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オカルティック・アンダーワールド:ベート  作者: アキラカ
5.電脳異界譚

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26/42

第2話 アーケードゲーム

 午後3時過ぎ


 寿々(すず)(ふひと)は、オカルトラボの東海林(しょうじ)朱李(しゅり)に呼び出され、デートを中断して東京ドームに隣接するゲームセンターへとやって来ていた。


 オカルトラボというのは、主に寿々と教育担当をしている酒井(さかい)の二人で担当している心霊写真徹底検証の記事の中で、心霊写真の真偽を科学的な視点で解明するよう委託している外部の民間企業だ。

 会社自体は新宿歌舞伎町にあるのだが、検証内容の信憑性を高める為に、毎回ではないが現場に行って実地検証が出来るようであれば加えてやってもらうようになっている。


 今回は3枚ある写真の中の一つ、このゲームセンター内で写り込んだ黒い2つの人影を詳しく調べるためにオカルトラボはここを訪れていた。



 写真の内容は男子中学生3人が楽しそうにクレーンゲームの筐体を背に、取れた景品を持って写っているのだが、その背後の筐体奥。そこは壁になっているはずなのに、その中に二人の真っ黒な男らしき影がはっきりと写り込んでいるというものだ。


 当初はただ反射しているだけだと誰もが考えていたが、別の角度の写真では筐体は通路に10数台隙間なく横並びになっており、とてもじゃないが反射されるべき場所に人が入れるような隙間すらない。ましてや反射されているのならばここまでくっきりとは写ることはないはずなのだ。

 ということでオカルトラボから今回は、是非とも実地検証を実施したいとの申し出があり、編集部の方も了承し依頼していたのであった。





朱李(しゅり)さん!大丈夫ですか?」


 先ほど受けた電話が途中で切れたものだから、寿々も心配になって駆け付けたのだが。

 朱李はゲームセンターの前のベンチで一人項垂れていた。


「・・・・三枝(さえぐさ)さん」


 顔を上げた朱李は心なしか青ざめているように見える。

 外の雨も再び強くなってきて、入口前の庇からバシャバシャと水がコンクリの地面へと叩きつけられている。


 ピンク髪のショートヘアがとても似合う美しく整った顔立ちと、モデルのように背が高くスラッとしたスタイル。定番なのか細身のストレートジーンズと赤いコンバースのスニーカーが長い脚に良く似合っている。

 あまり可愛い格好は好まないようで、オーバーサイズのシャツを羽織った朱李は一目では女子高生とは思われないであろうそんな格好いい容姿であった。


 それにしても随分と憔悴(しょうすい)しきっている。

 寿々はゆっくりと折り畳み傘を閉じ、隣に腰を掛けると心配そうに顔を覗き込んだ。


「一体何があったんですか?」


 朱李は少しだけ震えてようにして頭を支えていた手をゆっくりと下し、寿々を見て、そして目の前にビニール傘をさして立っている史へと目を向けた。


(はだ)さん?秦さんまで来てくれたんですか?・・・」


 史は寿々とのデート途中、しかも滅多にない寿々からのお誘いで天にも昇る思いで舞い上がっていたとろこを邪魔をされ、率直に言って朱李に対して激怒していた。


「それで?何があったのか簡潔に説明してもらえますか?」


 史は朱李に全く配慮する様子もなく、ゲームセンター前の階段を上がると庇の下に入り、傘を閉じながら冷静に質問した。


「・・・・。いや、何で秦さんは三枝さんと日曜日も一緒にいるんですか?」


 朱李は史の聞き方や態度が(かん)に障ったのか、憔悴していた顔を今度は引きつらせながら史を睨みつけるように見上げた。


「そんな事をいちいち説明する必要はないですよね。とにかくこっちは急いでいる中()()()()駆け付けて来たんですよ。急用なんでしょうから先ずは説明をしてください」


 史の容赦ない口調に朱李は小さく舌打ちをしたように聞こえた。

 隣でその様子を見ていた寿々も困惑しながら、


「史・・・朱李さんの様子を見れば分かるだろ?いくらなんでももう少し言い方があるだろ」


 寿々だってこんな事さえ無ければ、史にそんな事を言いたくなかった。

 それに本心では史の言い分の方に近い気持ちもある。

 しかしだからと言って、史のふてくされたその冷たい態度を無視するわけにもいかなかった。


「・・・・・」


 史は寿々に注意されたのがショックだったようでその場で顔を(しか)めると、うんざりした様子で目を逸らしてしまった。


「ごめん朱李さん、とりあえず状況を話してもらえるかな?」


 寿々の優しさに安堵した朱李は、見た事もない表情で見つめると体ごと寿々の方へと向き直った。


「実は先ほどまでラボの職員1名と共に、店内で依頼を受けていた写真の実験的検証を行っていたんです。人数が足りないので正確性に欠けますが、それでも同じ場所、同じ角度で写真を撮っていました。最初の数枚は何も写らなかったのですが、最後の1枚だけ・・・」


 そう言って朱李はその撮った写真をタブレットに出して寿々に見せた。


「・・・・・ん?何でこの写真だけ真っ黒なんですか?」


「不明です。僕達はたまたまアプリケーションが障害を起こしたのかと思い、すぐにもう1枚写真を撮ろうとしたのですが、その後は急な機材トラブルで持って来た一眼レフとスマホ、タブレット全部のカメラ機能が故障したんです。こんな事は今まで一度も無かったのでそれでアガルタに相談しようと三枝さんに連絡を取っていたら・・・・」


 朱李は恐怖に引きつった顔をしながら寿々を真剣な表情で見つめた。


「取っていたら・・?」


「壁際に立っていたはずの職員の坂口が、忽然と姿を消したんです」


「え?坂口さんていつも電話に出てくれるあの青い髪の方ですよね?消えたってどうやって!?」


 寿々は信じられないとばかりに朱李に問いかけた。


「わかりません・・。この場所は店の最奥になりますし袋小路です。僕の隣を通り抜けていったとも思えません。それに坂口のスマホはずっと電波の届かない場所にいると言われるだけで、今も音信不通の状態です」



 史も途中から真剣にその話を聞いており、少しだけ嫌な予感がしたのか朱李が話し終わると寿々と顔を見合わせた。


「・・・寿々さん、いいですか」


 史にそう言われて寿々は朱李に「ちょっとごめん」と断りを入れると立ち上がり、そのまま史に近づいた。

 二人は気持ち朱李から離れ、


「突然消えたのは奇妙ですね。まさかとは思うのですが・・」


「ああ、俺も同じこと考えていた。これって松下さんのバックルームの時と同じ匂いがする」


 史も同じことを考えていたようで真剣な目つきでゆっくりと頷く。


「・・・もしこれがバックルームの時と似た能力者の仕業だとしたら、恐らく坂口さんは何某かの結界の中に引きずり込まれた可能性があります」


「どうしようか。前回の事もあるし、信じてもらえないとしても朱李さんにこの話をしてみるか。それとも上手い事ごまかしつつ俺達だけで調べるか」


 そう相談をしていると、雨の中、傘をさしてこちらに近づいてくる人の気配がして二人はそちらへと目を向けた。


「お久しぶりです、三枝(さえぐさ)さん、史君」


 その声を聞いて二人は同時に驚いた。


「あ、有明(ありあけ)さん!?」


 寿々は半月前のバックルームの一件で、偶然現場で出会った事で命を助けられた警察官の有明が、こちらへ近づいてくるのを見て思わず声が裏返ってしまった。


「どうして有明さんがここへ?」


 史も驚きながらも不審そうに問いかけると、


「遅かったじゃないか有明」


 と背後から朱李の声が聴こえて、二人はその言い方にもびっくりしていた。


「え?・・朱李さんと有明さんって知り合いだったんですか?」


 寿々が朱李に聞くと、


「?有明は確か先月のThis Man現象の件で、最上(もがみ)編集長からの紹介でうちに来たはずですが。もしかして三枝さんは知らなかったんですか?」


「あぁ~・・・。ちょっと待てよ」


 寿々はそう言うと時系列を追うように考え始めた。が、


「まぁとりあえず、今は消えた坂口さんを探す事が最優先です。私が店に色々と聞いてみますので3人共一緒に来てください」


 有明はそう言いながら店の傘立てに畳んだビニール傘を立ると、ゆっくりとではあるが歩みを止めずにそのままゲームセンターへと入っていった。





「店舗内の監視カメラはこれで全部ですよ?好きなだけ確認してもらって構いませんけど、あまり大事にならなければ助かります」


 ゲームセンターのオーナー兼店長はそう言って4人を店長室へとすんなり案内してくれた。


「ありがとうございます」


 有明(ありあけ)は笑顔で返答しながら目の前の4分割されたモニター2台。合わせて8台分のカメラ映像を弄り始めた。


朱李(しゅり)さん。坂口さんと検証の写真を撮り始めた時刻は何時何分頃になりますか?」


「時刻は・・・14時11分頃からだ」


 朱李は一番最初に撮ったタブレットの画像時刻を見ながらそう答えた。


「14時・・11分・・・と少し前あたりから・・」


 そう呟きながら、有明はまずは入口に付けられたカメラを確認する。

 そのすぐ後ろで寿々(すず)(ふひと)も覗き込むように画面を確認した。


「あ、今のところ。5分ちょうどに朱李さんと坂口さんですね?」


 寿々が巻き戻しをしている画像を見て指をさした。


「5分・・・」


 有明はその指示に従って調整する。

 すると寿々が見つけた通りの時間から二人が店内へと入ってゆく姿が映し出されていた。


 その時刻を有明の隣で確認していた朱李はスマホのメモ機能で記録する。


「その次は・・・」


「3番のカメラですね」


 史が後ろからそう言うと、全員が3という番号がふられたカメラへと目を移した。

 店内に入ってきた二人はすぐに店舗スタッフへと話しかけ、暫くその場で待機している。

 2分くらいが経過したところで店長が出て来て名刺を受け取ると、丁寧に店の奥へと案内をしてくれていた。


「お次は・・・あ、6番ですね」


 隣のモニター右上。全員が画像に表示された時刻を確認しながら有明が指した6番の画面に注目する。

 そこは件のクレーンゲームがずらりと並んだ袋小路になっている通路を映していた。


 時刻は14時10分25秒。

 現場に着くと、坂口は背負っていた大きめの黒いショルダーバッグを床に下し、側面から取り出したタブレットでその袋小路になった通路全体を写真に収めていた。


「ここから奥に進んで・・・この一番奥右側の筐体が例の2人の黒い男が写っていた場所です」


 全体的に監視カメラの画質は荒く、通路全体を写しているその映像は一番奥に行った朱李と坂口のざっくりとした動きしか見て取れず、不明な部分は朱李が口頭で説明した。

 有明が操作を切り替え、6番のカメラだけを画面全体に映し出す。


「・・・・まずは現場周辺のライトの光の強さを二人で調べました」


 朱李の説明通り、袋小路になったその筐体周りを隈なく何か小さい計器で調べてはメモを取っている。


「そして次に周波数計。前回の事もあったので光や電波は勿論、音の数値も全て調べています」


 前回というのは、7月号に載せるはずだった芝公園の片目の男久野誠の一件で、あらゆる波動を使って意識を操作していた可能性があった為、オカルトラボでもその後すぐに周波数をもっと正確に測れるよう検証内容が見直されたのだった。


 それが終わると二人はカメラを三種類用意して、床に下したバッグの上に広げると、坂口を被写体に写真と同じようなポーズをとらせながら各種機材で写真を撮り始めていた。

 カメラの時刻は14時29分11秒。


「このあとです」


 朱李がそう言うと、最後に撮っていたスマホで何やら不具合が起きたような仕草が見られると、他の機材でも写真を撮ろうと構えるが、次第に慌て始めた様子が見られた。

 暫くその機材を調整している様子の朱李と坂口だったが、朱李はすぐに何処かに連絡を取り始めた。


「最初は姉の藍李(あいり)に連絡しました。検証中の不具合だと報告すると、検証依頼が編集部になっているからすぐに報告と相談をするよう指示され、次に酒井さんへと連絡をしました。すると酒井さんは昨日から都内にいないとのことで、急なトラブルであれば三枝さんにお願いしてみて欲しいと言われ、それで最後に三枝さんに連絡をしたのです・・・・・・そしてこのすぐあと」


 電話を掛け直した様子の朱李の後ろで坂口が急に背後の壁に振り返った様子がそこに映っていた。

 そして、スマホを持つ背の高い朱李の背後に小柄な坂口がすっぽり隠れたかと思った次の瞬間。


「き・・消えた!!」


 寿々は思わず大きな声が出てしまった。


「14時36分19秒・・・」


 有明もそう言いながらもう一度録画を巻き戻す。

 再生し直すと、やはり後ろを気にしている坂口が、電話をしている朱李の背後に隠れると同時に消えたようにしか見えなかった。


 有明はその坂口が消える手前で映像を一時停止させた。

 すると史が画面にぐいっと近づき、首を傾げながらそのモニターをなぞる。


「・・・・何でしょうね。後ろを急に気にしたこの次の、朱李さんの背後に隠れるほんの少し手前・・・」


「史君、何かわかるのか?」


 有明が少しだけ興味深そうに聞いてみると。


「・・・・ほんの少しですが、坂口さんの左腕に黒い影が・・わかりませんか?」


 画像が画像だけによほど目が良くないとそれを見極めるのは難しいかと思う。

「俺には・・・よく分からないな」

 と寿々が呟くと有明も、

「私も分からないですね」

 と続けたが、


「・・・確かに僕にも黒い手のような影が坂口に伸びているように見える」


 唯一そう答えのは朱李だった。


 そう言った朱李を史はちらりと目を向けたが、目が合った二人はまだ反目し合っているのか、お互いすぐに目を逸らすと再びモニターへ向けた。


「わかりました。じゃあとりあえずこのデータは店側にお願いして録画しておいてもらいましょう。では次にその場所に行って詳しく調査します」




 4人は店長と一緒に現場までやって来た。


 有明(ありあけ)が筐体の隙間などを調べている中、寿々(すず)(ふひと)を見上げると史も何も言わず了承したように辺りを透視し始めた。


『・・・やはりバックルームの時と似た気配を感じる。あの時と同じ結界なのかまでは判別できないが・・・・』


 史は坂口が消えた突き当りに近づくと、ファンシーな壁紙が貼られ茶色くくすんだ壁に手を(かざ)した。


『この奥は・・・倉庫か?』


 透視した感じだと、壁の奥はバックヤード兼倉庫になっており、古めかしいアーケードゲームの筐体が何台か置かれているのが視て取れる。


「どうだ?何か分かったか?」


 寿々は隣に戻ってきた史に小声で聞いてみると、


「壁の奥は倉庫になっていて数台のアーケードゲームの筐体がしまってあります。それ以外は特に坂口さんらしき気配は一切ありません」


 と史は寿々だけに聞こえるように話したつもりだったのだが。

 近場で筐体と壁の隙間を見ていた有明がふと立ち上がり、


「なるほど。倉庫か」


 と呟くと店長へと近づいた。


「すみませんが、この奥は倉庫か何かありますか?」


 すると店長もちょっとだけ驚きながら、

「え?はい、そうです倉庫になってますが・・・」

 と答えた。


「申し訳ないのですが、そちらも念のため確認させて頂けますか?是非ご協力よろしくお願いします」


 有明がそう言うと、

「わ、わかりました!こっちです・・」

 と店長は素直に従い4人を案内し始めた。


「・・・」


 史は後ろから有明に近づき、


「さっき俺が話していたの聴こえていたんですか?」


 とぼそりと質問をしてみた。


「?聴こえてますよ?しっかりと」


 有明はまるで当然だと言わんばかりの態度だ。


「もしかして地獄耳ですか?」


「いいえそんな事はありません。聴力は至って普通です。ただほらこういう職業なので、現場で誰が何をどうしているかを常に見張っているんです。それは当然でしょ?」


 そう言って涼しそうな顔をして口元だけ笑みを見せた。


「・・・・」


 前から思っていたが、史はどうにもこの有明という人物も、掴みどころのない奇妙な男だと感じていた。

 警視庁のどの部署に属しているのかも明かせないし、そういう特殊事件を専門に扱っている部署だという事だけは聞いていたが・・・。


『まあ察するに、公安なんだろうけれど。それにしても前に寿々さんは有明さんに協力したくないときちんと断っているし、本当ならばこんなところで会いたくもなかったな』


 そう思い隣の寿々をちらっとだけ見た。

 その視線に寿々は気づいていなかったが、それでも恐らく同じような事を考えているように見えた。


 そしてその後ろ、一番最後を歩く朱李もまた史を見上げ忌々しさを感じていた。


『坂口の行方は当然心配だが、なんにしてものっけからこの(はだ)(ふひと)の存在が邪魔でならない・・・って言うか本当に何であんなにも三枝(さえぐさ)さんに馴れ馴れしいのだろうか?藍李(あいり)からは元々三枝さんが教育担当をしていて、今でも仕事の面倒を見ていると聞いたが。それにしてもあの人の行動は全部異常じゃないか?・・・まさかとは思うが、本気で三枝さんの事を?』


 この一ヵ月半、寿々となかなか会う事が出来なかった朱李は、史の嫌味ったらしい態度もあり、輪をかけて嫌悪感が増していた。


 大体オカルトラボでアガルタの仕事を優先的にやりたいと申し出たのも、全て寿々と会う機会を増やしたい一心からだった。

 しかしいざ蓋を開けて見れば、重要な打ち合わせは姉の藍李が担当し、その後の編集部とのやり取りの大半は酒井の担当となっている。

 これではいつになっても寿々と会う事が出来ない、そう思っていた矢先にようやく再会できたというのに。

 何故か史まで付いてくるだなんて思ってもいなかったのだ。


 勿論朱李は寿々と史が付き合っている事なんて知りもしない。

 だからこそ史の寿々に対する態度と、自分への妙なけん制に腹を立てずにはいられなかったのだ。




 4人は店長に付いて歩き、バックヤードを通って裏の倉庫へと案内された。


「ここが倉庫です」


 そう言われ、有明(ありあけ)は早速店側の壁に近づくとその壁を調べ始めた。


『・・・見る限り特に変わったところもないふつうの壁のようだな。この壁をすり抜けた・・・とはちょっと考えづらいが・・』

 

 朱李(しゅり)は中へ入ると少しだけ前に出て、名前を呼んでみた。


「坂口!いないのか?いるなら返事をしろ!!」


 倉庫の屋根は軽い合板のようで、強く叩きつける雨音で倉庫内の音は異常に騒がしく感じた。


 寿々(すず)(ふひと)を見上げると。


「史、もう一度ここに置いてある物の中身まで詳しく透視することはできそうか?」


「任せて下さい。少し時間は掛かるかもしれませんが、やってみます」


 と言い、史は左手を上げ今度は目を閉じ全てのデータを読み取るように意識を集中させた。


 屋根に当たる雨音がその集中力を削ごうと必死になっていたが、それでも史は壁際に積まれた段ボールの一つ一つ、置かれた筐体の中まで隈なく順々に透視をした。

 すると一番奥の一台だけ内部に青白い光が視えたのを史は見逃さなかった。


「!」


 それと同時に倉庫の扉が開き、従業員が少し慌てた様子で入ってきた。


「店長、いいですか!機械トラブルです!」


 そう言われると店長は慌てた様子で、


「すみませんが私は店内に戻りますので、何かあったらすぐに教えて下さい!」


 と有明に向かって声を掛けると、急いで従業員と共に戻って行ってしまった。




「寿々さん。分かりました。一番奥の筐体に奇妙な光が視えます。どうもあれが怪しいかと」


 史は先ほどと同じくらいの声量で寿々にだけに話したつもりだったが、そう言ったそばから有明も史が見る方向へと視線を向けた。


 入口脇にいた史の位置から奥の壁際に立つ有明まで約10mほどはある。

 更にこの屋根に当たる雨音の騒音で、どんなに地獄耳だとしてもこの会話が聴こえるなんておかしいのだ。


 しかし有明は史をちらっと見ると、目的の筐体を正確に理解しているようで、手前に置かれた重そうな他の筐体を力一杯にどかしてその一台を露わにさせた。


「有明?何なんだこのボロい筐体は・・・」


 一連の事に全く気が付いていない朱李は、そちらに近づくと怪訝そうな顔で質問した。


「私にもわかりません」


「は?何言ってんだお前・・・」


「でも史君ならわかるみたいですよ?」


「はぁ?何で(はだ)さん?」


 その会話を聞いていた史と寿々は有明に対して一気に不信感が湧いていた。


「どういう事でしょうか・・」


「俺も良く分からない。でも、どうも有明さんには俺達が話している事が筒抜けになっているように感じる」


 そう言うと、その話も全部有明には届いているようで、二人に向けられたその視線だけで全てを語っているように思えた。


「・・・・」


 史はもうこれ以上ごまかそうとしても無駄な気がしたので、朱李はともかく、有明には自分の能力が全てバレている事前提で筐体に近づくために歩き出した。


「・・・確信があるわけではないですが」


 そう面倒くさそうに口を開いたが、


「確信はあるだろ?史君。君は分かっているはずだ。この一台が今回坂口さんが消えた原因なのだと」


 そう言って有明が差した一台を見て史自身が一番驚いていた。


「そんな・・・・。これは・・偽物(レプリカ)ですよね?」


 そう言って立ち止まった足の先に置かれていた筐体の名前を見て、口が開いたまま固まってしまった。


「〖ポリビアス〗・・君ならこれがどんな筐体なのか分かるんじゃないか?」


「ポリビアス?これはそんなに有名なゲームなのか?」


 有明の隣で興味なさそうに見ていた朱李が、胡散臭いと言わんばかりの表情で筐体を睨みつける。


「知ってるのか?史」


 寿々が強張った表情で聞くと、史は筐体から目を離さずに話し始めた。



「知ってるも何も都市伝説では有名なアーケードゲームですよ。

1981年オレゴン州ポートランドで、アメリカ政府による心理的実験を目的として数台だけ置かれた〖ポリビアス〗という名の筐体。プレイする人々は異常な中毒性と激しい体調不良に襲われ、更に筐体は定期的に黒服の男達が訪れては中から何かを回収していたと言われています。一部ではそれは高得点を取った者のあらゆる精神データを抜き取っていたのではないかと噂され、そこからその黒服の男というのは実はメン・イン・ブラックだったのではないかという噂もあります。

・・・ですがこれは最初から最後まで全てネットに書き込まれただけの何の証拠もないただのネタ話にすぎません。だからこのポリビアスという筐体がこの世に実在するわけがないんですよ」


 そう言うと有明は初めて満足そうに微笑んだ顔を見せた。


「いやぁ。史君はこの手の話に本当に詳しいんだね。びっくりしたよ」


 その様子を見て史は思わず言わずにはいられなかった。


「有明さんは俺達を試しているんですか?それともそっちの組織に協力をしないから嫌がらせでも?」


「まさか。嫌がらせではないけれど、ただ協力は是が非でもしてもらいたと本気で思っていますよ。三枝(さえぐさ)さん、史君」


 有明の目は笑っていはいなかった。

 つまりそれだけは警察としても本気だし、これからも諦めるつもりはない。という事らしい。


「・・・・」


 寿々も史も全くもって厄介な事になったなと本気で辟易していた。


 ただ消えた坂口をこのまま放置するわけにもいかない。

 寿々は正直言って即座にこの件から逃げ出したかったが、アガルタが依頼した案件で再びオカルトラボの関係者に被害が出ている事だけは看過できないと、それだけを危惧していた。


「わかりました。とりあえずこの件は俺達(アガルタ)の管轄でもあるので、素直に出来るだけの事をします」


 寿々が苦い顔をしながらそう言うと、有明は再び満面の笑みで答えた。


「助かります三枝さん」



 このやり取りを見ていた朱李は、自分だけ蚊帳の外に出された気がして少し苛立っているようだった。


「有明も三枝さんも何を話しているのかさっぱり分からないな!とにかくこのゲームを一体どうすれば坂口を見つける事が出来るんだ?」


 そう言って朱李はその筐体に近づくと、迂闊(うかつ)に筐体の側面を軽く叩こうと左手を(かざ)した。


「朱李さん!それに触れないで!」


 まさか今の会話を聞いていて、そんなラフに触るだなんて思っていなかった有明は、驚いた様子で止めに入ったが時すでに遅しだった。


「は?」

 という朱李の言葉と共にバンという軽い音を出して叩かれた途端、今の今まで古びた電灯に照らされていた薄暗い倉庫は、瞬時にして一面真っ白な壁に格子状の線が浮かぶ奇妙なグリッド空間へと姿を変えていた。




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