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オカルティック・アンダーワールド:ベート  作者: アキラカ
婚姻怪異譚

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20/25

第4話 天使と呪術師


 その後迦音(かなん)寿々(すず)の望み通りに必死になって周辺を探ったが、やはり詳細な場所を特定するには至らなかった。


 一方(ふひと)も、数少ない中学時代の友達に連絡を取り、今井(いまい)沙耶(さや)の実家がどの辺りだったかを探ってみたが、こちらも断定的な場所を探り当てる事は出来なかった。


 史は今、透視能力は勿論、左手の呪力そのものを封じられている。

 かくなる上は寿々の〖未来視〗の力に頼るしか他なかった。


 だが寿々は、いまだに未来を視る力を自在に扱う事が出来ないずにいる。

 それは寿々が魂だけ天使で、身体が人間の中途半場な存在だからなのか。それとも単純に天使としての能力が未熟すぎるのか。

 何にせよ今の寿々にとっては歯がゆくも忌々しい状態である事に違いはなかった。




「・・・・・・」


「どうです?何かわかりました?」


 時刻は午後2時半。

 梅雨の合間の晴日である今日は、この時間になると想像以上に日差しも強く、公園で遊ぶ親子達も暑さ避けなのか次から次へと姿を消していった。


 寿々は公園のベンチに掛け史の手を取り、新宿の天使シンディがそうやるように意識を史の頭上へと集中した。


 しかし何故なのか、史の上位者(マスター)はうんともすんとも返してはくれない。


「・・はぁ・・・ダメだ。俺、やっぱりシンディさんみたいに上位者(マスター)との交信(チャネリング)とか才能なさすぎるんだと思う」


 そう言いながら肩を落とした。


 その様子を隣で見ていた迦音は、本当にいつの間に寿々がそういう才能に目覚めていたのか、と不思議そうな目でその様子を伺っていた。


「前にシンディさんも、俺の上の存在(ハイヤーセルフ)は相当頑固なのか簡単にその存在を視せてはくれない、って言ってましたからね。自分で言うのもなんですが、何となくその(ひね)くれた感じは俺自身でも頷けます・・」


 と史は申し訳なさそうに答えた。


「それにしてもこうなると打つ手無しって事になるな。はぁ、今井の家さえ分かれば何か手がかりが掴めるはずなのに・・・」


 寿々ががっくりと肩を落とすと、史は何かひらめいたように上を見上げた。


「そうか」


「?」


「前にシンディさんって、遠隔で俺達の事を感知できていた事がありましたよね?」


 史にそう言われ、寿々もようやく思い出したように手を打つ。


「そう言えばそんな事もあったな!・・よし、俺ちょっと電話してみる」


 そう言ってスマホを取り出した瞬間、悟られていたかのように丁度シンディからの着信が入った。


「え?あれ?シンディさん??」


 寿々は急いでシンディからの着信を取った。



「ちょっと寿々?急に思い出したかのように私を呼ぶなんてどういう事?」


 スマホの向こうから聴こえてきたのは、かなり不機嫌そうなシンディの声だった。


「あ、あはは。すみません。もしかしてとは思ったのですが・・・やっぱり分かっちゃいましたか?」



「私、今は夜お店に出てるから昼間はぐっすりなのよ!なのに急に呼び出されたら返さないわけにもいかないでしょ?私あんたの教育担当みたいなもんなんだし」



 シンディは新宿2丁目を縄張りとする天使の一人だ。

 寿々とは違って一度この世から天に上がり、魂だけ降りてきてから魂の抜けた人間の身体に宿り、その使命を真っ当しているちゃんとした天使だ。


 そして天使はこの世の人間をサポートして少しでも良い方向へと導く事が使命でもある。

 また天使同士はこうやってある種テレパシーのような交信もできるようになっているらしい。

 本当ならば何か不足の事態があれば、地域に配属されている天使同士を召喚できるらしいのだが・・。

 寿々はその力すら中途半端な為、今のところこうやって意図的に交信が可能なのは面倒をみていくれているシンディに限られていた。


「で?史に何かあったのかしら?」


 そう言われて寿々は事の一部始終をシンディに説明した。


 通話の向こうのシンディも最初は眠たそうに頷いていたが、途中から思ってた以上に深刻な状況を理解して最後の方は真剣な声色へと変わっていた。


「・・という具合で。どうにも俺達にはこの先の手がかりが掴めない状態なんです」


「なるほどねぇ・・・」


 そう言うとシンディは少しだけ考えるように黙り込んだ後、


「・・今、寿々と史以外に()()()()そこにいるでしょ?」


 と急にシンディから迦音(かなん)の事を言われ、寿々は驚いてそちらを見上げた。


「え?はい。いますけど・・」


 と戸惑いながら返事を返すと、


「ちょっとそこの()()に代わってもらってもいいかしら?」


 シンディからそう言われた寿々は、不思議そうな顔をしている迦音に向けてスマホを差し出した。


「迦音さん、今電話をしている人から迦音さんへに代わって欲しいって言われていて・・」


「ええ!?わ、私ですか?え?私の知らない方ですよね?どういう・・」


「あー・・そうなんだけど。俺達の事を信用してちょっと話を聞いてみてもらえないかな?」


 そんな風に寿々に言われたら迦音だって断ることなどできない。


『今の会話の中で私が一緒にいるだなんて一言も話してなかったのに。寿々さんの知り合い方って一体どういう・・・』


 迦音は恐る恐るその通話に応答してみた。


「・・あの、もしもし代りました・・」


「はぁい、初めまして!私、寿々と史の知り合いのシンディって言うんだけど」


 緊張した迦音に反し、向こうから返ってきたのは底抜けに明るい男の声だった。


「あ、はい!えっと・・こちこそ初めまして。迦音(かなん)と言います」


「カナン?そう、素敵な名前ね。よろしく!」


 その優しい口調からして、シンディがすぐに自分と似たようなジェンダーなのだと理解すると、迦音は不思議な程安堵感を覚えた。


「さて、じゃあカナン。私がこれから言う事をよく聞いてちょうだいね?」


「・・・はい」


「カナンは呪いの力で人形(ひとがた)を使役できるわよね?」


「そうですね・・・今は適当な人形が手元にないのですぐには無理ですが」


「大丈夫、ちゃんとしてなくていいの。向こうの術師は恐らく貴方達を鏡か何かで監視している。だからこそ向こうを(おび)き寄せる為に、紅いチャイナドレスを着た髪の長い女を人形にして使役しなさい。やり方は分かるわね?」


 シンディにそう言われて迦音は、なるほどと思いその提案を受け入れた。


「わかりました。やってみます」


 迦音の切れ長な目が更にキリッっと吊り上がり、瞳の奥が微かに呪力の金色の光を放つ。


「あーそれから!」


「?」


「今度絶対に寿々と一緒に私のお店に遊びに来なさい!寿々には今回の分は店での労働で支払ってもらうからって伝えておいて~!じゃ、がんばって」


 そう言うとシンディは寿々や史に何も告げずに通話を切ってしまった。


「あ・・・切れちゃいました」


 そう言って迦音は寿々にスマホを返した。


「それで?シンディさんは何て?」


 寿々はスマホをポケットにしまいながら迦音に聞くと、


「寿々さんには今回の分は自分の店での労働で支払ってもらう、って言ってました」


「は?俺が?シンディさんの店で??」


 寿々は何でそんな事になったのか意味が分からず思わず大きな声が出た。


「・・・寿々さんがゴールデン街の飲み屋でバイトですか?・・正直俺は嫌です」


 史も冗談じゃないと言わんばかりの表情だ。


「絶対に寿々さんと一緒にお店に来なさいね、とも言われました」


「はぁ・・・なるほど、これはあれだな。恐らく役不足な俺へのシンディさんなりの説教のつもりか。・・わかった。その件についてはこれが片付いたらまた話そう」


 寿々は頭を抱えながらため息を吐いた。


「それで、何かアドバイスはあったのか?」


 寿々に代わって史が迦音に聞くと、


「そうね。上手くいくかは分からないけれど、ちょっと試しにやってみる。先ずはどこかコンビニで赤と黒のペンと白いメモ用紙を用意するわ」


 そう言うと迦音は辺りを見回しながら自分のスマホを取り出し、スタスタと公園から出て行ってしまった。

 寿々と史は何が始まるのか分からず顔を見合わせると迦音の後を追った。






 迦音(かなん)は近くのコンビニで目的の物を揃えると、店の片隅にある今はあまり使われていないイートインスペースの机の端を借りてシンディに言われた通りの形代を作った。


 縦長のメモ帳の角を器用に折りこみ人の形に整え、頭の部分から腰辺りまでを黒い長い髪のように塗り込むと、手と足までの部分を綺麗に赤色のボールペンで塗りつぶした。


「それって人形(ひとがた)か?」


 横で覗き込んでいた史が興味深そうに質問をする。


「そう。シンディさんが言うには誰かを特定するような明確な人形でなくていいから、アイコン的な人形で向こうの術師を(おび)き出せって言われたの」


「なるほど。でもそういうのは対象になる相手の身体の一部がないと上手くいかないんじゃないか?」


「本物のように勝手に動かそうとするならば勿論そうだけど、これはあくまでも見せかけの案山子(かかし)みたいなものなの。ところで史この裏にその今井って人のフルネームを書いて」


 史は迦音に促され、人形の裏に今井沙耶の名前を書き込んだ。


「・・・さて、この後はこれを燃やさないといけないから、とりあえず店を出ましょう」


 3人は店を出るとすぐ脇の小道に入った。

 迦音はそこでゆっくりと目を閉じ(まじな)いを3回呟くように唱えると、ゆっくりと瞼を開く。

 その目は呪力を灯した黄金色へと変わっていた。


 迦音は意識を集中させ人形を両手でパシンと圧し潰したあと、コンビニで買ったマッチを一本すり人形に火を点けた。すると人形はまるで手品のようなボッという小さな爆発と共に一瞬にして燃え上がったかと思うとすぐに灰になって消えてしまった。


 迦音はその手の内に残った灰を史の左手へとバトンタッチするようにパシンという音と共に渡す。


「・・・これで私の作った人形の案山子は史の背後に憑いたと思う」


 そう迦音が言った途端、その様子を見守っていた寿々が突然悲鳴のような声をあげた。


「うわっ!!」


 寿々は史と自分のすぐ後ろに突如として現れた紅いチャイナドレスの女を見て飛び跳ねるようにして離れた。


「え?もういるんですか?俺の後ろに?」


 呪力を使えない史は、今はその波動すら察知する事が出来ない。

 普段ならば姿形は視えなくとも何某かのオーラ的な色を視ることができるはずだが、今はそれも全く分からないようだった。



「い・・いる、いる!っていうかちゃんとした形を成していないから、顔とか全く無いし、体とか所々潰れていて余計怖いんだけど!!」


 寿々にはその姿が、まるで失敗したAI生成画像のように体の接続や表面組織そのものが不自然にグシャグシャとして、更に顔そのものはまさにのっぺらぼうそのものに見えていた。


「寿々さんってはっきりと視えるんですね・・。作った私でもその姿はボンヤリと霞んでいるようにしか視えないのに」


 迦音も自分で作っておきながらそこまで解像度が高くないのか、寿々のその霊視能力の高さに驚いていた。


「さて、これで向こうから餌にかかってくれるかどうか・・」

 怯える寿々を気にしながらも、史は迦音に向き直る。


「そうね。とりあえずこの状態のまま、もう一回さっき行ったあの中華料理屋まで戻ってみて、どうなるか試してみましょう」




 時刻は午後4時半を過ぎていた。


 3人はどうにか手がかりを掴むため、あわよくば向こうの術師から接触してくることを期待しながらもう一度茶沢通り方向へと戻り始めた、その矢先だった。



 今まで通りに沢山いたはずの歩行者が忽然と姿を消した。


「!?」


 最初にその異変に気付いたのは寿々(すず)だった。


「寿々さんどうしましたか?何か・・・」


 続けて迦音(かなん)が寿々の反応に気づき、そしてすぐに辺りの様子が変わっている事にも気づく。


「・・・急に人通りが・・」


「・・なんだ?まるでどこかの結界内に入り込んでしまったかのような違和感が・・」


 (ふひと)も呪力での感知はできないが、少しだけ残っている浄化の力のおかげか妙な空気に紛れてしまったのだけは理解できた。


 寿々は立ち止まったT字の脇道の方が気になり目を移す。

 すると急にその道先が異様に暗く淀み、数メートル先が真っ暗になっているのが視えた。


「寿々さん?」


 その様子を全く感知できない史は寿々の険しい顔を見て警戒をする。


 隣にいた迦音は寿々程でないにせよ、同じように道の先に禍々しい波動を感じ取る事だけは出来た。

 寿々は黙ったまま眼鏡をスッと下し、遮蔽物無しでその様子を視ると、道の先に紅い提灯がボッ、ボッ、ボッ、と左右対称に灯りだすのが視え、そのまま3人を導くかのように行く先を照らした。

 その提灯はパッと見でも日本の物とは形が違うのは明らかだ。



「・・・上手い事餌にかかってくれたのか、向こうもようやく招き入れる気になってくれたみたいだ・・・。行こう」


 そう言うと緊張しながらも、寿々は覚悟を決めた表情で先頭を進み始めた。






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