第三十三回 久々のピクニックと、ルピナス流のおすそ分け
「〜〜♪ 今日の風はとっても心地いいねぇ、ミモ」
「はいですぅ〜。お日様もぽかぽかで、最高のピクニック日和ですぁ」
緑あふれる小さな丘の上。敷かれたシートの上で、ルピナスとミモザは手作りのサンドイッチを口に運んでは、お互いに頬を緩め合っていた。
『久々の外配信きたー!』
『景色最高www』
『ルピミモがピクニックしてるだけで白飯食えるわ』
『画面越しに緑の香りがするww』
『今日も安定のてぇてぇ空間』
「ルピナス様、ミモザ様。お茶のおかわりはいかがですか」
日傘を差し伸ばしながら、傍らに控えるヴァルデマールが優しく声をかける。長年の執事らしくピシッと背筋を伸ばしつつも、二人を見守る眼差しはどこまでも温かい。
一方、仮テントの指令室。
「ふぅ……平和ね。平和すぎて眠くなってきたわ……」
フランチェスカはソファに深く身を沈め、半目でモニターを見つめた。隣でフィニックも静かに頷き、温かいお茶を一口啜る。
「ええ。株主総会のような大嵐の後ですから、この何もない穏やかな時間こそが一番の薬ですよ」
その時、画面の中でルピナスがふと立ち上がり、丘の向こうに聳え立つ遠くの山並みを見つめた。手で日よけを作りながら、ぱっと表情を輝かせる。
「そうだ! 僕たち、最初はお世話になるはずだった鉱山の人たちに、何かプレゼントをしようよ!」
「まあ! いい考えですぅ、ルピちゃん! みなさんきっと喜びますぁ!」
ミモザも手をポンと叩き、身を乗り出してルピナスと顔を見合わせた。
『鉱山の人たち!?』
『第1話で左遷されかけたあの鉱山かwww』
『忘れてなかったルピナス社長心優しすぎだろ』
『義理堅いwww』
「……は?」
仮テントでフランチェスカの目が点になった。手から力が抜け、バインダーが床に重い音を立てて落ちる。
「ちょっと待ちなさい……! せっかく手取りが50万ペルに増えたのに、また利益にならない無料の奉仕を始めようとしてるの……!?」
「あはは……まあ、フランチェスカ様。彼ららしいといえば、実に彼ららしいですよ……」
フィニックも苦笑いを浮かべ、呆れたように肩をすくめた。
「うーん、何がいいかなぁ? 鉱山で働くみんなが喜んでくれるもの……」
顎に指をあてるルピナスに、ミモザがコメント欄を指さす。
「ルピちゃん、リスナーのみなさんにも聞いてみましょ?」
『ツルハシ!』
『お花畑印の作業着ww』
『安全第一のやつ!』
『最新式のヘルメットとかどう?』
『ハーブティー1年分ww』
「あ! ヘルメット! それすごくいいね!」
コメントを見つけたルピナスが手を叩いた。
「お花畑印の最新式ヘルメットを送ろう! みんなのお仕事が、安全でハッピーになるようにね!」
「素敵ですぅ〜! お花柄の可愛いヘルメットにしましょ〜!」
「ル、ルピナス様……! お言葉ですが、お花畑印の最新式ヘルメットを大量発注となりますと、せっかく減り始めたお二人の借金がまた増えてしまいますが……!」
傍らのヴァルデマールが素早く魔導手帳を開き、計算ペンを走らせながら一瞬で額に汗を浮かべた。
しかし、ルピナスは困り顔どころか、ふんわりと笑ってみせる。
「いいんだよ、ヴァルデマール。僕たちの借金が少し増えることより、鉱山のみんなが安全にお仕事できることの方がずっと大切だからね」
「はいですぅ〜。みんなの笑顔が増えるなら、借金なんてへっちゃらですぁ〜」
眩しい笑顔で手を取り合う二人を交互に見つめ、ヴァルデマールは眼鏡の位置をそっと直すと、口元を穏やかに緩めた。
「……ふふ、畏まりました。ルピナス様らしい思いつきでございますね。すぐに手配いたしましょう」
『最新式ヘルメットwwww』
『自分たちの借金増えるのに即決すなwww』
『絶対安全だけど見た目お花柄なの草』
『鉱員のおじさんたちが花柄ヘルメット被るの想像して耐えられないww』
『ヴァルデマールさん説得諦めて納得するの早くて好きww』
『やっぱりどこまでもハッピーピクニックだな!』
遠くの山を指さしながら「喜んでくれるといいねぁ」「はいですぅ〜」と笑い合うルピナスとミモザ。呆れ返るフランチェスカをよそに、丘の上にはどこまでも優しく心地よい風が吹き抜けていくのだった。




