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オカルティック・アンダーワールド:ベート  作者: アキラカ
婚姻怪異譚

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22/24

第6話 家族

 

 午後7時



 ようやく日も沈みかけ、茶沢通りの街灯が辺りを明るく照らしていた。


 寿々(すず)(ふひと)迦音(かなん)は3人揃って史の実家マンションへと向かい、そのまま約束していた史の両親との話し合いに向けて足取りを重くしていた。


「はぁ・・、ねぇ寿々さん。・・やっぱり今からでも帰りません?」


 史は昼間の事もあっていつも以上の疲労を全身で体現する。


「俺だって帰れるならばそうしたい・・・!でも・・やっぱりハンナさんとの事をこのままにしておいてちゃダメだと思う」


 寿々も今井(いまい)沙耶(さや)の霊と、史の冥婚の一件でだいぶ力を消費していた事もあり疲れが激しく、ましてやこれから史の両親に改めて史との交際の許可をもらいに行くだなんて。

 正直一つも勝算が見当たらなかった。


「いいじゃないですか、今更・・。俺が誰とどう交際しようとそんな事をただ血の繋がっているだけの人達にとやかく言われたくないですよ」


 史はやけくそなのかふてくされなのか、本心と言えばそうなのだろうが随分と投げやりな言い方をする。

 寿々は先ほどの今井沙耶と母親の事だけでなく、自分と自分の母、真紀(まき)の事を思い出しながら複雑な気持ちになった。


「・・うちは母親と二人っきりの時期が長かったし、俺はやっぱり母さんにはいつかちゃんと史との事を説明して、もし認めてくれなくても認めてもらえるまで何度でも説得したいと思っているんだ。だってたった一人の血の繋がった家族だからさ。切り捨てるなんてできない」


 寿々は自分の足元に目線を落としながらそう語った。


「それは、真紀さんなら当然ですよ!俺だって真紀さんには絶対に認めてもらいたいです」


「でもハンナさんだってどうにもできなかったんだろう?無理矢理まだ赤ん坊だった史から引き離され、子供の成長を近くで見守る事もできずに19年も経ってしまった。その悔しさは史が苦しかった事と同じように俺達にも到底わからないことなんだよ」


「・・・・」


 寿々の言葉に史も思わず黙り込んでしまった。


 そこへ二人の会話を聞いていた迦音(かなん)が二人の後ろからポツリと話し始めた。


「寿々さんのお母様も、ハンナさんも、私からすればとっても素敵な母親だと思いますよ?」


 寿々と史が後ろを見上げると迦音はにっこりと微笑んだ。

 史は迦音の前で母親の話は厳禁だったなと思い、少しだけ気まずくなって視線を外した。


「あ、史、今物凄く気の毒そうな顔で私を見たでしょ?」


 と迦音は少しだけイラっとしたような表情を見せる。


「いやまあ・・・そりゃそうだろ。公子(きみこ)伯母さんの事を思えば確かにうちの母親の方がまだいくらかマシにも思うよ」


 史は大分酷い言い方をしたが、迦音もそれは本当の事なので否定する事なくむしろ同意するように呆れながら頷いた。


「そうよ、遥かにマシだからね。・・・でもね」


 迦音は何かを思い出すように薄っすらとその切れ長な目を更に細め、夜風に吹かれた黒く美しい髪をサッとはらった。


「あんな毒親ではあるけれど、・・・お母様は小さい頃から私の性自認が女である事だけは絶対に否定しなかった。というか最初から認めて受け入れてくれた唯一の存在だったの。自分が女の子が欲しかったっていう願望も大きかったんでしょうけど。それでもそのおかげで私はどんなに周りから気味悪がられようが、差別されようが、やっぱりお母様の存在だけが救いだった・・。(はた)から見れば、とんでもなく酷い扱いと教育をする最低な母親だったしても、やっぱり子供はなんだかんだ母親に認めてもらえるだけで、この世に存在する半分は許された気持ちになれるもんなのよ」


「・・・・・」


 迦音にそう言われ、史は初めて一人でスウェーデンに行った12歳の時の事を思い出していた。


 あの時本当はスウェーデンに行くつもりなんて少しも無かったし、ハンナが電話先で怒り出してどうしても来なさい!ってブチ切れるものだから仕方なく支度をして、嫌々ストックホルムのアーランド空港まで重い気持ちで向かったのだった。


 史は空港で手を振るハンナを自分の目で見るまで、本気で絶対に許さないと固く誓っていたし、なんならぶん殴ってやろうとすら考えていた。

 それなのに。


「ヒューゴ!」


 初めてミドルネームで名前を呼ばれた。

 そしてそのまま力いっぱい抱きしめられた。


 本当にそれだけで、それまで考えていた恨みつらみのどす黒い感情が嘘のようにスッと消えてゆき、そんなはずないのに思わず涙が溢れている自分にとにかく驚いた。


 自分が望んでいた、羨んでいた感情が、持っていないと思っていた感情がちゃんとそこにあったのだと初めて気づかされた。

 母親の存在がどれだけ自分にとって大切だったのかを思い知らされたのだった。







 (ふひと)は2月末に家を出てから3カ月ぶりに家に戻る事となる。

 とにかく立場もあるので先に迦音(かなん)に家に入ってもらい、寿々(すず)と史はその後に続いた。


「叔父さま叔母さま、戻りました」


 迦音が先にリビングへと入ると、目の前のダイニングテーブルにはすでに史の父総司(そうじ)と母ハンナが腰を掛けて二人を待ち受けていた。


 迦音は左に逸れ、そのままキッチンへと向かったので、正面で待ち受ける二人からの無言の圧を一身に受けた寿々と史はチラリと目を合わせると、史は無言のまま、寿々は「お邪魔します・・」とばつが悪そうに挨拶をし対面に腰を掛けた。


 最初に口を開いたのはハンナだった。


「ヒューゴ、手を出しなさい!」


 ハンナは今朝寿々のマンションに来た時、一瞬だけ見た史の左手の薬指が無くなっている事を何よりも心配していた。

 史もそれについてはちゃんと対応しないとと思い、黙ったまま両手をテーブルの上に差し出す。


 ハンナは差し出された両手をくまなく調べたが。


「・・・おかしいわね。ちゃんとあるわ」


 とまだ疑い深く史の指を探っていた。


「わかっただろ?どの指も欠けてないし隠してもいないよ・・。もういいだろ?」


「・・・それならばいいのよ。もしヒューゴの身体に何かあったら私の心が持たないでしょ!でも無事ならばいいわ」


 そう言うとハンナは少しだけ険しい表情が緩んだ。

 きっと今朝怒って出て行ったのは、寿々との交際云々よりも自分の知らないところで史が大きな怪我でもしていたらと思ってそちらの方が気が気じゃなかったからなのだろう。

 寿々も隣でその様子を見て少しだけホッとした表情になった。


「んん"・・・じゃあ次は僕からだけど」


 そう言うと今度は総司が二人に話しはじめた。



三枝(さえぐさ)君。君は前に史が引っ越しをする時にここで僕に、史と付き合ってはいないときっぱりと否定したはずだよね?それがたった3ヶ月で手のひらを反すだなんて、一体どういう事なんだい?」


 総司もいつになく真剣な表情で寿々に問い詰める。


「だからそれは!」

「ちょっと待って史・・・」


 史がいつものように横から口を出そうとするのを寿々が止めた。

 寿々は緊張を緩める為に一瞬だけゆっくりと瞬きをして息を吐く。


「先生。確かに先生のおっしゃる通りです。傍から見れば手のひらを返したように見えるかもしれません。でも・・・俺にとってはこの3ヶ月はとてもじゃないですが、()()()3()()()ではありませんでした。いえ、正確に言うと史と出会って一緒に過ごした半年は、酷い事も嬉しい事も人生の全てがこの半年間に集約されていた、と言っても過言ではないくらい沢山の事がありました。それはもう到底事細かにお話できるレベルじゃありません。・・・でもだからこそ、一番側で史を見ていたからこそ、史の事を本気で大切だと思えたし・・・絶対に離れたくない、ずっと一緒にいたいとそう強く望んでしまったんです」


 寿々の熱弁に総司も圧倒されたような顔になっている。

 しかし一方でハンナは寿々のその話を聞いても全く動じる様子はなかった。


「先生もハンナさんも同じ気持ちですよね。当然史と一緒にいたいとそう思っていますよね?俺はお二人の気持ちと張り合うつもりはありません。親がそう思うのと、他人の俺が思う気持ちは確かに違いますから。ですから俺自身はこれからも史と一緒に暮らしたいと思っていますが、そこは史自身の気持ちを優先したいです。史がお二人と暮らす選択をしてもそれはそれです。・・・ですがこれだけは断言させてください。俺は史との交際だけは諦めません。なのでどうか先生とハンナさんには認めて頂きたいんです。お願いします!」


 寿々はそう言って二人に向かって頭を下げた。


 隣で聞いていた史はすぐにでも口を出したそうにしていたが、それより先に総司が口を開いた。



「・・・実際のところ、鈍い僕でも二人の絆は流石に分かってはいたよ。交際云々に関しては今の今まで疑っていたところもあるけれど。でも、三枝君がいてくれなかったら史は勿論、僕も迦音も未だに(はだ)家の呪縛に囚われて続けていたわけだし。正直言うと秦の事は僕がやるべき事だったんだ。それなのに三枝君を巻き込んでしまい本当に申し訳ないと思っていた」


 そう言って総司は頭を下げた。


「それに、そのおかげでこうやってようやくハンナも日本に戻って来れた。確かに家の事に関しては複雑な問題がまだまだ残ってはいるけれど。でも今は無くした親子、そして夫婦の関係を取り戻せた事が何よりも嬉しい。それも全部君のおかげだ。勿論これは恩義だけで言うわけではないけれど、僕は史と三枝君の事は二人でちゃんと決めたらいいと思っているよ。まあ本音を言えば家には帰って来て欲しいけれどね」


 そう言って総司は父親としては複雑ながらも二人の交際をとりあえずは認めてくれると、そう返してくれた。

 ・・のだが。


「ダメ!!」


 やはりそこまで聞いていたハンナはその二文字で全てを打ち消した。



「私はそれでも交際だけは認められない!」



 その確固とした意思をハンナ以外の4人はややドン引きしながら聞いていた。


「母さん・・それは本当にカトリックだけが理由なの?それともどちらかと言えば個人的な主張が理由なの?」


 史は真正面に座るハンナに向き合って真剣な目で質問した。


「どちらもよ。どちらも私と私の家族が紡いできた血の理なの。血を絶やさず人として健全であるべき姿でいる事こそヴェーゲナー家の信条でもあるの!だからこればかりは譲れない」


「でも俺はカトリックは勿論ヴェーゲナーの名前になるつもりもないんだよ。確かに(はだ)の名前も好きじゃないけど。それでも俺は今のままの俺でいたいし、父さんにも母さんにも今の俺をちゃんと見て欲しい。過去にあったかもしれない親と子の関係じゃなく、今からちゃんと向き合える関係でいたい。・・・きっとそれは二人が望む理想の息子じゃないかもしれない。ていうか俺は真面目な話、これからも二人の理想の息子になれる自信はない。何故なら母さんが譲れない気持ちと同じくらい俺にも譲れない事がある。それが寿々さんと一緒にいることだ。でも、もし許してもらえなくても・・・俺は・・・母さんの息子でいたい」


 史の一点の曇りもないその真剣な言葉を聞いたハンナは思わず椅子から立ち上がると、そのまま史を抱きしめた。


「・・・・そんな言い方されたら嫌だなんて言えるわけないでしょ。ああ、ヒューゴ。私の可愛い子」


 しかしこんな感動的な場面だと言うのに、相変わらずハンナの史へのハグは想像以上に力強く。


「ちょ・・・ほ・・息ができ・・」


 史は顔を真っ赤にさせハンナの腕をギブアップだと言わんばかりにバシバシと叩いた。


『見たの今日2回目だけど、ハンナさんの史へのハグって本当に首締ってるんだよなぁ・・・』


 寿々もこの母子のワイルドな交流にだけは手を出せずにいた。

 ハンナは大きなため息をつくと史から離れ、思わず涙を拭った。


「・・・スズ。何だか今日は色々と振り回してしまってごめんなさいね。じゃあ・・結論から言うわね」


 そう言うとハンナは再び自分の椅子に腰を掛け直し、二人を笑顔で見つめた。


「・・・・・」


 その笑顔が一体どちらの意味なのかわからず再び顔を見合わせた。



「はぁ・・・・。まず、交際はやっぱり認めません!!」



「はぁああ!?今の流れでその答えになるか??」


 史も思わず馬鹿でかい声が出る。


「ヒューゴ、ちゃんと最後まで聞いて。・・・()()()()交際を認める事は出来ない。でも、私もようやく家族に戻れると思って日本に帰ってきたのに、初日から絶縁だなんて事も絶対に嫌!それに、二人がお互いに大切に想っているのならどう考えても私がそれを遮るなんてやっぱり無理な話ね、うん。今日一日色々考えたし、今の二人を見ていてそれは無理だってよく分かった。だからとりあえずは保留にします!」


 ハンナはそうきっぱりと寿々と史に向かって言い切った。

 隣でそれを聞いていた総司も流石にどうかと思って口を挟まずにはいられなかった。


「ハンナ・・・この流れでそれは酷いんじゃないのかい?だって今の話だと君だって本心では二人を認めてあげたがっているように聞こえたけれど・・・」


「そうね、本心ではそう。でも一方で掟を守る身としてはそうはいかない。だからこそ認めてあげられるよう私はこれからどうすればいいのかを考えるわ!理屈っぽいって言われるでしょうけどそれがハンナ・ヴェーゲナー、この私なの。だからそこだけは諦めて。いい?二人共。今は猶予期だから私の結論が決まったら改めて話すわ。それまでは月に一回は必ず二人で私に会いに来なさい!それからヒューゴ」


 ハンナはビシっと史を指差した。


「え、何?」


「あなたは月一に関わらず私が呼び出したら必ずすぐに来なさい。でないと私が容赦なく家に押し掛けるから忘れないで!それと」


「・・何まだあるの?」


「カトリックの洗礼については保留だけど教えは誰にでも通ずるものだから先に言っておくわ。姦淫は地獄行きよ!純潔の精神を持ちなさい、いいわね!」


「もう・・嫌だ・・・早く帰らせてくれ」


 史は酷くうんざりした様子で顔を両手で覆いテーブルにそのまま伏せた。







 すっかり疲れ果て、特に(ふひと)は来た時よりもふらふらとして更に調子が悪そうだ。

 寿々(すず)が玄関を出ようとするのを迦音(かなん)は丁寧に見送ってくれた。


「ふふ、じゃあ次二人が来る時は、はりきって料理を用意するわね」


 迦音は何だかとても楽しそうにそう言って笑う。

 それを見て寿々も思わず嬉しくなり、


「迦音さん、今度またうちに来て料理教えてよ!それでぜひ今度こそ一緒にご飯を食べよう!」


 と何と無しにそう言ってしまったが、迦音が返事を返す前に、


「料理を教わるって、寿々さんがですか?」


 と疲れた顔のまま史が突っ込みを入れた。

 それを寿々はしまったと言わんばかりの表情になり、


「それは・・・ごめん。本当にこれからは俺もちゃんと料理するから許して」


 と、ほぼ毎日朝夕版と料理を担当する史に甘え続けている寿々は、本気で詫びる気持ちで謝罪した。


「はは、本当に羨ましいわ二人共」


「「?」」


 寿々と史は目を細めて笑う迦音に同時にきょとんした表情になる。


「ええ、また絶対に遊びにいきます」


 と迦音は満面の笑顔でそれに応えた。







 二人はマンションを出るとタクシーを拾おうと大通りに出たものの、ついていないのか一台も止める事が出来ず、仕方なくそのまま徒歩で帰る事にした。


 家までは歩くと大体50分くらいだろうか。

 しかし二人は心地よい夜風を楽しむかのように寄り添いながらいつも以上にゆっくりと歩いた。

 時刻は夜の9時半になろうとしていた。



「それにしてもハンナさん、保留にはしてくれたけど、とりあえずは悪い方には考えていなさそうで安心したよ」


 寿々(すず)は顔が(ふひと)の肩に当たりそうな距離で安堵したように話しかける。


「わかりませんよ?あの人絶対に俺より頑固ですからね。下手したら一生認めてくれないかもしれません」


「そうかな・・?ま、とりあえず毎月会いに行かなきゃだし、その度にしつこくお願いしてみるしかないな」


 寿々はそう言ってクスクスと笑った。

 そしてふと触れた史の左手をそのまま持ち上げ、


「・・指戻ってきて本当に良かったな」


 と史の長く逞しい綺麗な指を満足そうに眺めた。


「薬指」


「?」


「必死になって探してくれてましたけれど。やっぱり無かったら嫌でしたか?」


 史は何だか意味深な言い方で質問をする。


「はぁ?親指だって人差し指だって急になくなったら嫌だろ?嫌じゃないのか?」


「いえ、ただ薬指は本来一番動きも悪く薬を混ぜる事くらいしか用が無いから薬指って言われているじゃないですか。でも一方では心臓に直結する静脈があるから愛情や誠意への象徴として薬指に結婚指輪を嵌めるとかなんとか。だからもしかしたら寿々さんがそれを気にして必死になって探してくれていたのかと・・・」


「・・・うんちく?」


「うんちくのくだりはどうでもいいんですよ。いやまあ勘違いでしたらいいんです忘れてください」


 史は話の腰を折られたような気がして左手を下そうとしたが、寿々はそれを止め自分の右手を史の手に絡めた。


「そうに決まってるだろ?」


「・・・・・」


 夜道の住宅街は想像以上に静まり返り、通りを行き交う人はほとんど見られなかった。

 史は思わず嬉しそうに顔を赤くして右手で覆った。


「え?・・・寿々さんは結婚とかしたい・・方なんです・・か?」


 思わず史がたどたどしい口調でそんな質問をするので、寿々は堪えきれず笑い出してしまった。


「ははは」


「え?今の笑うところですか??」


「ごめんごめん違うんだ。・・・ほら昨日同期の結婚式に行っただろ?何か色々と考えちゃってさ・・・」


「何か言われたんですか?」


「ん~・・・んまぁ皆適齢期だから、それなりにな」


「アホらし。人の事なんてほっとけって話ですよ」


 史がそう言うと寿々は少し黙って考え、その間遠くからの電車の音とバイクが駆け抜けてゆく音だけが静かに流れた。


「・・・結婚な・・・前はしなくちゃって思ってた。する前に振られたけど」


 史は寿々が急に元カノとの話を出して来てドキっとした。


「今は・・・・?」


「今は・・・・・」

 寿々は握った史の手を再び持ち上げるとか細い指で薬指をなぞった。

 そして史の顔を見上げ、


「できたらいいよな?」


 とにっこりと笑った。


 その愛くるしい笑顔に惹かれ、思わず史は住宅街の道端で寿々の首に手を置くと屈みこむようにして寿々にキスをした。

 幸い周りには誰もいなかったが、寿々も史も人目に触れてもおかしくない屋外でキスをするのは初めてだった。


 少し離れた街灯の灯りだけが、乾いたアスファルトに静かに二人の影を伸ばしていた。


 ゆっくりと顔を離すと思っていた以上に寿々の顔が赤い。

 だが抵抗したり嫌がっている様子もなかった。


「・・・いやぁ、想像以上にはずっ・・」


 寿々は小さく呟くとごまかすように目を逸らしたが、史はそのまま真剣な目で寿々を見つめ、


「できたらいいじゃなく。もし寿々さんにその願望が少しでもあるのなら、俺はいつでもあなたにプロポーズしますよ?」


「プロポー・・・」


 寿々は史のその言葉に急に焦りを見せる。


「今、しましょうか?」


「い、今!?ちょ・・待って今は違う!!」


 焦る寿々を見て史も声を出して笑った。


「はは、確かにここでするのは何か違いますね」



『ま・・マジで焦った!!本気でプロポーズしてきそうだったじゃん!』


 寿々は繋いだ手はそのままに、しかし急な緊張で余計に力が籠った。

 その様子を見て逆に緊張が解けた史は寿々を引っ張るように再びゆっくりと歩き出す。



「・・実は俺も昨日家に帰ってくる途中、丸さんの結婚の話を聞いて色々と考えていました」


「え!?・・そうなのか?」


「はい。・・・何で俺は怪力の女に生まれ変わってこなかったのか?って」


「は?・・・史が?女?」

 その突拍子もない発言に思わず寿々の目が点になった。


「え・・なんかおかしいですか?だって老犬日向吾(ひゅうご)からの転生順でいったらそれしか選択肢ないでしょ。寿々さんの事を守れるくらい強くて呪力も使えて、寿々さんが文句言わないくらいの美少女」


「あははは、史が美少女??」


「え?だから何がおかしいんですか?ちっともおかしくないでしょ」


「いやぁ・・・おかしいな。おかしいおかしい。銀髪怪力美少女史子(ふみこ)とか全く想像ができない」


「酷すぎ。史子に謝って下さい」



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