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【小国群⑧】小国群の窓枠軍団

 パレードは盛大だった。


 どこを見渡しても人、人、人。

 熱気と歓声が王都を包みこむ。


 その賑わいの中、通り沿いにある高級宿の最上階ーーそこでもまた、騒がしい集団が窓という窓に張りついていた。


 ……小国群の使節団である。


 窓際の最前列を占めているのは、くじ引きで勝ち取った幸運な者たち。


  「 おお! 来たぞ! 」

 先頭を行く兵士たちの姿が見えはじめ、宿の窓辺が一斉にどよめく。

 続いて、王子と公爵の騎馬列。

 そしてーー


  「いた!」


 聖騎士たちに守られながら、ゆっくりと進む一台の豪奢な馬車。

 その窓辺から、黒目黒髪の――少女とも見える女性が、微笑みながら手を振っていた。

 各神殿に飾られた肖像画に描かれている、その特徴を持つ女性。


( 間違いない…… 愛し子だ! )


「 おお、手を振っておられるぞ! 」

「 動いている! 本当に動いているぞ! 」

「 黒髪だ、まことに黒髪だ! 」


 興奮と感動の渦。

 使節団の面々は、まるで祭りの見物客のように身を乗り出していた。


 しかし、その中でひとり、ぽつりと呟く者がいた。


「 ……不安を感じておられる? 」


「 どういうことだ? 」

 レンジェロが問い返す。


「 はっきりとは分かりません。 ただ……愛し子様は、何か悩みを抱えておられるような……、誰かを待っている様な、そんな気がするのです 」


 そう言ったのは、 “ 感情を感じ取る”という、加護を持つ青年だった。


 彼は、国では死者の声を聞くという、霊媒師のような事をしている。

 生きている人の場合、考えが複雑すぎるのと、心に幕のようなものがあり具体的な内容までは分からない。

 しかし、死者や動物の場合はもっと具体的に感情や言葉が届いてくる、らしい。


 連れてきている加護持ちの中で、役に立つ加護のうちだ。


 中には 「 水に沈みにくい加護 」( つまり、潜れない )や、

「 やたら鳥に好かれる加護 」( 常に鳥に纏わりつかれ、糞まみれになる )など、もはや呪いとしか思えないものもある。


 加護を持っているのは分かっているが、どのような加護なのか全く不明の者すらいる。


 今回の小国群使節団は、神殿の覚えを良くするため 「 加護持ち 」 を集めて編成された。

 とはいえ、多くの加護は往々にして曖昧なものだ。

 何の役に立つのか分からないものもあれば、分かっていても用途不明なものも多い。


 アミキスの加護のように、ただうるさく迷惑なだけのものもある。


 だが、女神からの加護を受けているという事実そのものが恩寵とされるため、持っているだけで神殿への印象は良いのだ。


 もっとも、レンジェロは内心こう思っていた。


( 加護がなくても、冷静で有能な者たちを選んだ方が良かったのではないか……? )


 使節団の面々はいくつかの窓に張り付き、子どものように歓声を上げている。


 くじ引きで負けた者たちも踏み台を用意して窓の高いスペースの隙間から見ようと試みる。

 レンジェロは呆れつつも、隣の部屋の窓際に陣取っていた。


 ……彼自身も、見たいのだ。


 自室の窓から身を乗り出す。

 ふと、その瞬間。愛し子がこちらを向いた。


 目が、合った。


「 うおおおっ! 愛し子様が、こっちを見ましたぞ!! 」


 隣でアミキスが絶叫した。


「 触れてる状態で叫ぶな! 二重にうるさいだろ! 」


 ほんとにこいつ、うるさい!


 ◇◇ 美春 ◇◇


 道の両脇には兵士たちが立ち並び、見物人が道に入り込まないよう警戒している。

 馬車の周囲では、聖騎士たちが騎馬で並走し、一定の速度を保ちながら護衛していた。

 美春は必死に手を振っていた。アルセルドさんも、隣で優雅に手を振っている。


 ふと、通り沿いの建物に視線をむけると……


「 うわっ…… 」


 思わず声が漏れた。


 ある建物の窓という窓から、これでもかというほど人々が身を乗り出していたのだ。

 その上、窓枠ぎりぎりの隙間まで顔、顔、顔。

 その 「 少しでも近くで見よう 」 「 絶対見逃すものか 」という執念すら感じる様子は、もはやホラーだった。


( 下の方の人なんてつぶれてない? あれ…… )


 その群れの中で、ひとりの人物と目が合った。


「……あ、目も髪も黒いひと」


 この世界に来てから、黒髪で黒い瞳の人なんて見たことがなかった。

 でも、おばあちゃんだって、もとはこの世界の人で、黒髪黒目だったんだ。

 だから、いてもおかしくはない。


( この国の人なのかな? )


 そう思っているうちに、馬車はその建物の前を通り過ぎていった。


( そういえば私、神殿からほとんど外に出たことなかったな……。

 この国にどんな人たちがいるのか、全然知らない。 この世界の事、何にも知らないや )


 前にこの国に来た時は、神殿の一室に落ちてきて、そこで優雅なニート生活をして――

 王宮に行ったら、キラキラの変態王子に迫られたんだった。


 その時の移動も馬車だったし、周りは見えなかった。


( もっと、この世界のことを知りたいな……)


( ……もっと外に出よう。 もっと自分の目でいろいろ見よう )


 色々と考え事をしながらも、手を振るのはやめず、パレードは王都の大通りを一周し、やがて大神殿へと到着した。


  『 民よ、聞くがよい。 我らの祈りは、確かに天に届いた!

 街道を脅かした穢れを纏いし魔物はーー 』


 アルセルドさんが威厳ある杖を掲げ、お手振りバルコニーから演説を始めた。

 侍女が満面の笑みで、高級スティッククリーナースタンドのような、台に設置されていた豪華な杖を差し出す。


 そのバルコニーの、外からは見えない装飾の陰に、ミューラがしゃがみ込み待機していた。


( あ、はい。 また手を振るんですね…… )


 もう分かっている。

 と言うか、今この世界での私の仕事ってこれしかない。


( こっちの世界にきて、衣食住を含めて何もかも世話になってるし。 せめて手を降るのは頑張ろう )


 大きな鐘の音が鳴り響く。

 侍女の合図とともに、美春はゆっくりとベランダへ足を踏み出した。

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