【小国群⑪】小国群と秘密の約束
小国群の一行と大神官は、大神官の居住エリアにある談話室へ場所を移動した。
「 ここならば、ミハル様もすぐに来ることが出来ますのでな 」
談話室に入り、侍従たちの指示に従って着席すると昼食が運ばれてきた。
「 さて、まずは挨拶からかの。 大神官の地位についておるアルセルドと言う。
知ってはおろうが、良しなに 」
知らないわけが無い。
そもそも知っていて面会を申し込んでいるのである。
だが大神官自らが名乗ったということは、こちらへも
゛正式な名を ゛ 名乗れと言う事だ。
胸に手をあて、簡略ではあるが礼をとる。
「 クルヴァレス王国よりまいりました、レンジェロでございます。
警備の都合上、身分を隠しての行動でございました。
お許しください 」
「 いや、王と言う身分の者は、その身分を掲げながらであればそうやすやすと動けぬものじゃ。
そのために、身分を隠しての行動は理解できますゆえにな 」
大神官は笑顔で答えた。
「 食べながら話そうかの 」
そういうと話を始めた。
「 セルヴィア小国連合からの、正式な申し込みを何度も断って申し訳ない。
愛し子様への面会を、多くの国や貴族たちからも申し込まれておったのだがな。
先程の事でもお分かりだと思うが……。
愛し子様は、こちらの言葉が分からぬのじゃ。
お立場を説明して、お分かりいただくのが困難であった。
その状態で、身知らぬ者達との顔合わせをしても、愛し子様のご負担になってしまうゆえ、すべての面会をお断りしておったのじゃ。
わしへの面会申請もお断りしておった。 どうせ聞きたいのは愛し子がらみであろうからの 」
大神官の話を受けレンジェロが口を開いた。
「 はい。お言葉の件、確かにその通りでございましょう。
また、お言葉が分からぬことを利用し、愛し子様へよからぬことを企てる者が現れないとも限りません。
わたくしどもは、今回の面会を快諾して頂けただけでも光栄でございます 」
「 ふむ。
今回の事は、別件にて話を聞きたいことがありましてな。ただ、思いもよらぬ方法で、愛し子様のお心に触れることが出来きたのは幸いであった 」
「 別件……、でございますか? 」
レンジェロが聞き返す
「 ふむ。そちらもおそらく聞きたい事だろうしの。
お互い情報交換でもどうじゃろうな 」
側近達の何人かがピクっと反応した。
( おい、反応するな。
おそらくそういう反応すら、こちらを探る判断材料になってるはずだぞ )
心の中で側近達を何とかしたいと思いながらも、レンジェロは笑顔でこたえる。
「 わたくしでわかる事ならば、何なりと 」
レンジェロの言葉を受けて、大神官が淡々と話をする。
「 祝賀祭より四日目の夜。 街道沿いの町シアロッサの近くに魔物が現れた。
おそらくケルメナを滅ぼした呪物より生まれし魔物じゃ。
魔物が浄化された後に、呪物である ” 死綴の環 ” が回収された 」
側近の一人が匙を落とした。
何人かはあの穢れの魔物の恐怖を思い出したかのように顔色が悪くなる。
( おい、だから反応するな! 全部見られてるぞ! )
ダメだこいつら。
そう思いながらも
レンジェロは大神官との話を続けた。
「 死綴の環が回収ですか。 ……穢れの腕を浄化したのは愛し子様でございますか 」
「 さよう 」
「 ……神の布が光り輝き、穢れの腕を抑え込んだ、と。
その後布が燃やされ、シアロッサに集まっていた戦士たちが戦い、愛し子様が降臨され浄化された、でございますか? 」
「 そのとおり 」
「 その神の布とは、大神官殿が今回の事を見越して、ヴァンドル辺境伯閣下にお渡しになっていた、という事でしょうか 」
「 いや違う。 布はヴァンドル辺境伯自身が神より賜ったものじゃ 」
「 辺境伯閣下自らが、神より賜ったと? 」
「 さよう 」
大神官はゆっくりとうなずきながら言った。
「 ミハル様の降臨する数か月前より、神からの導きがあった。
その時に布が下賜されておる 」
「 愛し子様の、ご降臨前にでございますか 」
レンジェロの問に、大神官は静かに頷き言葉を発した
「 ヴァンドル辺境伯は、赤子の時に加護を受けておる。 その加護の働きによる物であろう 」
「 加護の…… 」
大神官は静かに話を続ける。
「 加護は必ず持つ者の役に立つものなのじゃ。
だが、人の目からは判断つかぬ加護も多くある。 しかし与えられている以上、必ず意味がある。
女神は常に、我らに手を差し伸べておられる。
それに我らが気がつくかどうか、それだけじゃ 」
小国群の側近達の目が輝いている。
今回の随行者は、全員加護持ちだ。
普段の能力より、とにかく加護を持つ者をかき集めた。
しかしそのほとんどが、なんの役に立つか分からない様な加護だ。
加護が発動しているのか、分からないような者もいる。
その最たるものであったアミキスの加護が、実はどの言語をも理解し、今現在、愛し子との橋渡しが出来る唯一のものだと判明した。
ならば自分の持つ加護も意味があるはず!そのような期待を持ったのであろう。
だが……
( だから、お前ら顔に出しすぎなんだよ! )
笑顔で大神官の話に相槌を打ちながら、側近達の浮かれ具合にイラっとする。
大神官は微笑ましそうに、そんな側近達を見ている。
「 さて、今後の事だがの 」
大神官は話を続ける。
「 アミキス殿をしばらく神殿でお借りしたい。 場合によっては守秘義務の魔術契約も結ばせていただきたい。
ことは愛し子の事なのでな。
また、語学の対応表を作りたいと思っておる。
ミハル様の言葉は、語学の研究者ですら聞いたこともない言語であってな。 意思疎通が難しいことも多かった。
この後には、語学の研究者が神殿に来る予定になっておる 」
「 もちろ 「 はい是非に! 」 …… 」
” もちろん協力させていただきます ” とレンジェロが言いかけた時にかぶせてアミキスが 「 はい是非に! 」 と叫びやがった。
くそっ!
「 それとな、女神の慈悲深き御心により、セルヴィア小国連合の方々とこうして話をする機会に恵まれた。この縁を生かさぬ手はないと思うてな。
よろしければ、四日後の月夜祭祀に顔をださぬか? 」
月夜祭祀
月夜ーー 満月に女神への祈りを捧げる物だ。
つまり前日から泊まっていけと言っているわけだ。
おそらく側近達全員に聞かせる話ではない情報が有る、と。
「 大変光栄でございます。
是非、女神様の御心に触れる機会を、賜りたいと思います 」
レンジェロは笑顔で応えた。
【月夜祭祀】
女神の慈悲が降り注ぐ月夜に、感謝を捧げるもの。
月夜祭祀の儀式で小さな木片(護符)に祈りを込めたものを、孤児たち手作りの小さな袋に入れ寄進と引き換えに信者に手渡している。これが神殿のお守り。
【闇夜祭祀】
女神教では、太陽は女神の慈愛、月は女神の慈悲であると言われる。
新月(闇夜)は月光が無いため、女神の慈悲が届かないと言われる。
その為、闇夜でも慈悲を請うための祈りを捧げる儀式が行われる。




