第四回 お花畑と新居とヴァルデマール
次の日……
緊急朝礼が開催された。
王宮の講堂に、主要な社員が集められる。
ざわ、ざわ、ざわ。
「やはり、倒産かな?」
「ルピナス様のやらかしの説明か?」
「どうなるんだ……」
人々は不安と推測で盛り上がる。
ただ、大きな声を出す者はいなかった。
しばらくすると、時間となったのか、ヴァルデマールとアルベルト王が壇上に上がる。
「あー、静粛に。これより緊急朝礼を始めます。まずは、アルベルトCEOよりお話があります。アルベルト王、よろしくお願いいたします」
ヴァルデマールが、アルベルト王にマイクを手渡す。
「さて、諸君。我が社は知っての通り、未曾有の危機に面していた……」
「お前のところの息子がやらかしたんだろ……」
誰からともなく呟くと、アルベルト王がギロリと会場を見渡す。
社員たちは縮こまり、口を閉じた。
「誰が言ったかは分からないが、まったく、その通りである。我が息子ながら、呆れる……」
ほっとする社員一同。
続きの言葉を静かに待つ。
「しかし、株式会社アイナール王国は倒産などしない……とだけ伝えよう。もう昨日のうちに、資産も主要事業も新会社に移した」
ざわ、ざわ、ざわ。
「資産って、社員も?」
「王家だけ逃げた?」
「どうしたらいいんだ……」
「まだ、ローンが残って……」
ヴァルデマールが慌てて、
「話は最後まで聞くように」
と鎮静を図る。
会場は、幾分かの落ち着きを取り戻した。
「新会社は、アイナール王国が100%出資。CEOにルピナス・ド・アイナールを迎え、CHOにミモザ・ポポロ男爵令嬢を据える。以上が新会社の体制だ」
「あれ? 俺たちは……」
「しっ! 黙ってろ」
「そして、株式会社アイナール王国は、新会社『新・アイナール・ホールディングス』へと移行する。もちろん、君たち社員一同も一緒にだ!」
「おお……」
「良かった……」
安堵の声が広がっていく。
「では、新体制に当たって、役員人事の変更を紹介しておこう」
壇上に、ぞろぞろと人が上がってくる。
「まずは――」
「おい、あれって……」
「さっきからお前、煩い……」
「ゴホン。最高執行責任者、COOに『フランチェスカ・フォン・ツメヨレ』嬢を据える」
「フランチェスカです。皆様、よろしくお願いいたします」
完璧な淑女の礼に、社員たちが息を飲む。
「そして、副社長に『レインハルト・ド・アイナール』を据える」
レインハルトが軽く頭を下げる。
その顔は自信に満ちあふれており、ルピナスとは正反対に見えた。
「監査役についても、四大公爵家なのは変わらん。ツメヨレ公爵家、ワケハナ公爵家、ヤレヤレ公爵家、カネイチ公爵家の面々だ」
それぞれの公爵は、名前が呼ばれるたびに軽く手を挙げるだけだった。
「他の役員については、変更がないので割愛する!」
ヴァルデマールが予備のマイクを取り出す。
「では、略式ではありますが、決起宣言を」
「うむ」
アルベルト王が頷く。
「ここに、新・アイナール・ホールディングスを立ち上げたことを宣言する。皆の者、よく働き、よく儲けようじゃないか!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
「「アルベルト王万歳!!!」」
「「アイナール王国に栄光を!!!」」
アイナール王宮では大いに盛り上がり、新体制への移行がスムーズに行われていた。
一方その頃……
ルピナスとミモザの元へヴァルデマールと三人の使用人が訪れていた。
屋敷に着くと、誰かが薪を割っている。
近付くと、それはルピナスであった。
三人がギョッとしていると、ルピナスが四人に気づいた。
「あれ?ヴァルデマールどうしたの?まさか……討ち入り?」
「違います。ルピナス様」
使用人達が怪訝は顔をしているが、ルピナスはお構いなしだ。
「ルピナス様、ミモザ様はどちらに?」
「ミモは、いま、裏の庭で畑を作ってるよ。呼んでくるねー」
さらに、怪訝な顔をする人々。
「ルピナス様は、王太子だったんだよな?」
「ミモザ様も、一応、男爵令嬢だよな?」
「では、我々も行きましょう」
ヴァルデマールは努めて冷静に、皆を促す。
薄汚れたルピナスと、かなり汚れたミモザ、そして身なりだけは完璧なヴァルデマールたちが、何もない客室に集まった。
「ルピナス様、私たちは屋敷の使用人兼『株式会社お花畑ハッピーピクニック・ジャパン』のスタッフとなります。まずは、私、ヴァルデマールが執事長兼、子会社最高会計監査人兼、 生活管理指導役を務めさせていただきます」
「あれ? ヴァルデマールは宰相じゃないの? 抜けて大丈夫?」
「はい。息子に後任を任せてきました」
「そう、なら大丈夫だね。ヴァルデマール、よろしくね!」
「ヴァルデマールさん、よろしくお願いします!」
ミモザも元気よく挨拶をする。
「それでは、他の者たちも……」
「いっぱいいるから、追々にしようよ! このままだと夜に寝られないよ? 皆で毛布に包まって寝るのかな? ご飯の用意もまだだし……」
ルピナスが待ったをかける。
「大丈夫です。朝は間に合いませんでしたが、その他はすでに用意しております」
「手際いいね。相変わらず、ヴァルデマールは頼りになるな」
「恐れ入ります。では、スタッフの紹介をいたします」
「ガレット・ケッスラーです。ルピナス様の護衛を担当します」
「テレーゼです。主に掃除、洗濯、食事の準備、庭の手入れなどを担当いたします」
「フィニックです。広報担当兼、配信責任担当となっております」
三人が矢継ぎ早に挨拶をし、顔合わせが終わる。
「じゃあ……薪割りに戻るね」
「畑に戻ります」
「いやいや、殿下! お待ちください。忘れましたか? 配信をしてノルマを達成しないと、鉱山送りですぞ」
ヴァルデマールが慌ててルピナスを止める。
「でも、生活できなかったら配信してても死んじゃうよ……」
「ルピナス様とミモザ様には、本日の予定を説明いたしますので、お待ちください。他の者は、注文した荷物が届くはずだから、受け取りと整理をするように。フィニックにリーダーを任せる。ガレットは、本日の監視……ではなく護衛はいいから、荷解きを手伝え」
「「「わかりました」」」




