【閑話】セルヴィア小国連合の重鎮たち
ここは小国群ーーセルヴィア小国連合の、フェルシア公国のとある城。
現在、カシェリオスに出向いている、クルヴァレス王国のレンジェロより、定期報告が上がってきていた。
会議室の一室にて、その報告書を囲んで座るのは五人の重鎮たち。
フェルシア公国のノルコス公。
ティセリア王国のルヴェラー王。
オルベラ王国のキーケット王。
リューネル公国のフレック公。
そしてクルヴァレス王国の前王、レンロット。
レンロットは今も壮健で、
「妻とゆっくり過ごしたいから」
という理由で息子、レンジェロに王位を押しつけ、悠々自適の隠居生活を送っていた。
だが今は息子に頼まれ、国王代理として政務に復帰している。
「 ……なるほど、愛し子が面会を断っていた理由が明らかになったな 」
最初に口を開いたのはノルコス公だった。
「 まったく言葉が分からぬとは。確かにそれでは他者に会わせるのは難しかったろう 」
ルヴェラー王が頷く。
「 監禁されていたわけではないと分かっただけでも、ひとまず安心だな。
まあ、アルセルド師がそのような事をするとは、最初から思っておらんが 」
キーケット王が肩をすくめた。
「 それにしても、レンジェロ王の功績は見事だ。
愛し子との面会を果たし、さらに通訳役まで確保するとはな 」
フレック公が感心したように唸る。
「 それによって得られる情報は計り知れぬ 」
ーーもちろん、アミキスがはしゃいで、愛し子を転ばせたなど誰も知らない。
「 正直に言えば、最初にレンジェロ王が親善大使を送ると言い出した時には、若さゆえの青臭い理想だと思ったものだが…… 」
ノルコス王がゆっくりと盃を回しながら言う。
「 なかなかどうして。しっかり成果を上げてきたな! 」
「 うむ。良い若者が育っているというのは、実に良いことだ 」
ルヴェラー王が笑みを浮かべて頷く。
「 若さのなせる業か、機転も利くし行動も早い。 まったく頼もしい息子を持ったものだな、レンロット殿! 」
ルヴェラー王が笑うと、レンロットは胸を張って笑った。
「 はっはっは! さすがはわしの息子よ! 」
王たちの間に笑いが広がる。
「 聖姫が一昨年亡くなられていたとは驚きだ。 愛し子はその孫娘とか 」
ノルコス公が神妙な顔で言う。
「 十代に一人といわれる “ 強き巫女姫 ” であろう。 そうでなければ、覚醒した穢れの腕を浄化などできまい 」
ルヴェラー王の言葉に一同が頷く。
穢れの魔物が出た際、その魔力の波動は小国群にまで届いていた。
巫女の力が強い者たちは、恐慌状態に陥ったほどだ。
「 あの強い穢れの魔力に当てられながら、巫女の血を引く使節団がよくカシェリオスに留まり続けたものだ。
特にレンジェロ王は、巫女の一族の特徴も力も強く引き継いでおるというのに、よくぞ耐えたものよ 」
キーケット王が感嘆の声を上げる。
「 レンジェロ王は肝も座っておる 」
ーー実際はビビり散らしていた、などとは誰も思っていない。
「 神殿よりもたらされた情報も相当なものだ。レンジェロ王はよほどうまく立ち回ったのだろう 」
フレック公の言葉に、全員がうなずく。
ーーウキウキで神殿見物していたとは、誰も想像すらしていない。
「 ” 月夜祭祀 ” で何らかの情報がもたらされる見込みだと……愛し子に関する事か。 それとも別の件か 」
ノルコス公が呟く。
「 “ 死綴の環 ” を目視確認せよと連絡したが、見ずとも間違いはあるまい。 あれほどの魔力だ 」
ルヴェラー王の声に、重い沈黙が落ちる。
その昔、巫女の国ケルメナを滅亡へと導いた呪物。
それが再び世に放たれていた。
穢れの腕が出ていたという事は、それまでに数多い犠牲者が出ていたという事だ。
だがすぐに、希望の声が上がった。
「 しかし、国を滅ぼすほどの魔物を産む呪物を浄化できる巫女が生まれている。 絶望的と思われた巫女姫の血筋が、まだ生きていたのだ 」
ノルコス公が言う。
聖姫が旅立ち、巫女姫の血統は途絶えたと、誰もが思っていた。
しかし、愛し子が聖姫の孫娘だというのなら、希望はある。
「 こちらへお招きすることは出来まいか? 一度、巫女の血を引く者たちと会って頂ければ……。
もしや、誰かを気に入ってくださるかもしれぬ。
あるいは、こちらの文化を気に入って下さる可能性もある 」
フレック公が期待を込めて提案する。
「 ケルメナの再建…… 」
誰かが小さく呟いた。
「 ……夫が何処の誰であろうと、母が巫女姫であれば、生まれるのは巫女姫の血統を持つ御子だ。
他で婚姻されても、複数の御子に恵まれ、これからの交流次第では、いずれかの御子がセルヴィアに来てくださるかもしれぬ 」
その言葉に、室内の空気がわずかに明るくなる。
「 今はレンジェロ王に頑張ってもらうとしよう。 あの若さなら、やれるだろう 」
キーケット王が笑う。
「 息子の滞在は何年でもよいと、わしから通信で送っておこう 」
レンロット前王がいい笑顔で言った。
ーーそもそも元気なのに 「 妻とゆっくりしたい 」 という理由で息子に押し付けた王位である。
国王の代行と言う形での、公務への復帰は容易だ。
「 身分がばれていたのは仕方あるまい。 相手はアルセルド師だからな。そもそも隠し通せるとは思っておらん 」
苦笑いをするノルコス公。
「 しかし聖姫の夫が、巨鳥コーレリスを使役し、ドラゴンを狩るほどの強者だったとはな 」
ルヴェラー王が声を潜めた。
「 女神によって保護されたのだ。 女神は、聖姫を守れる力を持つ者に託したのだろう 」
フレック公が静かに言う。
「 それによって、聖姫とその血統が守られた…… 」
ノルコス公が頷く。
「 それにしても、レンジェロ王の護衛のアミキスとか言ったか。
やかましい加護持ちと聞いていたが……
まさか “ 多言語を理解できる加護 ” だったとはな 」
キーケット王が感心したように言う。
「 『 加護は必ず持つ者の役に立つ 』
アルセルド師がそのように言っていたそうだ。
加護には不明なものが多いが、役に立たないやかましい加護と思われていたものが、実際は稀有な力をだったと聞くと、その通りなのだろう 」
皆が感心したように頷く。
そして話はレンジェロの事へ。
「 しかし、レンジェロ王はおなごを口説けるのか? あまり浮いた噂を聞かんが 」
キーケット王が盃を手に、にやりと笑う。
「 はっはっは! 若造はもっと経験を積まねばならん! わしの若いころなぞ、両側に美女をはべらせてだなーー 」
レンロットが得意げに話し出すと、誰も止められなかった。
年寄りの昔話が始まると止まらないのは、どの世界でも同じである。
杯が進み、笑い声が広がり、会議室の夜は更けていった。
会議は長期戦(飲み会)へ突入!




