美春の目覚めと希望の子(モチタ)
美春は夢を見ていた。
おばあちゃんが笑ってる。
いつもの様に 「 ほら美春の好きなから揚げを作ったからね 」
と言って、皿いっぱいのから揚げを出してくれていた。
それをモチ太が狙っている。
「 モチ太、これはだーめ。モチ太には別のおやつを上げるからね 」
そう美春が言って
「 ほらモチ太、お前のはこっち 」
と言って、おばあちゃんがゆでた鳥のささ身をモチ太の皿に乗せる。
モチ太は茶色の毛をして、両目の色がよく見ると少しだけ違うオッドアイの犬だった。
保護犬で、種類は多分ポメラニアンが混ざった何か。
お迎えしたときは真っ白でモチモチしていたから、モチ太になった。
成長するにしたがってモチ太は茶色くなって、これじゃ焼いた餅だよね、と言っておばあちゃんと笑いあった。
モチ太がしっぽを振ってこちらを見てる。
モチ太、いい子ね……
モチ太を撫でようとして手を伸ばすが、なぜかモチ太に届かない。
( あれ?モチ太……遠いよ )
そこで、美春はふと目を開けた。
「 ……ここどこ? 」
まどろみから目を覚ますと、そこは知らない場所だった。
明らかに自分の部屋ではない。
そもそ美春の部屋は、こんなに広くはない。
美春が目覚めたのは、おしゃれな天蓋付きベッドだった。
サイドには、これまたおしゃれなテーブルがあり、花が飾られている。
( ……ってか、本当にここどこ? )
美春は同じことを一度経験している。
最初の異世界転移の時、同じように目を覚ますと知らない部屋だった。
当然、そこに考えがたどり着く。
( あ、そうか。ここあの世界だ…… )
そして思い出す。
あの衝撃の光景を。
思い人が自分のパンツを高々と掲げるあれを。
光るパンツが大注目されていたあの夜の出来事を。
「 ……あああ~っ!! 」
大注目の私のアレ!
なんで光ったの?!
( ってか、またやらかした!
またパンツ!って言って落ちた!! )
せっかく用意した、異世界に来た時用の袋も持ってきていない。
「 ……そうだ! 禁酒しよう! 」
今さらながら遅いだろ、というツッコミは彼女には届かない。
禁酒を誓い、気を紛らわそうとしても、彼が自分のアレを掲げていた映像が記憶から薄れることは無かった。
さんざんベッドでゴロゴロした挙句、ふと意識を失う前に見た物を思い出した。
あの色、淡い茶色の毛……
( やっぱりモチ太がいた……と思う )
あの時、クレイアスと目が合って……
近くに、モチ太と同じ色を確かに見た。
茶色い毛と、よく見ないとわからない微妙なオッドアイのモチ太。
美春が記憶をたどっていると
ーーコンコンコン
ドアがノックされた。
『 愛し子様…お目覚めですか 』
見知らぬ女性神官が入ってきた。
そしてそれに続くように、ミューラとセミルが入ってきた。
二人は目に涙を浮かべてベッドの傍で膝まづく。
「 ミューラ! セミル! 」
見知った顔に美春は思わず嬉しさがあふれてしまった。
『 ミハル様、ご無事で 』
『 ミハル様、本当にまた…お会いできてうれしいです 』
言葉は分からなくても、二人が喜んでくれているのを感じて美春もうれしくなった。
* * *
美味しい食事を頂き、まったりと寛いでいると、やはり疑問がわいてくる。
目を覚ましてしばらく経ってるのだが、
どうしても「モチ太がいた」という感覚が抜けなかった。
確かに見たと思う。
あのとき、薄い茶色の毛並みに、ほんのり微妙なオッドアイ。
誰かに、あの時の状況を聞けば教えてくれるだろうか。
でも、簡単な単語(挨拶くらい)しか話せない美春には、それを周りに聞く術がなかった。
「 ……どう言えばいいのかなぁ 」
侍女たちは、当初、美春が何か考え込んでいるのを静かに見守っていた。
( 絶対にいたと思うんだけどなぁ……。
でも気のせいだよね。モチ太は、私が高校生のときに死んじゃったんだし…… )
しばらくすると、ミューラが小さく首を傾げ、すっとお絵かき帳を差し出してきた。
ーー悩んでいる時の、お助けアイテムだ。
美春はこれで 「 トイレどこ? 」 も覚えた。
にっこり微笑むミューラの横で、セミルはいそいそとおやつの用意を始める。
「 ん~……悩んでることを書けって、ことだよね 」
今までも二人は、美春が困ったときにはすぐに声をかけて助けてくれた。
だが今回は 「 昔、飼っていた犬を見た気がする 」 だけだ。
これをどう説明すればいいのか分からない。
それでも、せっかくお絵かき帳を出してくれたのだから、とペンを取った。
美春の絵心は幼稚園で成長が止まったまま。
祖母からも 「 どうして上手くならないのかしらねぇ 」 と不思議がられていた。
そんな美春の書く謎の絵をセミルとミューラは解読してくれる。
そんな二人はすごい、と美春はいつも思っていた。
描くのは嫌いじゃない。
単に下手なだけなのだ。
ーーまずは星。
私が高校生のときに死んじゃって、お星さまになったモチ太。
紙の上に大きく星を描く。
( 絵が下手すぎて星に見えないかも……
じゃあ、隣に月を書けば、空に浮かぶギザギザだから星だと思ってくれるよね )
星の横に三日月を書く。
次にモチ太の顔。
もふもふの毛に埋もれて耳がほとんど見えない犬……のつもり。
茶色の毛、茶色の目。
あ、でも片方だけ薄かったんだった。なら片目を薄く塗れば分かるかな?……と、下手なりに描いているうちに、ちょっと楽しくなってきた。
やがてセミルがおやつとお茶を運んできて、ミューラと並んで絵を覗き込む。二人は何やら真剣に絵を見つめ、言葉を交わしている。
セミルは頭上の星を指し示し、ミューラは左右の瞳に目を留め、難しい顔をして考えていた。
『 ……空に、月に寄り添う大きな星。王座の象徴でしょうか 』
『 左右の瞳の色が違う…… 魔物? 動物? ……いえ人かもしれません 』
二人は何やら真剣に絵を見つめ、言葉を交わしている。
美春には、その言葉はまったく理解できない。
ただ、自分の拙い絵を前に、本気で考察してくれる侍女たちを見ていると、少しおかしくて、少し嬉しかった。
美春は描いた紙を指さし、笑顔で言った。
「 これはね、昔飼ってた犬なの。 名前は、モチ太 」
「 モチ太 」 とゆっくり発音し、絵をトントンと指差す。
意味が伝わらないことは分かっていたけれど、
この時の美春はそれでも聞いてほしい気持ちになっていた。




