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お花畑王太子を追放せよ 〜婚約破棄から始まる成上り〜  作者: 山田りく


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第五回 お花畑で配信開始

 ルピナスとミモザ、ヴァルデマールは裏庭のある特設スタジオへと歩き出す。


 配信の舞台は、魔導カメラが全方位に仕掛けられた、王宮特設の「お花畑スタジオ」。

 到着すると、ヴァルデマールが説明を始める。


「本日の予定は、撮影です。さて、ルピナス様、ミモザ様、契約内容は覚えておいででしょうか?」


 開口一番に、ヴァルデマールは二人を前に大事な話を切り出す。


「もちろんだよ……えっと、ヴァルデマールさん?」

「もちろんよ、ヴァルデマール様?」

 ルピナスとミモザは自信満々に……答える。


「ヴァルデマールで結構です」


「わかった。ヴァルデマール」

「ありがとうございます。ヴァルデマールさん」


 ヴァルデマールはニコリと笑い。

「では、大事なことなのでもう一度おさらいです。」


 二人は頷く。


「売上ノルマが達成出来ない場合、解任されて鉱山送りが契約に盛り込まれてます」


「「だよねー」」

 声がぴたりと揃う。相変わらず仲が良さそうだ。


「なので、一日も早く配信を始めましょう」


「ヴァルデマールはやり方知ってるの?」


「…………昨日、マニュアルは見ました」


「私、作れるよ」

 ミモザがそう答えると、ルピナスとヴァルデマールはミモザに拍手を送る。


「では、さっそくアカウントを作成して配信準備を致しましょう」


「あ、ヴァルデマール。編集とかのスタッフはいないの?」


「そちらは、順次追加していく予定ですので……」


「分かった。まずはスタートするのが先決なんだね!」


「さすが、ルピナス様です。」


 三人は寄り添いながらアカウントを作成し、リアルタイム配信の準備は整った。


 手取り10万ペルを死守するため、そして鉱山送りを回避するため、二人の命がけの「ガチイチャ」が始まった。


 ヴァルデマールが、懐から指示書を取り出す。


 画面が明るくなると、色とりどりの花が咲き乱れる丘の上で、レジャーシートを広げたルピナス社長とミモザCHOが映し出された。


「みんな、こんにちは!  『お花畑ハッピーピクニック』へようこそ!  今日の風は、僕たちの愛のようにとっても爽やかだよ」


「みんなぁ、お仕事お疲れ様ですぅ。ミモザと一緒に、脳みそを空っぽにして、のんびりチルしよ?」


 平民たちのコメント欄(魔導スクロール)が一瞬で爆発する。


「うわ、マジでバカだ(褒め言葉)」「何も考えずに見られる」「頭が良くなるサプリより、こいつら見る方が脳に良い」「癒やされるwww」


 同時接続者数は一瞬で50万人を突破した。


 平民たちが「尊い……」「癒やされる……」と画面に齧り付いている(かじりついている)その裏側。


 ーーーー


 親会社COOのフランチェスカ公爵令嬢が、冷徹な目で複数のモニターを睨みつけていた。


「ちょっと、ルピナス。ミモザの頭を撫でる角度が甘いわ。カメラ3の照明に反射するよう、あと5度右に傾けなさい」


 魔導インカムを通じて、フランチェスカの氷のような声が王太子の耳に直接届く。


「ミモザ、何よその安い媚び売りは。あなたのウリは『平民目線のあざとさ』でしょう。今すぐ特製の砂糖水ハッピー・ラブ・ウォーターを飲むのよ。ほら、10秒以内に!」


 ミモザは笑顔を崩さないまま、インカムにギリッと歯噛みした。


(わ、わかってるわよっ……!  1本2000ペルで売り抜いて、早くマージンをガッポリ稼がないと、手取り10万じゃ生きていけないんだから……!)


「はぁ、ピクニックしてたら喉が渇いちゃったぁ。そんな時はこれ!  二人の愛が詰まった『ハッピー・ラブ・ウォーター』!  飲むと、頭の中がピンク色のお花畑になるんだよぉ(ごくごく)」


 画面の向こうの平民たち:「よし買った!!」「俺の脳もピンクにしてくれ!」「30本一括購入したわ」


 裏の売上メーターが音を立てて跳ね上がっていく。


 夜が更けても配信は続く。24時間配信なので、夜は「星空の下のロマンチック・イチャイチャ」の時間だ。


 そこへ、親会社CEOのアルベルト王が、冷徹な経営陣を引き連れて視察に訪れた。


進捗しんちょくはどうだ、フランチェスカ」


「陛下。同接は現在200万人をキープ。ハッピー・ラブ・ウォーターの在庫は完売、スパチャ(魔導投げ銭)の総額はすでに5000万ゴールドに達しています。旧会社の負債の約5%が、相殺されました」


 アルベルト王は満足そうに頷き、マイクを取ってマイクのボリュームを絞り、二人に直接「経営指導」を飛ばした。


「ルピナス、声が枯れているぞ。声帯のメンテナンスを怠る(おこたる)とは、トップスター(不良債権)としての自覚が足りん。次の1時間は『耳元での吐息混じりの甘い囁き(ささやき)』に切り替えろ。消費カロリーを抑えつつ、重課金層(マダム平民)の財布をこじ開けるのだ」


「は、はい父上……!  ゲホッ、じゃなくて、ミモザ……君の瞳に映る星空は、まるで僕のポートフォリオのように美しいよ……(囁き)」


 平民たちのコメント:「おい王子急にイケボ(イケメンボイス)になるなwww」「マダム平民たちが札束で殴り合ってるぞ」「おのれ王太子爆発しろ(スパチャ1万ゴールド)」


 ついに24時間が経過し、画面が暗転した。


 配信終了の合図とともに、レジャーシートの上に泥のように崩れ落ちるルピナスとミモザ。二人の目は完全に死んでいる。


「お、終わった……。ミモザ、僕たち、やり切ったよ……」


「もう無理ぃ……顎が外れるかと思った……。お花なんて見たくもない……」


 そこへ、ヒールを鳴らしてフランチェスカが歩み寄ってきた。手にはバインダーを持っている。


「お疲れ様、ルピナス社長、ミモザCHO。初回の確定スコアが出たわ」


 二人はビクッと体を震わせ、彼女を見上げる。


「総売上、8500万ゴールド。親会社への上納金と諸経費、そして負債の返済分を差し引いた、あなたたちの取り分は――予定通り、一律10万ペル(手取り)よ。おめでとう。今月のノルマは達成だから、鉱山行きは来月まで保留ね」


「10万……。あれだけイチャついて、10万……」


 ガタガタと震えるルピナスの横で、ミモザは魂が抜けたような顔で天井を見つめていた。


 そこへ、アルベルト王が優雅に歩み寄る。


「素晴らしい初速だ。これなら次期四半期の決算報告は、株主たちへの最高のサプライズになるな。さあ、二人とも、休んでいる暇はないぞ。明日は『お花畑ハッピーピクニック・ジャパン 臨時株主総会』の生中継だ。もちろん、ノーギャラで出席してもらう」


 こうして、見世物として最高の結果を叩き出したルピナスとミモザ。


 平民たちにとっては「究極の癒やし(チル)」を提供する天使のような二人だが、その実態は、キレ者揃いの経営陣(王と公爵家)によって1ペル残らず搾取される、最も費用対効果の高い「ハッピーな労働型奴隷」なのであった。

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