第三回 お花畑とハッピーピクニック
「……え?」
四大公爵が揃って間抜けな顔を晒す。
「どうだね、フランチェスカ嬢。君たちが欲しがった会社の実態は理解できたかな?」
『クックック』と笑いながら話す、アルベルト王は小憎たらしいが、フランチェスカは財務資料をじっと見る。
「……確かに、このままでは買えませんわ」
彼女が冷静に資料を読み進める。
「ですが、陛下」
「なんだね?」
「この負債……本当に『株式会社アイナール王国』が抱える必要がありますか?」
「ほぅ」
アルベルト王が感嘆の声をあげる。
「えっと、ついていけないんですけど」
申し訳なさそうに、ミモザが呟く。
「大丈夫!僕もだよ」
ルピナスが机の下でミモザの手をギュッと握る。
絡み合う指と指。2人は幸せの真ん中であった。
アルベルト王がニヤリと笑う。
「どういうことだね?」
「この資料は『ルピナス殿下が王太子として締結した契約』『王室が保証した債務』『国家事業として承認されたもの』がごちゃ混ぜになっており、誰の責任として、どの法人にどの債務を帰属させるのかを無視してませんか?」
「なるほど、フランチェスカ嬢。やはり君は優秀だな」
「そういえば、僕の計画書の話は?」
ルピナスだけが、平常運転をしていた。
「殿下、今はそれどころではありませんので」
ヴァルデマールが慌てて殿下の傍に行く。
「お年寄りには刺激が強いかしら?」
ミモザがルピナスの手に軽く合図して手を離す。
「どうして?」
「……説明いたしましょう」
ヴァルデマールは見なかった事にして、先ほどの話をルピナス殿下用に要約していく。
「簡単に言えばですね。殿下が借りたお金を、全部会社の借金にしてしまっていいのか、という話です」
「僕が借りたの?」
「そういう契約がいくつかございます」
「へー?じゃあ、僕が返さないといけないね」
「……そこを今、フランチェスカ嬢が問題にしているのです」
「なるほど!で?僕なんで借金してるのかな?」
「では、一つずつ見ていきますね」
ヴァルデマールが資料を片手に、ルピナスとミモザの間に入る。
「仲良し三人組みたい」
ミモザは少し楽しくなってきているみたいだ。
「まずは、これはミモザ嬢への贈り物です」
「この部分は宝石店との契約です」
「こっちら別荘の建設費です」
「これ新しい馬車もございますね」
「それから――」
ヴァルデマールが、ルピナスの支出部分をピックアップしていく。
「僕、そんなに使ってたの?」
「はい、一つ一つは小さくても、積み上がれば大金になる。そういう事です」
「でも、僕は王太子だったんだから、これくらい普通じゃないの?」
「ええ。王太子なら、普通は自分のお金と会社のお金の区別くらいはつけますわ」
フランチェスカが横から、溜息と一緒に正論を吐く。
「そろそろ宜しいかしら?」
フランチェスカ、四大公爵、アルベルト王は、ルピナスが理解するまで、ゆっくりとお茶を飲んで待っていた。
「我々の時間も無限じゃないんだ、そろそろ本題に入ろうじゃないか」
ゲオルク(ツメヨレ公爵)が話を戻す。
ヴァルデマールは慌てて元の位置に戻る
「では、お花畑…」
「それはもういいわ(ぞ)…」
みんなの心が一つになった。
「え?そうなの??まだ、決議が…」
ルピナスが、フランチェスカを見る。
「では、婚約破棄に端を発する我が社の信用問題と、今後の展開についてですが…」
「このままだと破産ですね」
「そうですね」
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
「…」
四大公爵が項垂れる。
「ひ、ひどいですぅ! 私、破産なんて嫌ですぅ!」
急にミモザが叫ぶ。ようやく、ルピナスが借金を背負ったという話が理解できたようだ。
涙目で叫ぶミモザ。
ここでアルベルト王は、不敵な笑みを浮かべて1枚の書類を突きつけ、朗々と声を響かせた。
「安心しなさい。私は実の親だ。いくらお花畑で無能とはいえ、我が子をそのまま破産させるほど鬼ではない。お前たちには、新設する100%出資子会社、『株式会社お花畑ハッピーピクニック・ジャパン』を経営させてやる。我が国の平民層の間では、今、現実逃避のファンタジー小説や、脳を空っぽにして癒やされたいという『チル(Chill)需要』が爆発的に高まっている。この子会社の事業内容はこうだ。『王太子と男爵令嬢が、毎日ガチでイチャイチャしながらピクニックをしている様子を、遠隔魔導カメラで24時間生配信する、サブスクリプション・エンタメ事業』だ!」
「父上……! やはり僕たちの愛とチルの可能性を認めてくれたのですね!」と目を輝かせるルピナス。
フランチェスカが、顎に手を当てて事業計画書を熟読し、ゾクゾクするような笑みを浮かべた。
「……なるほど。ルピナス殿下のあの『見ているだけで脳の血管が切れそうになる純度100%の愚行』は、現代のストレス社会を生きる平民にとって最高の『癒やし(見世物)』になる。利益率は驚異の92%です」
「な、なんて悪魔的なビジネスモデルだ……! さすがはアルベルト社長!」と目の色を変える守銭奴のギルベルト(カネイチ公爵)。
「ところで父上、会社名の最後の『ジャパン』って何ですか?」
「気にするな」
ピシャリとアルベルト王が切る。
「そうですか、まあ、可愛いからいいか」
アルベルト王はニヤリと笑い、何も理解していない二人に契約書をサインさせた。
ヴァルデマールだけが、少し気の毒そうにルピナスとミモザを見ていた。
サインを終えた2人にヴァルデマールが近寄る。
「殿下少し良いでしょうか?」
「どうしたの?ヴァルデマール」
「ここの部分ですが、借金はそのまま殿下が引き継ぐ事になっております」
「え?」
「それとここですが、収益は全て負債返済に充てられます。手取りは月10 万ペルですよ。最低賃金以下です。」
「そうなの?」
「あと、売上ノルマが達成出来ない場合、解任されて鉱山送りが契約に盛り込まれてますが…」
「本当に?どこ?」
「えっ? そんなのあったかな……?」と首を傾げるルピナスとミモザを無視し、アルベルト王は全株主に向かって声を張り上げた。
「これにて、緊急株主説明会を終了する! 我々は、新会社『新・アイナール・ホールディングス』へと移行し、この子会社から上がる莫大なエンタメ利益をチューチューと吸い上げながら、過去最大の経済繁栄を謳歌するのだ!」
「応!!!」と、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
「あと、親会社での継承権が切られるので…実質廃嫡です。」
「本当だ!」
ヴァルデマールのルピナスへの解説を置き去りに会議は円満に終了するのであった。




