第二十一回 お花畑の小さな野菜畑
爽やかな朝の光が降り注ぐお花畑スタジオ。テラスでテレーゼ特製の朝食を食べていたルピナスとミモザが、同時にポンと手を打った。
「ねえミモ、僕思ったんだ。ミモザの新しいチルサンド、自分たちの手で育てた新鮮な野菜を挟んだら、もっともっと美味しくなるんじゃないかな!」
「まぁ! すごいですぅルピ! ミモも自分で育てたシャキシャキのレタスやトマトでサンドイッチ作りたいですぅー!」
「よし、決まりだね! 今日はみんなで『お花畑の野菜畑』を作ろう!」
ルピナスの思いつきから始まった突然の畑作り。だが、今回はいつものような事業拡大のパニックではなく、スタジオの裏庭でひっそりと始まる小さな手作り農園だった。
「やれやれ……ルピナス様がお決めになったのなら、全力でサポートいたしましょう」
執事長のヴァルデマールが苦笑しながら鍬を手に取り、真っ先に土を耕し始める。護衛のガレットは自慢の腕力で大きな石を軽々と打ち払い、テレーゼは美味しいお野菜が育つようにと手際よく肥料を混ぜ込んでいく。広報のフィニックは「今日の配信はほのぼの作業配信で行きましょう!」と、魔導カメラの角度を調整した。
鍬を握って泥だらけになりながら「おいしくなーれ!」と土を叩くルピナスとミモザ。その平和すぎる作業風景が配信されると、魔導スクロールにはどこまでも温かなコメントが流れた。
『なんだこの平和すぎる空間……心が浄化されていく』
『ヴァルデマールさんの鍬さばきが無駄に手慣れてて草』
『ガレットさん筋肉の無駄遣いだけどカッコいいwww』
『王子とミモザちゃんが泥んこになってて可愛すぎるんだが』
『こういう作業配信をずっと見ていたいんだよな……』
炎上も、高額スパチャの波乱も、新しいビジネスの提案も何もない。ただただ陽気で穏やかな時間が流れていた。
――その頃。仮テントの指令室。
モニター越しに泥まみれで笑い合う一同を見つめながら、フランチェスカは深々とパイプ椅子に背をもたれかけ、温かいハーブティーを一口啜った。
(……静かだわ)
フランチェスカは手元に置かれたバインダーを見つめ、静かに吐息を漏らす。
(今日のあの男たちは、突拍子もない提案も、勝手な約束も、予測不能な無謀さも見せていない。つまり……私の胃を痛める『余計なこと』を一切していないということよ……!)
いつもなら次から次へと予期せぬトラブルを起こし、そのたびに冷や汗をかかされてきた。しかし今日に限っては、ただ裏庭で泥遊びのような畑作りに興じているだけだ。
(相変わらずあの男たちの思考回路は一ミリも理解できないけれど……余計な動きをしない一日がこれほど素晴らしいものだなんて)
理解不能な存在であることに変わりはないが、トラブルがないという一点だけで十分だった。フランチェスカはバインダーを静かに閉じると、久々のノーストレスな時間を噛みしめながら、ゆったりとお茶を味わうのだった。




