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【小国群⑥】告知と情報


 王都は現在、新年祝賀の賑わいとは違う話題で持ちきりだった。


 新年祝賀の日より四日目に、シアロッサに現れた謎の巨大魔物。


 その大きさは城より大きく、無数の巨大な蛇の様な腕を振りかざし町に襲い掛かった。


 化け物が出現し、光る布が魔物を抑えてからすぐにシアロッサは町民の避難を開始。

 つまり、魔物が現れてから、布が飛び魔物を抑え込むまでを見ていた人々が避難民として王都にも来ており、彼らの語る生々しい証言は、瞬く間に王都中へと伝わっていた。


 さらにその日より、多くの聖騎士たち、そして第一王子率いる国軍も出動している事が、その根拠にもなり広がっている。


 そしてついに、神殿より事の説明がなされる事となった。


 それは国との共同告知として神殿や広場にて告知板に掲げられるとともに、文字が読めぬ物の為に、役人や下級神官が読み上げるという形がとられた。



 ■■■■■■■■■■■


 ーー《告知》ーー


 新年の祝賀より四日目の刻、シアロッサ近郊の街道において、

 穢を纏いし禍つ魔物が忽然と姿を現し、

 その不浄の腕はシアロッサの町へと伸ばされ、民草は死の影に包まれんとした。


 されど、天より賜りし神物がその歩みを阻み、破滅は一時食い止められたり。


 しかしながら、この魔物はただの剣戟に屈するものにあらず、浄化の力をもってのみ討ち果たし得る存在なり。


 よって神殿は浄めの祈りを託された神官らを遣わし、

 王国は国軍のうち神力を帯びし戦士を選抜し、

 第一王子殿下の御統(みす)べる御旗(みはた)の下にて出陣せしめたり。


 かの戦いは烈(はげ)しく、天と地を震わせる激戦に及べり。


 愛し子様は魔物の出現を知り給い、

 シアロッサの民と戦士らの安寧を祈られたり。


 この祈り、天に届きて女神は聖なる御力を愛し子様に託し、光と共にシアロッサへと遣わされたのである。


 かくして、神官の祈祷(きとう)と戦士の献身と、愛し子様の祈願(きがん)と、女神の無限の慈悲とが一つに結ばれ、

 邪悪なる魔物は討ち果たされ、地よりその影は祓われたり。


 ここに、神殿と王国は布告す。


 シアロッサの地は女神の御手に守られ、愛し子様を通じてその御慈愛を賜りしことを。


 ゆえに民よ、恐怖に縛られることなく、安らかに日々を営むべし。


 なお、愛し子様は七日後、大神殿へと帰還される。

 その折には、王都において盛大なる凱旋の行列を執り行い、民と共に女神への感謝と勝利の喜びを分かち合うであろう。


 女神は常に救いの手を伸べ給い、常に我らを見守り給う。



 ■■■■■■■■■■■


 神殿の掲示板前には、告知を見ようと多くの人々が押し寄せていた。

 新年祝賀のために王都へ来ていた物の中には、魔物騒動で帰郷できず、足止めを食らった者も多い。


 そこへもたらされたのは、魔物討伐の報と、愛し子参加による凱旋パレードの告知である。


 王都は再び熱気に包まれた。

 新年祝賀祭が終わっても、屋台は店じまいをせず、通りには吟遊詩人の歌や旅の軽業師などの芸を見せるもの達まで集まり、新年祝賀以上の盛り上がりを見せていた。


 神殿では追加で納品されたお守りも、瞬く間に品切れになっていく。


「 新年の祝賀には、愛し子様はお出ましにならなかったが、今度は見られるぞ 」


 そう語り、帰らずに王都に留まる者も多い。

 空き家や部屋を宿替わりに貸し出し、商機を逃すまいとするものもいて、王都の通りはまさに人の波で埋め尽くされていた。


 そんな熱気をよそに、王都の高級宿の一画では情報を整理する一団がいた。

 小国群の使節団である。


「 神殿からの正式な告知がされました」

 報告を受けた使節の一人が、告知文の写しを手に取り内容を精査する。


 穢れの魔力の爆発した日と、告知の魔物が出たという日も一致している。

 聖騎士たちの出動も、国軍の出動も告知と間違いないだろう。告知の信憑性(しんぴょうせい)は高い。


 告知の内容を確かめていた時、別の者が部屋に駆け込んできた。

「 シアロッサに赴いていた者が参りました! 」


「 ……! 通せ! 」


 探索者風の大柄な男が入ってきて、恭しく礼をする。


「 よくぞ無事であった!報告を 」


 側近が即すと男は話し始めた。


「 私はサエカトラの町より、神官と癒し手の護衛としてシアロッサに赴きました。

 町の向こう側の街道、そこには黒く長い蛇の様な物が無数にうねりながら、上空に浮く神物が放つ聖なる光に抑え込まれ、身動きを封じられている様子が見えておりました。

 その浮いていた神物は、聖なる光を放つ布でございます。

 魔物はその大きさから、町の中にいてもその様子が見えておりました。

 大きさはおそらく、我が国の城ほどは有ったかと 」


「 おお何と!さほどに大きいのか! 」

「 城ほどとは……! 」

「 町からも様子が見えたと?! 」

「 蛇の様なとな?! 」


 側近達が顔色を悪くしながらも一斉に口をはさむ。


「 私は避難民の誘導の手伝いをしながら、情報を集めました。

 魔物の動きを封じた布は、ヴァンドル辺境伯の手より放たれたとの事でございます 」


「 ヴァンドル辺境伯が神物を持っていたのか。

 いや、彼が大神官の養い子で有ることは有名だ。

 大神官殿から何らかの理由で、神物を授けられていたという事か 」

「 まさか、今回の事を見越して…? 」

「 なぜヴァンドル辺境伯がいたのだ?! 」

「 神物を投げたのか?! 」


 側近数人が続けて話をはじめる。

 レンジェロはそれを止めて間者へ報告を即す。


「 ……続けろ 」


「 はっ。私自身が目撃したことでございますが、

 当初、シアロッサにて指揮を執っていたのはフェルガント公爵とヴァンドル辺境伯。

 光る布が魔物を抑えている間に、住民の避難が続き、入れ替わる様に援軍が集まりました。


 第一王子率いる国軍が到着したその日の深夜、光る布が何者かの火魔術による攻撃を受け、燃え尽きました 」


「 なんと!神物に攻撃をするとは罰当たりな! 」

「 魔物に向かっての攻撃が、たまたま布にあたったのではなく、布に向かっての攻撃か? 」

「 神の布は燃えるのか?! 」

「 か、神の布が無くなったのなら、今女神は裸体なのか?! 」


 側近たちが口々に意見を述べた。


「 お前ら、静かに聞け……続けろ 」


「 はっ。

 町中からでございますので、どこからの攻撃か正確には分かりかねますが、角度から魔物の更に向こう、おそらく林道のあたりからの攻撃かと。

 高く火魔術が放たれました。

 魔物を狙ったものではありません。

 明らかに布を狙っておりました 」


( ……魔物を抑える布が狙われた……

 ならば今回の魔物の出現は、やはり人為的なものの可能性が高いという事だな )


 レンジェロは思考を巡らせていた。


( 公爵家を狙ったのか、カシェリオス自体を狙ったのか。

 フェルガント公爵は、第一王子のもっとも強い後ろ盾だ。

 第一王子を引きずりおろしたい者が画策したのか…… )


「 魔物を狙ったのではないと?! 」

「 なぜ布を狙うのだ、危ないではないか! 」

「 なぜ布は光っていたのだ?! 」

「 布はなぜ飛んでいたのだ?! 」

「 女神の二枚の布のうち燃えたのは上の布か、下の布か?! 」


 側近たちは口々に、間者の報告の度に喧しく騒ぎ立てる。


( ……こいつらうるさいな。 考える事も出来ん )


 レンジェロは側近たちのうるささに思考を邪魔されながらも、間者に問う。


「 しかし、布が燃え尽きたのなら。どのように対応したのだ? 」


 間者は続けた。

「 私は逃げ遅れた避難民たちと共に、神殿に身を寄せました。

 その大きな窓から外が見えており、住人達も見える場所にてヴァンドル辺境伯が指揮を執っていたのですが、その胸元が光り、黒き腕を弾き飛ばしました 」


「 おお!なんと! 」

「 ヴァンドル辺境伯は光るのか?! 」

「 弾き飛ばしたと?! 」

「 胸元から光とな?! 」


 側近たちは口々に意見を述べる。うるさい。


「 ……お前ら、少し黙れ!…続けろ 」


「 はっ。

 その胸元から光る小さな布を取り出し、高く掲げると、光の波が起こり、町に襲い掛かっていた黒き腕を一気に吹き飛ばしました。


 その後、ヴァンドル辺境伯の上に光が集まり、そこから愛し子様が降臨されました 」


「 おおお!愛し子様が! 」

「 光から降臨されたと 」

「 それを目撃したのか?!なんと羨ましい! 」

「 布は纏っておられたのか?! 」


 側近のアミキスから書類を手渡されていた時に、続けざまに側近たちが興奮しながら口を出す。


「 だから!お前ら黙れ! うるさくて報告が聞けん!

 特にアミキス! お前の加護はうるさいんだ。 いい加減自覚しろ! 布に拘(こだわ)るな! 」


 レンジェロは思わず声を荒げる。


 アミキスの加護は、触れている相手の心にも、自分の話し声を直接響かせてしまうという、実に傍迷惑な代物だ。

 しかも服越しや布越しで触れても聞こえる。


 書類を手渡された瞬間に手が触れてしまった。その為、耳と心の両方で 「 布は纏っておられたのか?! 」 と響いた。


( 口でもうるさいのに、心でも布の話を聞かされるとか地獄だ…… なぜ女神は、こいつにこんな加護を与えたのか…… )


 小国群の者たちは、大なり小なり巫女の血を引いている。そのため、あの ” 穢れ ” を帯びた魔物から感じる恐怖は尋常ではなかった。

 幾夜も怯え、眠れぬほどの恐怖……

 その恐怖から解き放たれ、緊張の糸が切れた反動で、高揚感と興奮から皆、饒舌になっている。


( こいつら、ビビりちらしてた反動で舞い上がってやがる。肝心なところを聞き逃す気か!

 しかし、魔物を抑えたのも光る布。それが燃やされた後に別の光る布をヴァンドル辺境伯が懐から出したのか…… )


  2枚の布。


 そう聞いて、真っ先に思い浮かべるのは、女神の布である。

 その身に纏っていると言われている、慈悲と慈愛の布だ。


( 避難していたシアロッサの住民が、魔物を抑えたのは女神の慈悲の布ではないかと言ってたそうだが…… )


 間者が報告を続けた。


「 ……続けさせていただきます。

 その後、愛し子様が黒き腕の魔物の方角に手を翳され、

 そこから浄化の光があふれ、黒き腕の魔物が悲鳴を上げながら光に溶けました 」


「 愛し子様が、浄化の力を使われたのか?! 」


「 神殿の告知には ” 女神が聖なるお力を愛し子様に託した ” とあるが、そのお力を行使されたと言う事か? 」


 側近たちの声を聞きながら、レンジェロが低く呟く。


「 ……それとも、もともと、お力を持っておられるのか 」


 間者は静かに頭を下げるながら告げた。


「 愛し子様は七日後には大神殿へお戻りになられます。 告知によればその際、凱旋行列にご参加されるようです。

 その時にお姿を拝見できましょう 」


「 凱旋の祝いの言葉と共にもう一度、お目通りの申し込みをする事とする。 それまでさらに情報を集めよ 」


 レンジェロの言葉に、それまで騒いでいた側近たちが一斉に頭を下げた。


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