第二十五回 スパチャ合戦とお花畑コンプライアンス』
「あ、あのね……みんな? 画面が金色で眩しくなっちゃってるんだけど……」
「ミモも、画面の文字が早すぎて目が回ってきましたぁ……」
『G・ガルシア:ルピナス、受け取れ。次の一杯の足しにしろ【50万ペル】』
『北欧の隠者:我が国の癒やし代だ!【80万ペル】』
『東方の旅人:引く気はない!【100万ペル】』
『砂漠の隠者:我がポケットマネーを見せる時!【200万ペル】』
『ロイヤル重課金勢あたまおかしいwww』
『平民のコメント全滅してて草』
『完全に札束で殴り合ってる』
『助けてルピナス社長www』
「――みんな、いい加減にして!!」
ルピナスはバンッと机を叩いて立ち上がり、魔導カメラをまっすぐ見つめた。
「いつも応援してくれるのは嬉しいよ? でもね、ここはみんなが脳を空っぽにして、のんびりチルするための場所なんだ! こんな大きな金額が飛び交ってたら、みんなが寂しい気持ちになっちゃうじゃないか! お小遣いっていうのはね、自分が頑張ったご褒美に、ちょっとだけ使うから楽しいんだよ! だからこれからは、ちゃんとお小遣いの範囲内で、みんなで楽しめる金額にして!!」
「そうですよぉ〜。私達、みなさんのお気持ちだけで胸がいっぱいですぅ。もっと庶民的なチルを一緒に楽しみましょ?」
――ガルシア帝国、執務室。
「……ッ! 私は、何をしていたのだ……!」
ギルバート皇太子は顔を手で覆い、頭を深く垂れた。
「日々のストレスから、自らのお小遣いを叩きつけて存在を誇示するだけの重課金中毒者に成り下がっていた……。ルピナスは私を、一国の次期皇帝としての『節度』に引き戻してくれたのだ……!」
――北欧、東方、砂漠の宮廷。
(……いや、私にとって二百万ペルは本当にただの『今月のお小遣い』なのだが……)
各国の太子たちは心の中でそう呟きつつも、静かに端末を操作した。
『G・ガルシア:……今日の配信も素晴らしい。【100ペル】』
『北欧の隠者:サンドイッチが美味しそうだ。【50ペル】』
『東方の旅人:自分も【50ペル】で……』
『砂漠の隠者:【100ペル】受け取ってくれ……』
『ファッ!? 100ペルになったwwww』
『じゃあ俺も! 今日のハーブティー代!【100ペル】』
『ルピナス社長の説教の対価www【50ペル】』
『高額ニキたちも平民もみんなで100ペル投げ合ってるの胸熱www』
『いつものチル配信に戻ったあああ!』
――仮テント指令室。
「な・ん・で!! 自ら莫大な収入源を突っぱねて減らしているのよーーっ!!」
フランチェスカは頭を抱えてバインダーを床に叩きつけ、髪を振り乱して突っ伏した。
「皇族たちの余ったお小遣いをノーリスクで吸い上げる巨額の外貨獲得チャンスだったのよ!? 本当にどこまでも商才がない! だから貴方は王様に向いていないのよーっ!!」
「まあまあ、フランチェスカ様。落ち着いてください……」
フィニックは苦笑いしながら淹れたての温かいお茶を差し出し、優しく肩を叩いた。
「一時の大金は逃しましたけど、平民も皇族も同じ場所で仲良く投げ銭するなんて、世界中どこを探してもない唯一無二のプラットフォームになりましたよ。子会社の価値は、むしろ跳ね上がりました」
「うぐぐ……理屈では分かってるけど、目の前の金貨の山が消えたのよ……っ!」
フィニックのお茶を一口飲んで少し落ち着きつつも、まだ恨めしそうにモニターを睨むフランチェスカ。
――アイナール・ホールディングス本社、CEO執務室。
モニター越しに一連の騒動を見届けていたアルベルトCEOは、静かに葉巻の煙をくゆらせ、満足そうに目を細めるのだった。




