第二十回 プレミアムサロン開店と奇跡の一杯
ついに王都の一等地、最高級店が立ち並ぶメインストリートに、親会社直営の最高級ハーブティー&チルサンド専門店『お花畑・プレミアムサロン』がグランドオープンを迎えた。
大理石の床にクリスタルのシャンデリア、そしてミモザCHOが厳選した豪華な生花が絢爛に咲き誇る店内。
しかし、いつものお花畑スタジオのテラスでお茶を飲んでいたルピナス社長の配信中、魔導スクロールの監視と配信操作を行っていた広報のフィニックが、困惑気味に画面のコメントを読み上げた。
「ルピナス社長……視聴者から気になるコメントが届いています。『王都の一等地にできた高級店見たよ! チルサンド一皿五千ペルとか高すぎて平民行けないんだけどwww』……とのことですが」
それを聞いたルピナスは、首を可愛らしく傾げてぽつりと呟いた。
「え? 『お花畑・プレミアムサロン』……? なにそれ?」
――ガタンッ!!
仮テントの指令室で、フランチェスカが文字通りデスクに突っ伏し、額を激しく叩きつけた。
「嘘でしょうルピナス……っ! あれだけ会議を通した我が社のフラッグシップショップの存在すら知らなかったの……!? 経営陣としての自覚はどこに行ったのよーっ!!」
ルピナスの無邪気すぎる「なにそれ?」発言は、ネット上で瞬く間に大炎上を引き起こした。
『おいおい、子会社社長すら知らない高級店ってマジ!?』
『親会社が勝手に名前使ってボッタクリ店作っただけじゃねーかwww』
『お花畑のチルな世界観を金儲けに利用するな!』
平民リスナーたちの反発は凄まじく、オープン初日にもかかわらず『お花畑・プレミアムサロン』は客足が完全に途絶え、惨憺たる開店休業状態へと追い込まれてしまった。
真っ青な顔で頭を抱えるフランチェスカ。だがその後、配信用の魔導カメラを浮かべたフィニックを引き連れ、護衛のガレットに守られながら、ルピナスとミモザがお散歩がてらその高級サロンの前にふらりと現れた。
「わぁ! ルピ、ここすごいですぅ! お花がいーっぱい飾ってあって、とっても綺麗なお店ですぅ!」
「本当だねミモ! ……あ、僕たちのお花畑のマークが書いてあるよ! 入ってみよう!」
ガラガラで静まり返った店内に、二人がニコニコしながら足を踏み入れる。すると、入口に生けられた大輪のブーケを見たミモザが、ぱぁっと顔を輝かせて両手を叩いた。
「ああっ! このお花、ミモが前にお渡しした『サロンに飾るなら絶対これが可愛いですよぉ』って選んだお花たちですぅ! 本当にぜーんぶ綺麗に飾ってくれてますぅー!」
「えっ、ミモザが選んだお花だったの!? だからこんなに素敵なんだね!」
二人が感動しているその瞬間、画面の魔導スクロールが眩い黄金の光に包まれた。
『システム通知:アカウント【G・ガルシア】が【神々の祝福】を送信しました』
『システム通知:1,000,000ペル が投げ銭されました』
『G・ガルシア:五千ペルが高すぎると? 戯れ言を。我がガルシア帝国からすれば破格の安さだ。私は今すぐ全席買い占めて貸し切りにしたいぞ。その綺麗な花に囲まれて休ませてくれ』
隣国のギルバート皇太子(G・ガルシア)による、まさかの「百万ペル」という爆撃級スパチャ。一瞬で大騒ぎになるコメント欄。
『おい百万円投げられたぞwwwww』
『ガルシアのアニキが五千ペルを安すぎるとか言い出したwww』
『貸し切りにするなwww平民の行く枠を残してくれwww』
しかしルピナスは、カメラに向かって優しく微笑みかけた。
「ガルシアさん、いつも応援ありがとう! でも、お店を一人で買い占めちゃったら、他のお疲れ気味のみんなが入れなくなっちゃうでしょ? だから今日は、ガルシアさんの分も僕たちがここでお茶を飲んで、元気を届けてあげるね!」
緊張でガタガタ震える給仕係からハーブティーと高級チルサンドを受け取ると、ルピナスとミモザはカップに優しく両手を添えた。
「遠くにいるガルシアさんも、お店に来てくれるみんなも……美味しくなーれ、お花畑!」
「おいしくなーれ、お花畑ぇ〜!」
二人がいつもの笑顔でおまじないを唱え、最高級のハーブティーを美味しそうに一口啜る。フィニックが捉えたその多幸感溢れる映像と二人の神対応に、リスナーたちの心が完全に打ち震えた。
『ガルシアの買い占めを「みんなが入れなくなるからダメ」って断る王子優しすぎる』
『ミモザちゃんが本当に選んだお花で、王子のおまじない付きなら五千ペルなんて実質タダだろ!』
『ガルシアのアニキに買い占められる前に行くぞ!!』
二人の純粋な喜びと「ミモザの愛がこもったお花」、そして「おまじない」が、炎上も商売っ気も一瞬で浄化してしまったのだ。
配信が終わる頃には、サロンの前には「ルピナスとミモザが楽しんだ最高級チルティーとお花」を求め、皇太子の買い占めに対抗するように富裕層から平民までの大行列ができあがり、店は劇的な息吹き返しを遂げていた。
お花畑スタジオでテレーゼの淹れたお茶を飲みつつ、報告を聞いたヴァルデマールが「やれやれ、今回もなんとか乗り切れましたね」と息をつく傍ら、指令室のフランチェスカは静かに胸を撫で下ろしていた。
(炎上すらも、隣国の高額スパチャすらも一瞬で最高の集客に変えてしまう……この男たちの『無自覚な救世主ぶり』は、一体どこまで計算外なの……?)
バインダーを抱えながら、フランチェスカはまた一つ深い溜息をつくのだった。




