイプの敵のように見える。
「えっと・・やはり昔ながらのRPGゲームの戦闘・・になるのでしょうか?」
左隣で一歩下がっている有明が困惑した様子で周囲を確認した。
「朱李さん見て下さい!」
「え?」
右隣りから寿々に声を掛けられ、その指差した上空を見上げた。
なんとそこにはデカデカと、アンティークモチーフの透明な瓶が表示され、次の瞬間には瓶の上部から色とりどりのスライムが滑り落ちてきたのだった。
「なるほど。これはつまりパズル式のアクションゲームって事だな!?ならば僕の得意分野とも言えるじゃないか」
同時に瓶の前にカウントダウンが表示される。
〖3・2・1・・・・ピーーー!!〗
「操作は・・・」
最初朱李は素手で上空に浮かぶ画面を指でなぞるように掲げてみたが、何も反応は無い。
「?どうすればいいんだ?」
と何度か同じ動作を繰り返していると、寿々の更に奥にいた史が声を掛けてきた。
「その剣でなぞってみてください。何で朱李さんだけ剣を持っているのか不思議だったんですよ」
「ああ、なるほど!」
確かに言われてみればその通りだ。
しかも手に握っているロングソードは見た目こそ本物に見えるが、プラスチックのレプリカのようにとても軽い。
朱李は史に言われた通り、そのロングソードを掲げ、上空に浮かぶ瓶に入った隣り合う同じ色のスライムたちをなぞってみた。
すると一個一個が繋がれた星座の絵図のように線が紡がれ、5つの赤いスライムが一気に消されると閃光を放ち、そのまま閃光が寿々の上へと飛んできた。
「え?え??」
寿々がその演出に困惑をしていると、寿々の手元には急に大きな帚に似たデザインの杖が出現し、さらにその杖を無理矢理握らされると、ゲームの演出さながらくるくると回転させながら光を放ち始めた。
「うわっ!!体が勝手に・・!!」
そして回転するのと同時に寿々のロッドに紅い炎が発生し、そのまま目の前にゴブリンへとバシュン!!と飛ばされた。
ボォンンッツ!!という爆発音と共に2体のゴブリンが炎の攻撃を受け、頭上に出ていた体力ゲージが半分近く削られた。
「ナイスです寿々さん!」
史がその攻撃を見事だと言わんばかりに賞賛していると、
「まあやったのは僕なんだけどね・・」
と朱李は皮肉を込めて答えながらも、更に続けて今度は緑色のスライムを3つ消すと先ほどと同様に今度は閃光が史の所へと飛んでいった。
史は光を浴びると虚空から出現した短刀を両手に握り、またまた自動的にジャンプをさせられると、ゴブリンに急接近し今度はズサ!ズサ!という効果音と共に右の一体に直接攻撃を与えた。
ゴッ!という効果音が鳴り、右側のゴブリンの体力ゲージは一気に残り1割程度へと落ちた。
「やった!」
寿々も史のアクション格好良かったからか、思わず史に向かってガッツポーズをする。
「プレイヤーは僕なんですけどね!」
朱李は戦闘中だと言うのに、寿々と史の仲の良さをあからさまに嫉妬した。
そう思ったのも束の間、今度は敵が攻撃モーションをとって来た。
「皆さん気をつけて!」
有明がそう言うや否や、瀕死のゴブリンが寿々の上へとジャンプしてきた。
「!!やめてくれ!」
「寿々さん!」
史が寿々を庇いに出ようかと思ったが、ゲームの仕様なのか自由に動いて移動する事は一切出来ない。
寿々は咄嗟に身構えたが、頭上に飛んで来たゴブリンは持っていた棍棒を振り下ろしながら攻撃音を発するだけで、直接的なダメージは無いように見えた。
「・・・・あれ?痛く・・は無いな」
しかし有明がそれを見てパズルゲームの瓶の右上にあったバーを指差した。
「あそこにあるゲージがどうもプレイヤーのHPゲージのようです。今三枝さんが攻撃を受けたと同時にバーが半分まで下がりました」
「半分だと??」
それを聞いて朱李も確認をすると、有明に言われた通り赤いメーターが半分になっている。
「もしかしてまだレベルが低いからか?・・・とりあえず戦闘不能になれば魂を一つ減らされてしまうのだろう。急がねば!」
朱李は突然その危機感を実感すると、再び上空に剣を掲げ瓶の中に新たに加えられたプルプルと動く不安定なスライムたちを急いでなぞり始めた。
今度は青色だ。
ちょうど微妙な位置にありながらも繋げられそうなスライムをグググっと剣でなぞると、何と奇跡的に6つ繋げる事が出来た。
「よし!!」
青のスライムが閃光とともに消滅すると、先ほどより大きくなった閃光が朱李の頭上に落ちて来た。
「おぉおおおおお!!!」
ロングソードを振り回すモーションをとると周囲に氷の結晶が浮かび上がった、そして朱李は勢いを溜めるように背後に構える。
と同時に剣の刃先から青い雷がバチバチ!!と発生し、光と共にゴブリンに向かって物凄い速さで切り掛かった!
ズガガンッ!!!
剣を振り切ると2体のゴブリンの頭上に落ちて来た青い雷によって、体力ゲージが一気に0になり、そのままドット状に光ると霧散して消えていった。
【ティロリィンン!!♪】
またもやどこからともなく聴こえてきた軽快な音ともに周囲が暗転すると、次の瞬間には4人は再び馬車の中へと戻されていた。
「はぁぁ・・・・なるほど。ゲームのやり方はわかったぞ」
朱李は馬車の木の椅子に座りながら疲れたように項垂れた。
「寿々さんは大丈夫でしたか?」
目の前に座る史は隣に腰を掛ける寿々へと心配そうに声を掛ける。
「ああ、全然大丈夫!俺達よりやっぱりプレイヤーのメンタルの方が消費されやすいんだと思う。朱李さん大丈夫ですか?」
寿々にそう聞かれ、少しだけ疲弊した様子の朱李が頭を上げると、寿々のすぐ隣でその場所を絶対に譲らんとばかりに幅を利かせる史が、まるでけん制するような眼差しでこちらを見ているような気がして一気に腹が立ってきた。
『くそ・・何なんだあの男は・・。もはや秦史が三枝さんにそういう意味でひっついているのは疑いようのない事実!それにしてもしくったかもしれない・・。魔法少年ベルルの設定だと、ヒロインのグイネビアがベルルの優しさにどんどん惹かれていくという筋書きだったはず。・・・それに反してライバルのヒューゴは立場上次第に闇落ちコースへと・・・』
「朱李さん?」
寿々は睨みつける朱李へ心配そうに聞き返した。
「大丈夫です」
真顔でそう答えると、自分の右手に付けたグローブに装飾された青い石がうっすらと明滅している事に気が付いた。
「ん?」
朱李はその石にそっと触れると、急に意思から光が浮き上がりホログラム状の設定画面が出現した。
「!!・・・・なんだこれで色々な設定を変更していくのか!」
目の前にいた寿々と史、そして運転する有明も振り返るとその光景に驚いていた。
「それにしても全体的にインターフェースの使用が雑な感じがしますね・・・。どこに何があるのかが分かりづらいというか」
有明が神経質そうに文句を言うと、朱李は立ち上がり、馬車前方に向けてグローブを翳し直し設定画面を全員で共有できるように調整をした。
「どうだ?さっきの戦闘でいくらの点数が稼げているのか・・・」
そう言いながら詳しく画面を確かめると、
「え?今の戦闘でたったの3000しかもらえてないのか!?」
その数字の低さに落胆しているようだった。
「右上にまだレベル3って書いてありますね・・・。これからの戦闘でどんどんそこは上がっていくのでしょうけれど。何か試しにスキルアップをしてみますか?」
有明の助言で朱李はもう一度点数を含め再考してみた。
「・・・何と言っても精神力だけはちゃんと削られている。だからこそ長丁場にならない工夫は必須だな。魂を減らす事なく最低2万5千を稼がないといけないわけだし。・・ここは有明が確保してくれた4万1500のうち1万1500を使ってしっかりとスキルアップをする方が得策かもしれない。どうだろうか?」
そう聞くと、全員が納得したように頷いた。
「じゃあ、これは僕が考える範囲でのスキル配分だが。
まずはパワーアップを3個交換しようと思う。次にマジックアップ。ここは何と言っても僕と三枝さんの魔法の力が優位になる世界設定だからこれも3個は購入したい。あとはディフェンスオブジェクト。これがどのタイミングで使えるかは分からないけれど、万が一の時には役に立つ可能性が高い。残りの1000だが、アシスタントデコイを2個に。・・・何か意見はあるか?」
3人は暫く真剣にそのバランスを考えていたが、その中で史がスッと手を上げた。
「俺はディフェンスオブジェクトよりアタックオブジェクトに投資する方がいいかと」
朱李は私情で反射的に史の意見に対してムカっとした気持ちになったが、それを口にしようかと思った瞬間、有明からも意見がでた。
「私も史君の考えに賛成ですね。というのも、ディフェンスは恐らく全攻撃を防げるのだと思いますが、それがたった一回に対してなのか、それとも消費ゲージがあるのか不明です。アシスタントデコイは攻撃を身代わりしてくれるものだと推測しますが、これが2回分あるのならばとりあえず何戦かはそれで様子を見てもいいのかと思います。対して急に予期せぬHPゲージの高い敵だった場合、余計に時間と精神を削られてしまいますが、そんな時の為にアタックがあればその時間を短縮させられる可能性が高いのではと」
その意見に朱李も思わずぐうの音も出なかった。
「・・・有明。お前ゲーム経験は無かったんじゃないのか?何だか急にやたらと詳しくなったのは何でなんだ?」
そう疑問に感じ質問をすると、
「え?そうですか??ただ見た感じで喋っただけなので・・・間違っていたらすみません」
と何やら妙に焦った様子で答えた。
「・・・よし、わかった。とりあえずそれで進んでみよう。何戦か試してみてそれで行けそうならば状況によって更にスキルアップの方向性が考える。それでいいだろうか?」
「私は問題ないです」
「俺も有明さんと同意見なので問題ないです」
「はは、ごめん。俺は全くいい案が無かったから皆ゲームに詳しくて本当に助かるよ」
そう言って寿々は面目無さそうに頭を掻いた。
と同時に再びエンカウントの音楽が鳴り響く。
【ティロティロリィィイ♪】
そこから再びゴブリン3体との闘い、更に次はパワー型のゴーレム1体との闘いが2戦過ぎ、ようやく獲得ポイントが1万を超えた。
プレイヤーHPはバトル毎に回復する仕組みのようで、戦闘後の回復などは特に気にする必要がないのが救いだ。
「今のでようやく1万か・・・有明のチェイスゲームに比べるとスピードも遅いのでだいぶ効率が悪く感じるな・・」
馬車に戻された朱李がそう言うと、寿々が立ち上がり有明へと近づいた。
「有明さん、運転変わりましょうか?手綱持つだけならば俺にも出来そうだし」
と申し出ると、
「いやいや、全然この役割なら大丈夫ですよ。それにほら、私まだ一度も戦闘に加わってないですし」
「え?あぁ、そう言えばそうでしたね。スライムの色は今レベルが10に上がって5色になりましたけれど、赤が俺で緑が史で、青が朱李さんで・・・。その他は黄色と紫。数の偏りはありますが、どれもちゃんと消しているのに、まだ有明さんに閃光は飛んでいっていなかったですね」
寿々がそう言うと、後方でそれを聞いていた朱李も同様の事に気付いた。
「大体有明のジョブや立ち位置はなんなんだ?格好からはただの町人Aって感じだが」
「さぁ・・私にもわかりません。もしかしたら本当に町人Aか、手綱を持つ為だけの要因なのかも」
そう言って笑うと、
「それか若しくは、前のゲームのプレイヤーには負担が減る補正があるのかもしれないですね」
と史が加えた。
全員がそれに納得していると再び敵とのエンカウント。
「確率的にはあと最低5戦は必要になると思います。何とか2万5千までこのままぶっちぎります!」
「はい!」
朱李の闘志に燃えた言葉に全員が一丸となったのだが。
・・・その後まさかの強敵に全滅に追いやられるとは、この時はまだ誰一人として予想すらしていなかったのだった。




