第二十二回 国際会議と皇太子たちの密かなチルタイム
各国の首脳や要人が集う、年に一度の『世界魔導経済国際会議』。
親会社『アイナール・ホールディングス』を代表し、アルベルト最高経営責任者(CEO)とレインハルト副社長が参加していた。他国との利害調整や魔導エネルギーの貿易協定など、緊迫した議題が次々と交わされる中、二人は完璧な立ち回りで一切の隙を見せず、会議を何事もなく無難にやり遂げたのだった。
過密なセッションがすべて終了し、緊張感の漂う会場から各国の重鎮たちが退室していく中、ふと会場の隅に人だかりができ始めていた。
中心にいたのは、ガルシア帝国のギルバート皇太子だ。厳格で知られる彼が、眉間にシワを寄せながら手元の魔導端末を凝視している。その異様な集中ぶりに、親交のある他国の王太子や皇太子たちが「おいギルバート、何をそんなに真剣に見ているんだ?」とゾロゾロと集まってきた。
「ふん……見たいなら見るといい。我が帝国のギスギスした宮廷闘争で荒んだ心を、唯一癒やしてくれる聖域だ」
ギルバートが見せていた画面――そこに映っていたのは、お花畑スタジオで「おいしくなーれ、お花畑ぇ〜!」と笑顔で泥まみれになりながら種をまく、ルピナスとミモザのほのぼの作業配信だった。
「な、なんだこれは……? 元王太子が泥まみれで畑を耕しているのか……!?」
「このピンクのハッピーなオーラは一体……? 見ているだけで肩の力が抜けていくぞ……」
日頃から国家の重責、継承権争い、そしてドロドロとした陰謀の恐怖に晒されていた各国の若き後継者たち。彼らの乾ききった心に、ルピナスとミモザの放つ一〇〇%の無害な多幸感と「チル」が、猛烈な勢いで染み渡っていった。
「す、素晴らしい……! 我が国の継承戦のストレスが、一瞬で吹き飛んでいく……!」
「おいギルバート、私にもこの魔導アプリを教えろ! 後でチャンネル登録というものをせねば……!」
画面を囲み、目を輝かせながらチルな世界観にどっぷりと引き込まれていく各国の王皇太子たち。
その異様な光景を少し離れた場所から一瞥したレインハルト副社長は、短く吐き捨てるように呟いた。
「……ふん」
興味なさげに鼻で鳴らすと、一切足を止めることなく、静かにアルベルトCEOと共にその場を立ち去っていく。
残された各国の次世代リーダーたちは、スパチャを投げることすら忘れ、ただただ画面の中で楽しそうに畑を耕すルピナスとミモザの姿に無言で釘付けになり、日々の重圧から解放される密かなチルタイムを貪り続けるのだった。




