燃える布と掲げられる希望
◇◇ クレイアス ◇◇
ついに決戦の時が迫っていた。
ヴェルトラム殿下の率いるカシェリオス王国軍が町へ到着し、明日には浄化に長けた大祭司たちも到着する。
明後日の早朝には、あの忌まわしき異形の掃討作戦が始まる。
「 殿下にも休んでいただき、救援部隊も交代で休むように。
他の者は備えを固めよ 」
フェルガント公爵とヴェルトラム殿下との会議を終え二人には休んで頂いた後、
護衛達と共に情報を整理しながら、明日からの行動を指示していた、その時だった。
ーーードドドッ……
ーーろ! ーーーだ!
外から、喧騒が聞こえてきた。
「 ……? 外が騒がしいな 」
ノアリスが眉をひそめ、外に出ようとしたその時
「 た、大変です! ぬ……布がっ! 布が燃えております! 」
神殿に転がり込むように飛び込んできた治安兵が叫んだ。
その知らせに、場の空気が凍り付く。
見張りの兵士たちが一斉に走り出し、警鐘が鳴り響いた。
「 何だと……!? 」
クレイアスはすぐに外に飛び出した。
そこで見た光景は、誰もが目を疑う物であった。
清浄な光を放ち、二日にわたって異形を抑え込んでいた聖なる布がーー
今は赤い炎を纏い、燃え上がっていた。
「 な……どういうことだ……!? 」
仮眠室から飛び出した公爵の声は震え、町民たちの叫びや兵士の喧騒と混ざる。
「 なぜ……布が燃えている……? 」
ヴェルトラム殿下も信じられないものを目にして、動揺を隠せない。
「 先ほど! 異形の奥の林から、火の魔術が放たれました! 数弾が布に直撃し……火が! 布に火が…… 」
「 なんという事だ……! 神より賜りし聖物に攻撃をするとは……! 」
公爵の顔は怒りに歪み、その瞳の奥には確信が宿る。
布を狙い撃った攻撃ーーそれは、この異形が“自然の災厄”ではなく、誰かの意図で呼び起こされた証。
「 布が……布が燃えている……! 」
「 終わりだ! もうだめだ…… 」
翌日に避難する予定であった町民が絶望の悲鳴を上げる。
そして……
布は音もなく燃え尽きていった……
その瞬間
ーーー ゴゴゴ ーーー
布によって抑え込まれていた黒き異形の腕が、ゆっくりと上空へ伸びあがる。
戦いを明日に控え明かりを灯していた町。
その明かりに照らされ、異様な姿が町中からもはっきりと見えていた。
「 全軍、配置につけ! 掃討作戦を前倒しする! 」
クレイアスの鋭い号令が響き渡る。
「 祈りを始めよ! 」
町の祭司が叫び、神官や助祭司たちが城壁へと駆け寄り、杖を掲げて祈り始める。
聖騎士たちは剣を構え、祈る神官たちを守る壁となった。
ーー黒き腕がうねりを増していき
ーーガァン!
町の結界を叩きつけた。
「 女神よ、その慈悲にて我らを守り給え! 」神 官達が祈りを捧げ続ける。たびに光が生まれ浄化の光が周囲を照らす。
ーーガァン! ドォン!
何度も何度も穢れの腕を結界にたたきつける異形。
町をまもる光が揺らぎだした。
そしてーー
ーーパキィィンッ!
布が異形を抑え続けていた二日の間に張りなおされ、神官の祈りで強化されていた結界が砕け散った。
漆黒の腕が、獲物を求めるかのように、町へ伸びてきた。
◇◇ 美春 ◇◇
美春はふらふらしながら洗濯機の前に立った。
クレイアスを探し続けているうちに、3D酔いを起こし、頭痛と吐き気でダウン。
……事前に酒を飲んでいたのも良くなかった。
「 ……ほんと、バカだ、私…… 」
頭痛薬を飲み、少し仮眠をとってまた洗濯機の前に戻ってきた。
映像は今も続いている。
蓋が閉じたら映像が消えてしまうかもしれない、そう思った美春は厚手のバスタオルを蓋にかけて、勝手に蓋が閉じない様にしていた。
「 私だって、ちゃんと学習するんだから… 」
時間は深夜。
洗濯機の中には暗い夜の風景が映し出されていた。
ーーその時
( ……あれ?なんか言ってる? )
ざわめきの中に 「 布が燃えている! 」 と言う叫び声が聞こえたのだ。
映像をよく見ると……
小さくて見えづらいが、確かに、布が赤い炎に包まれていた。
( あっ……そういえばうちのカーテン、防火カーテンじゃなかった! )
ゆっくりと燃え尽き、その光が失われると同時にーー抑え込まれていた黒い触手から禍々しい力があふれ出した。
「 いやだいやだいやだ!なにこれ、すごく嫌っ!! 」
触手は上空へと伸びあがっていく。
そして、町へと襲い掛かり何かに弾かれていた。
町に集まっている神官たちが一斉に杖を掲げ、祈りを捧げ始めた。
ほのかな光が生まれ、町全体を覆うベールの様な物に浸透していく。
「 ……結界? 」
( このうちにもある、ベールの様な光の壁だ…… )
神官達は必死に祈り続ける。しかし周りにいる人たちの顔色は悪い。
聖騎士たちが剣を抜き、触手の攻撃に備えている。
その間も、触手は結界に攻撃を繰り返し、
ーーパキィィンッ!
ついに結界が砕け散った。
聖騎士たちが必死に剣で触手を切り裂き、神官たちが祈りと光を振り絞って押し返す。
しかし、触手は町の奥にまで侵入し始めていた。
祈りの言葉と叫び声、多くの喧騒が入り交じはっきりと言葉が聞こえない。
( どうしよう、どうしたらいいの!? クレイアスは無事なの? )
彼を探そうと、美春は再び洗濯機に腕を入れ、視点の切り替えを試みた。
昼間にこれをやって3D酔いでダウンしているが、そんなことを言っていられなかった。
暗闇に光る杖の光、かがり火の炎、剣が閃く光。
その中で必死に彼を探し続ける。
「 ダメだ避けろ! 」
「 ぎゃああぁっ! 」
黒い触手に襲われ、人々の悲鳴が響く。
画像の隅には人が倒れるのが見える。
血が飛び散る様子から目を無理やり背けて彼を探し続ける。
「 どこ……どこにいるの、クレイアス…… 」
再び襲ってきた3D酔いの吐き気と頭痛に耐えながら、美春は何時間もクレイアスを探し続けた。
そしてーー
「 ……! いた! 」
神殿の前で剣を振るい、次々と指示を飛ばすクレイアスの姿が、そこにあった。
「 ……クレイアス! 」
呼びかけても声は届かない。
だが黒き触手は、彼を執拗に狙っていた。
「 やめてっ! ダメ! 逃げて……! 」
美春は必死に向こうに叫び続けた。
触手が彼に迫り、絡め取ろうとした瞬間ーー
クレイアスの胸元が眩い光を放ち、触手を弾き飛ばした。
驚いたような表情を浮かべた彼は、懐から何かを取り出す。
手に持ったそれは眩いばかりの光を放ち、彼は覚悟を決めたような顔をすると、その光るものを高く掲げた。
高く掲げられたそれは、光を放つ赤い布。
( ……え? )
見覚えがある、見覚えしかない、赤い布。
それはあの布
……美春の勝負下着の下の方だった。




