明かされる真実と深まる謎
「 大神官アルセルド師。
自らお運びいただきまして感謝いたします 」
「 礼には及ばぬ。
愛し子様がこちらへ来られているじゃ。
我らがその傍に駆けつけるのは当然の事よ 」
フェルガント公爵が深々と頭を下げ謝意を伝えると、大神官は穏やかに応える。
愛し子の降臨より二日後、王都の大神殿より、大神官、聖騎士、大祭司そして、愛し子の傍に仕える侍女らの一行がシアロッサに到着していた。
まず大神官より、王都での一連の事変について、フェルガント公爵、ヴェルトラム殿下、そしてクレイアスへ説明がなされることとなった。
語られたのは、愛し子に対してなされた不届きな行為。
「 この件については殿下とクレイアスはすでに承知しているがーー 」
と前置きし、大神官は重々しく告げた。
第二王子が、己の力を用いて愛し子を意のままにしようとした。
そのため、愛し子は女神の御手に保護され、一時期、姿を消してた事。
さらに、以前の通信で 「 詳しくは言えぬ 」 と留めていた件ーーヴァルディア王国の裏切りについても語られることになった。
「 では……、ドリアーナ妃は何も知らなかったと? 」
フェルガント公爵が低い問いかけに、
大神官は静かに頷いた。
「 うむ。 おそらく、事が発覚すれば全ての罪を着せられ、処分される役目を背負わされておったのじゃろう 」
「 ……処分前提か 」
公爵の声には怒りと悔しさが滲んでいた。
大神官は続ける。
「 ドリアーナ妃が王子を産み次第、クローシェリア様の御命を奪い、順調に進めば国母へ。
問題があれば多少強引な手を使い、それが露見すれば、ドリアーナ妃の独断という事にして、全てを背負わされる……。
愛し子様を攫ったのも、哀れな母心ゆえであった 」
重苦しい沈黙が流れる。
「 これまでの調査で分かったことじゃが、
ヴァルディア王国は、賢妃であるクローシェリア様がいる事で、当初、自分たちの手の者を王宮へ入れる事が困難であった。
それ故、ドリアーナ妃を側室として王に嫁がせたのじゃ。
そうしてドリアーナ妃の傍仕えとして手の者を王宮に入れる事に成功した。
ドリアーナ妃が王子を産んだ時点で、クローシェリア様とヴェルトラム殿下を亡き者とし、ルシヴァン王子を王とし、自らの手の者を送り込んでカシェリオスを事実上乗っ取る手はずであったようだの 」
一息置いて、大神官は話を続ける。
「 ドリアーナ妃は自らが死んだとき、カシェリオスで後ろ盾のない息子はどうなるか……。
そう思いつめ、国内の有力貴族家と縁を結び息子を守ろうとした。
だが、肝心の息子がやらかしたために縁談は破談となった。ならば愛し子を、と……そう考えたようじゃ 」
「 本当に、ドリアーナ妃は娘の、クローシェリアの死には関わっていないのですか……? 」
「 本人はそう主張しておった。 加えて、ミランダ妃も、ドリアーナ妃がクローシェリア様に心を開いていたと証言しておる 」
大神官の言葉に、公爵は記憶をたどるように語る。
「 ……その話は、ミランダ妃より聞いておりました。
ドリアーナ妃はカシェリオスに来た当初、怯えた様子であった事、クローシェリアが懐柔し嫁ぐきっかけになった出来事を聞き出したことも 」
公爵の言葉に大神官は頷き、さらに言葉を重ねた。
「 加えて、今のドリアーナ妃もルシヴァン王子も”絶対に嘘はつかぬ”のじゃよ 」
「 では……、手を下したのは 」
「 ……ヴァルディア王国であろうな。
実際、ドリアーナ妃もクローシェリア様の命を奪った茶を飲まされておった。
今は女神に懺悔の祈りを欠かさず捧げておる 」
「 哀れな…… 」
公爵はうつむき、亡き娘クローシェリアの若き日の姿を思い浮かべていた。
聡明で、美しく、優しい娘。
当時、まだ王子であった現王ヴァリネスとの婚姻を避けさせるため、別の若者と結ばせようとした。
しかし前王に阻止された。
予定していた相手には別の令嬢を娶らせ、娘は王命により王子との婚約を強いられた。
ーーどうすることもできなかった。
苦労の絶えぬ未来が見えていたが、せめて他の希望はすべて叶えてやろうと思った。
ドリアーナの立場も、似たようなものであったのだろうか。
策により、王に嫁がされたと。
哀れなことだ……。
「 ……ルシヴァンと話し合おうと、幾度も試みました 」
心痛な面持ちで、ヴェルトラム殿下が口を開いた。
「 だが、必ず邪魔が入る。 秘密裏に接触を図ろうとしても、我らを悪し様に吹き込まれているルシヴァンは、耳を貸してはくれなかった 」
殿下は苦しげに言葉を続ける。
「 最初の頃はダリオンが取りなそうとしたのですが……
ダリオン自身に身の危険が迫ったため、断念せざるを得ませんでした。
父上は宰相を重用しておられましたので、我らの動きは筒抜けだったのでしょう。
……しかし、王印を渡すよう宰相から迫られても、それだけは父上は決して応じませんでしたが…… 」
「 最低限の自覚は有ったと言うことかのぉ 」
大神官が呟く。
クレイアスが思案するように口を開いた。
「 しかし、なぜヴァルディア王国は我が国を陥れようと……?
かの国は我が国と小国群に挟まれた立地。
そして小国群とは犬猿の仲だ。
もとより、我が国の庇護によって保たれていたというのに 」
「 分からぬ 」
大神官は首を振った。
「 ただ確かなのは――ヴァルディア王国とエルラント王国の裏切り。
クローシェリア様の死の真相。
ドリアーナ妃に課せられた役割。
そして策が破れた時点で、ドリアーナ妃は処分される予定であったことじゃ 」
「 ドリアーナ妃は元エルラント王国の王女。ならばエルラントが関わっているのは間違いなかろう。だが裏で糸を引いているのはヴァルディアであると? 」
公爵の問いに大神官が頷く。
「 さよう。
ドリアーナ妃の傍に仕えていた者達、そして出入りしていた者達はヴァルディアの者達じゃ。
エルラントからついて来た者はたった一人。
ドリアーナの乳兄弟であった侍女だけじゃ。
……そして、今回、ドリアーナをかばったのは、その侍女だけじゃった。
捕らえたドリアーナ妃の傍仕えの者達は当初、すべてドリアーナ妃の独断であると言い張っておったわい 」
重苦しい空気が場を覆う中、王都での取り調べの結果が共有されていった。




