第三十一回 説得戦の結末とCEOの秘策
役員総出の説得すら笑顔で受け流す頑固なルピナスを前に、重臣たちとフランチェスカ、レインハルトは息を呑み、一斉にある人物へ視線を向けた。
――最終兵器。ミモザCHOである。
「ミモザ殿……! 頼む、貴方から言っておくれ!」
「フランチェスカ様たちのお願い、断っちゃダメですぅ……!」
重臣たちの悲痛な視線と応援を受け、ミモザはコクリと頷くと、意を決したようにルピナスに向き直り、小さな拳をギュッと握りしめた。
「ルピちゃん! ミモからもお願いがありますぅ! お給料が増えたらぁ、もっと広くて綺麗なお部屋に住めますし、ルピちゃんが着るお洋服もいっぱい買えますぁ!」
「ん〜、でもねミモ。今のお部屋も日当たりが良くて二人で過ごすのにちょうどいいし、お洋服もミモが繕ってくれたこの服が一番大好きなんだ」
「うぐぅ……! じ、じゃあ、お給料が増えたらぁ、毎日高級なスイーツが食べられますよぉ!」
「ううん、僕はミモが焼いてくれるいつものハーブクッキーが世界で一番美味しいと思うな。ミモが隣にいてくれさえすれば、僕は他になにもいらないよ?」
「ルピちゃん……っ! ミモも……ミモもルピちゃんがいれば、それだけで世界一幸せですぅ〜〜っ!」
「ミモザぁ……!」
立ち向かったはずのミモザは一瞬で毒気を抜かれ、二人はその場で固く抱き合い、頬をすり寄せて完璧なラブラブモードへと突入してしまった。
「……というわけですのでぇ、私達、今のままでだーいじょうぶですぅ〜」
「「「「「「なぜ!!!!!」」」」」」
『『『『『『なぜ!!!!!!』』』』』』
『切り札すら一瞬で落ちて草wwwww』
『説得しに行って愛を再確認しただけだったwww』
『ミモザちゃんポンコツすぎて愛おしいわ』
『全人類「なぜ」の二重奏wwww』
『もう誰もこの二人を止められないwww』
会場に響き渡る絶叫。フランチェスカは「嘘でしょ……」と呟いたままバインダーを落として膝から崩れ落ち、レインハルトも眼鏡を抑えたままガクリと膝をついた。四公爵家は泡を吹いて倒れ込み、ホール全体が絶望と脱力感に包み込まれる。
その惨状の中、壇上奥から重厚な足音が響いた。
アルベルトCEOが、静かに葉巻の煙をくゆらせながらゆっくりとルピナスへ近づく。その圧倒的な覇気に、会場の誰もが息を止めた。
アルベルトはルピナスの隣に立つと、腰を低く落とし、その耳元でボソリと何かを囁いた。
「……〜〜〜〜〜〜っ!?」
一瞬でルピナスの顔が真っ赤になり、目を見開いてハッと息をのんだ。
「じゃ、じゃあ……手取り50万ペルでお願いします……!」
――ピキィン。
会場の全員、そして魔導スクロールのコメント欄、果ては各国の皇太子たちの動きが一瞬でピタリと止まった。
『『『『『『えっ???????』』』』』』
『時が止まったんだがwwwwww』
『何を言ったのCEO!?!?!』
『あれだけ頑なだったルピナスが一瞬で落ちたwwww』
『CEOの耳打ち一発で交渉成立すなwwwww』
『なんて言ったのか今すぐ教えろお!!!!!』




