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凱旋の宴と忍び寄る闇

お読みいただきまして、ありがとうございます。

気が付いたら、連載を初めて一年たっておりました。

筆が遅い自分ではありますが、1周年の記念で9/28~10/4の一週間、毎日投稿いたします。

更新は、変わらず10時になります。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


 凱旋の宴と忍び寄る闇


 盛大なパレードが終わった。

 明日は功労者への報償と労い(ねぎらい)が予定されている。


「 ーー静粛に!

 これより、我がカシェリオスの国王陛下が、魔物討伐の報と王国の安寧について、直々にお言葉を賜られる! すべての民はその御声に耳を傾けよ 」


 パレードの終わりに王宮前広場にて儀礼官が告げ、

 王が高台から声を張り上げた。


「 我が国の民よ、きくが良いーーーーー 」


 内容は今回の戦った者たちの功績を称えるもの。

 そして、今現在、ダルカニアが国境侵犯を犯し宣戦布告をしてきた為に、功労者であるヴァンドル辺境伯とその部下たちが辺境へ戻り、国境を守る戦いに身を投じたことた事など。


 参加できぬ英雄たちへは後日、改めて報賞の授与を行うことも告げられた。


  ◇◇ レンジェロ ◇◇


「 ダルカニアは、この時期に仕掛けたのか……! 」


 思わず声がもれた。

 王が広場で告げたのが本当なら、真冬に兵を動かしたことになる。


 雪に閉ざされた道を行軍し、疲弊した兵士を勢いのあるヴァンドル領にぶつけたところで、得られる成果は少なく、むしろ自国の兵を消耗するだけのはずだ。


「 手の者の報告でも、ヴァンドル辺境伯がシアロッサで最も功績を上げたことは間違いありません。その辺境伯がパレードに不参加だったことを考えても、領で何かあったのは事実でしょう 」

 側近が答える。


「 ダルカニアの継承者たちが、王座をめぐって争い続けているのは有名だが……

 今残っているのは第一王子と第一王女だったな 」


 たしか二人とも三十歳を超えてる。


 前代から、ダルカニアはカシェリオスへの侵攻を何度も仕掛け、何度も押し返されてきた。

 何度も侵略を繰り返すのは、食糧問題が影響していることは明白だ。


「 ダルカニアのある広大な地域には、かつて小さな国々が存在しておりました。

 ダルカニアはそれらを滅ぼし、吸収して大国となりましたが……。

 しかし、滅ぼした国々が培ってきた食料確保の知恵や技術を重視せず、奪い尽くすことに終始したと聞きます。


 その為、滅ぼした国々の食糧確保の技術が、生かされる事は無かったのでしょう 」


 の言葉にレンジェロが頷く。


「 食料の調達が困難になれば、冬に待っているのは飢えだ。 生き残るために、手近にある国々を次々と襲撃するしかなくなったのだったな 」


 食糧確保のために山を開拓しようにも大陸を分断する巨大な山脈は魔境であり、強い魔物やドラゴンが住み着く地もある。

 そのため、山越えも山の開拓も不可能であった。


 近隣に奪える国がなくなると、次に目をつけたのは、国境を接するカシェリオスのヴァンドル領である。


 北に位置しながらも雪に閉ざされず、豊かな収穫が望める土地ーー。

 魔石鉱山や宝石の鉱山も持つ、まさに、ダルカニアにとって喉から手が出るほど欲しい地だ。


「 一番の宝は、人の努力によって培われた技術と研究の成果だ。厳しい冬を乗り切るために各国が積み重ねた工夫と知恵。

 過去の王たちがそれを軽視し、目先の食料を奪うだけに終始した結果が、今のダルカニアの姿なのだろう 」


 レンジェロは、パレードが過ぎ去った後の町の喧騒を眺めながら、つぶやくように言った。


  ◇◇ アルセルド ◇◇


 パレードと神殿での行事が終わり、大神官は静かに指示を出した。

「 愛し子様には、まずゆっくりと休んでいただきなさい 」


 翌日は、小国群の代表達との面会が控えている。

 その前に、部下たちを集め、各地の情報を精査させることにした。

 ケルメナの呪物が悪用された件を受け、各地の神殿に封印されている呪物の確認作業が進められている。

 特に小規模な神殿では、呪物の持ち出しも懸念されており、確認後に別の安全な場所で再封印する案も検討されていた。


 しかし、いくつかの神殿からは返答がないとの報告があった。

 部下が書状の束を提出する。


「 こちらが返答のない神殿の一覧です。加えて、問題が発覚した神殿と、各神殿で保管されていた呪物の詳細になります。

 毎年確認作業は行われており、各神殿の責任者からは『問題なし』との報告がありました。 しかし、今回の件を受けて、聖騎士を派遣した神殿のいくつかで問題が見つかりました 」


「 ……紛失した呪物があると? 」


「 はい。アレストリア西部の神殿では、

 昨年の点検時まで確認されていた呪物が一つ、所在不明とのことです。

 ただ、その点検を担当していた神官が失踪しており、

 本当に昨年まで存在していたかどうかも、確認が取れません。

 カシェリオス南部の辺境伯領内の神殿でも、一つが見当たりませんでした。再点検で判明したものです 」


 別の調査官も調査結果を読み上げる。

「 現在、ダルカニア東部の神殿二か所と連絡が取れません。 雪に閉ざされ、中央から聖騎士を派遣することが難しい地域です。 以前、通信魔道具の不具合もありましたので、今回もそれが原因の可能性はありますが…… 」


 アルセルドは呪物一覧に目を走らせ、厳しい表情で呟いた。


「 ……いつから、どのように神殿が浸食されたのか 」


 行方の分からない呪物の報告を見ながら低く呟いた。


 ~~~~~~~~~~~


【蠱核(コカク)の杖】


 使用者の命を魔力に変換する。数回の連用で使用者は命を失うが、複数人で交代使用すれば一見回復しているように見える。ただし奪った命は戻らない。(使える回数に個人差があり、三回から五回ほどは使える。)

 アレストリアの神殿から紛失。


【冥唱笛(めいしょうてき)】


 小さな銀色の笛。吹くと死者を使役できる。音を吹くたびに魂が浸食され、いずれ魔へ落ちる。カシェリオス南部の神殿から紛失。


 ~~~~~~~~~~~


 呪物の紛失。

 それが複数の神殿で明らかになっている。

 神殿の内部に、ネズミがいる事は間違いないだろう。


「 ……徹底的に調べねばならぬ 」


 * * *


 パレードの翌日――

 王宮の大広間では、盛大な祝勝会と功労者たちへの報償授与が執り行われた。


 赤と金の王家の紋章旗が壁に掲げられ、中央の長卓には豪華な料理がずらりと並ぶ。


 焼かれた大羽蛇の丸焼き、香草を詰めた大鳥のロースト、果実酒の樽、美しく切り並べられた果実。


 普段は王侯貴族しか口にできぬ様な料理の数々が、今夜ばかりは兵士たちの前にも惜しげなく振る舞われた。


 今回の功労者たちは、その身分に関係なく王宮に招かれた。

 平兵も、傭兵も、従者も、この日だけは皆が同じ「英雄」である。


「 これが、王宮の料理か…… 」

「 噛んでないのに肉がとける……! 」

「 こんな酒、初めて飲んだ! 」


 興奮と感嘆の声があちこちで上がる。

 笑い声、杯のぶつかる音、楽師たちの奏でる曲が、広間に満ちていく。

 普段は冷静な将校でさえ、杯を掲げながら部下と肩を組み、互いの功績を称えあっていた。


 片隅では副隊長が兵士たちを集め、声を張り上げた。


「 あとで配られるが、報奨金は一人、金貨一枚だ! 特別休暇もつくからな! 」


「 それはすごい! 」

「 金貨一枚……! 」


 兵士たちは歓喜の声を上げた。

 平兵の月給は銀貨十から十五枚。

 銀貨百枚が金貨一枚である。


 つまり、月収の十倍近い額が手に入る計算だ。

 それに特別休暇までつくというのだから、皆、喜びを隠しきれない。


「 この任務が終わったら結婚しよう! 」

 恋人にそう言って出陣した若い兵も、生きて帰ってきた。


「 この戦いが終わったら、実家に帰って家業を継ぐんだ 」


 と言って、田舎に帰る前に最後の出陣をした中堅兵士も、元気に生きて帰ってきた。


 幸いなことに、この世界ではあの “ 死亡フラグ ” と呼ばれるものは働かないらしい。


 金貨一枚。

 それは庶民や下級兵士がささやかな式を挙げ、小さな家を借りて新生活を始めるには十分な金額だった。


 共に出陣した第一王子ヴェルトラムもまた、その光景を見渡しながら穏やかに杯を掲げた。

「 よくぞともに戦ってくれた。 女神の御加護と、そなたらの勇気に感謝を 」


 その声に、広間の誰もが胸を張った。


 あの戦いで死者は一人も出なかった。

 それは、戦ったもの達と愛し子の祈りと、神の慈悲がもたらした奇跡。


 英雄たちは、みな笑顔で互いの健闘を称えあっていた。




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