表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/63

【小国群⑤】光と解放

 

 汚れた魔力の爆発が起こってから、まもなく三日目を迎えようとしていた。


 その間、汚れた魔力は感じているが、進展はない。

 だがあまりにも異様なその魔力に、慣れる事は出来ず、一行は眠れるぬ夜を過ごしていた。


 その深夜――。


「 ……ッ! 」


「 穢れが……魔力が……解き放たれた……! 」


 一行は同時にそれを感じた。


 爆発のときと同じ、いや、それ以上の規模で広がる魔力。


 ここから遠く離れているにもかかわらず、耳鳴りのように圧が迫り、人ならぬものの息づきを肌が覚える。


 すぐ傍で、邪悪な魔物が牙をむいている様な恐怖で、姿も見えぬのに肌は泡立つ。


 ――だめだ。ここにいては食われる。


 巫女の血を継ぐ者たちの本能が叫んでいた。


「 陛下! 」


 側近たちが蒼白な顔で駆け込んでくる。

 旅路の間は身分を偽り、主を “ 陛下 ” と呼ぶことはなかった。

 だが、その約束すら忘れるほど、誰もが動揺していた。


「 すぐに出立いたしましょう! あれは……あれは駄目です! 」


 側近が叫ぶ。

 離れていてすら恐怖で膝が震える。


「 ……今発ったところで門が開いてはおらぬが……。 すぐに荷をまとめよ。

 状況次第では神殿に逃げ込むふりをして、奥に進み……、愛し子様を救い出してから脱出する。魔道具は惜しむな、各自用意せよ 」


 主は必死に恐怖を押し殺し、指示を飛ばした。


 だが心の奥底では分かっていた。


 ――シアロッサの町へ入った神官たちも、軍を率いた第一王子も、あれに対峙したならば助かるまい。


 国の存続すら危うい。

 大陸は数年にわたり荒れるかもしれぬ。


 使節団の面々は出立の準備を整えたものの、誰一人として休むことは無く、夜を過ごすことになった。


 * * *


 夜半を過ぎ、夜明けまであと二刻。


 一行の誰一人として眠ってはいなかった。

 目を閉じようにも、体に流れる巫女の血が絶えず警告を発する。

 少しでも気を抜けば喰われる、と。


 ――そんな恐怖がまとわりつき、動かずとも疲労は積み重なっていった。


 そのとき。


「 ……なに……? 」


 東の方角から感じ取っていた魔物の気配が、急激に薄れていく。

 同時に、清浄な気配が広がった。


( これは……神力……? 浄化の……? )


 見張りをしていた者が駆け込み、叫ぶ。


「 東に光が上がりました! 」


 窓を開け放つと、遠い空にまっすぐ伸びる光の柱が立ち昇っていた。


「 女神の祝福……? 」


 誰かが震える声でつぶやいた。

 間違いない。

 それは女神の祝福と呼ばれる光。

 しかし、それだけではなかった。強大な浄化の力が、東から押し寄せてくるのだ。


 どれほど時が経っただろうか。

 やがて光はゆっくりと消えていった。

 その後に残ったのは――静寂。


「 ……気配が……ない……? 」

「 まさか……アレが、浄化されたのか……? 」


 一同は言葉を失い、互いの顔を見合わせる。

 恐怖に縛られていた心が一瞬だけ解け、信じられぬ安堵と動揺が入り混じる。


 呆然と東の空を見上げていると、

 しばらくして、神殿から数台の馬車が、聖騎士に守られながら東へと駆けていくのが見えた。


 穢れの魔力が消えても眠れぬまま使節団の一行は夜明けを迎えた。

 だがどれほど集中しても、あの穢れた魔力はどこにも見当たらない。


 彼らは、信じられぬ思いで東の空を仰いだ。

 既に日は高く、町は賑わいを取り戻している。


 新年祝賀の期間中、町には夜通し屋台が立ち並び、夜明け前の光を目にした者も多かった。


「 東に上がった光は、女神の祝福で間違いあるまい 」


「 確かに浄化の力を感じました 」


「 だが、愛し子様は大神殿にいたはずでは……? 」


 ーー女神の祝福。


 それは、愛し子の降臨あるいは旅立ちに際し、女神が介在するときに現れるとされている。


 ゆえに、東の町で祝福が顕れた以上、愛し子はそちらにいるはずだ。


「 確かめねばならぬ 」


 レンジェロの言葉に、側近が答える。


「 神官の護衛として、我らの手の者がシアロッサへ向かっています。 その帰還を待ちましょう 」


「 ……初日に行ったという者か。 無事ならよいが 」


「 生きていれば報告があるはずです 」


 沈黙が落ちる。やがてレンジェロが決断した。


「 帰国の予定を繰り下げる。 本来の滞在はあと二日だが、報告を待とう。 昨日から誰も休んでおらぬだろう。 交代で体を休めよ 」


 使節団は祝祭前日に王都に到着し、王城での式典に参加した。

 五日目に魔力の爆発が起こり、それ以来誰一人まともに休めていない。

 予定では残り滞在日数はあと二日だった。


 さらに今回の出来事の全貌は掴めず、愛し子とも未だ会えていない。


 こうして一行は滞在延長を決めた。

 レンジェロは定時の報告のため、掌に収まるほどの小さな連絡版を取り出す。


 対になった魔道具で、片方に書いた文字がもう片方に浮かび上がる仕組みだ。

 声は送れず、一度に送れる文字数も限られるが、携帯できるため移動中でも使える。


 短文を繰り返し送り、経緯を報告する。

 ほどなく返信があった。


『 滞在延長を了解。更なる情報を待つ 』▼


「 ……シアロッサにいるのなら、いずれ大神殿に戻るはず。その時こそ愛し子様を確認せねば 」


 レンジェロは一人呟き、静かに板を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ