↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お花畑王太子を追放せよ 〜婚約破棄から始まる成上り〜  作者: 山田りく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/24

第十五回 お花畑の緊急会議とミモザ印のお茶

 『株式会社アイナール・ホールディングス』の役員会議室は、かつてないほどの罵声と怒号に包まれていた。


 急遽招集された「緊急株主会議」。円形の議場を囲む四大公爵たちの顔は一様に怒りで満ちており、手元の財務資料をこれみよがしに叩きつけている。


「どういうことだ、アルベルト社長! 説明してもらおう!」


 真っ先に机を叩いて立ち上がったのは、筆頭株主であり、議決権の四十%を握るツメヨレ公爵ゲオルグだった。軍事・物流インフラを握る武闘派らしく、その声には地響きのような威圧感がある。


「発売初日の勢いはどこへ行った!? 我がツメヨレ公爵家の物流インフラを総動員して構築した全国のハーブティー流通網が、完全に開店休業状態ではないか! これでは維持費だけで大赤字だぞ!」


理由わけがあるから、花(利益)が咲く。……しかし、これでは咲くどころか大立ち枯れですな!」


 すかさずワケハナ公爵ヴァルターが、トレンド系投資家らしい軽快なフットワークでツメヨレ公爵の言葉に乗っかる。


「初速のモメンタム(勢い)だけで終わるとは、あまりにもお粗末! ネット通販のカウンターがほぼ動かんなど、風向きが完全に逆を向いている! アルベルト社長、我々大株主を納得させる説明を要求する!」


「ヤレヤレ……」


 最年長株主であるヤレヤレ公爵レオナルドが、深く頭を抱えながら懐から胃薬を取り出し、水で流し込んだ。


「元王太子の知能指数にリスクがあるのは百も承知だったが……まさか、これほど手痛いリスクがここで顕在化するとはな。私は最初から、あの砂糖水ビジネスの怪しさといい、不確定要素の多すぎる子会社への過度な投資には懐疑的だったのだ。堅実なポートフォリオを組まねば、ホールディングス全体の信用に関わるぞ」


「私のソロバン(魔導計算機)の予測では、今期だけで国家予算の一・五%に相当する損失を叩き出す計算になりますね。実に非効率、かつ不経済です」


 カネイチ公爵ギルベルトが、肌身離さず持っている金色の魔導計算機をパチパチと凄まじい速度で弾きながら、鋭い視線を壇上へと向けた。


「あの歩く不良債権をせっかく手取り十万ペルという超低コスト運用で抑え込み、利益率九二%のサブスクモデルを構築したというのに、バックエンドの物販ラインが初手で損切り対象になるとは。アルベルト社長、我々の出資した資本をこれ以上ドブに捨てるつもりですか?」


 強欲で一癖も二癖もある大株主たちが、壇上のアルベルト王、レインハルト副社長、フランチェスカCOOの三人へ向けて、それぞれの投資スタイルに基づいた非難を浴びせる。


 だが、当のアルベルト王は重々しく腕を組み、株主たちの激しい言葉をただ静かに聞き流していた。今回のハプニングすら、彼は「優良資産の組み替えチャンス」として利用する腹積もりだった。


 アルベルト王は、公爵たちの意見が一通り出尽くしたのを見計らうと、ゆっくりと隣に座る第二王子へと視線を向けた。


「レインハルト副社長。……ポートフォリオの歪みを正し、この事態を収める、具体的な改善案は持ち合わせているか?」


 その問いに、レインハルトは手元の資料から視線を上げ、少しの間、整った顎に手を当てて思考を巡らせた。そして、議場に集まるすべての株主たちを見据え、力強く、はっきりと答えた。


「――あります」


 その一言に、四大公爵家がそれぞれ一斉にレインハルトへと詰め寄る。ギルベルト公がソロバンをパチンと鳴らし、ツメヨレ公が鋭い眼光を向けた。


「本当か!? どのような策だ!」


「出し惜しみするな、若造! 今すぐここで説明しろ!」


「我々の損失を補填できるほどの妙案なのだろうな!?」


 議場の視線が集中する中、レインハルトは至って冷静に、自身のバインダーをタップして議事録の画面を切り替えた。


「まず、現在在庫を抱えている既存の『公式ハッピーピクニック 特製ハーブティー』についてです。こちらは、販売自体は継続します。ただし、売り方を変える。『二人が過ごすお花畑の高級な雰囲気を再現したプレミアム商品』として、パッケージとキャッチコピーのリブランディング(再定義)を行います。配信のコアな層、いわゆる『推しの住む世界観を丸ごと味わいたい重課金層』へ向けたニッチな高級ギフトとして、ターゲットを絞り込むのです」


 その提案に対し、株主たちが再び噛み付いた。


「おい、待て! そんな悠長なブランド戦略で、この数万本という在庫が捌けるか!」


「それでは、直近の赤字を埋めることなど到底できまい!」


 レインハルトは軽く片手を挙げ、騒ぐ株主たちを制した。


「焦らないでいただきたい。既存の赤字は、別の新商品で全額補填、いや、それ以上の利益で大幅な黒字へと転換させれば良いだけのことです」


 その言葉に、それまで静かに状況を見守っていたフランチェスカが、怪訝そうに眉をひそめた。


「別の新商品……? どういうことですの、レインハルト副社長」


 レインハルトは微かに唇の端を上げ、画面に「ある茶葉」の拡大写真を投影した。


「昨日の配信で、ミモザCHOが淹れて大バズりした、あの『普通の草のお茶』。……あれを、我が社の新ライン『ミモザ印のハッピー・チル・ティー(ミモザ監修)』として、超特急で正式に商品化・売り出します」


「……っ!」


「視聴者が配信を見ながら、画面の向こうの二人と同じお茶を、同じタイミングで飲む。これにより、平民層は『二人のお茶会にリアルタイムで自分も参加している』という、究極の没入感(臨場感)を味わうことができる。これこそが、彼らが昨日の配信で求めた『普通の幸せ』の正体です。そして、その販売価格は一袋五百ペルとします」


「五百ペルだと……!?」


 カネイチ公爵ギルベルトが、即座に手元のソロバンを弾いた。パチパチパチ、と鋭い音が響く。


「安すぎませんか? 我が社のこれまでの価格設定からすれば破格の低さだ。そんな端金で、我々の損失が埋まるとでも?」


 だが、その横でヤレヤレ公爵レオナルドが、胃薬の瓶を机に置きながら、おや、と目を細めた。


「ヤレヤレ……。しかし、毎日飲むなら、庶民の財布にとってはそれくらいが妥当な金額か? 手堅い日常消費財としての定着を狙うなら、リスクは低いかもしれんな」


理由わけがあるから、花(利益)が咲く! そういうことですな!」


 ワケハナ公爵ヴァルターが、今度はレインハルトの側へと即座に風向きを変えて身を乗り出す。


「全国の平民が毎日消費するとなれば、その購買頻度と総量は、一部の重課金層向けの高級茶の比ではない! これはトレンドではなく、巨大なインフラ(基盤)になり得ますぞ、ツメヨレ公!」


 その言葉に、筆頭株主のツメヨレ公爵ゲオルグも、腕を組んで深く頷いた。


「ふむ……。我がツメヨレ公爵家の持つ圧倒的な物流インフラ(独占利権)を使えば、その薄利多売の大量輸送こそ最も得意とするところ。回転率を上げれば上げるほど、我が家の利益も膨らむというわけか。悪くない、いや、非常にバリューのある投資だ!」


 株主たちがそれぞれの投資スタイルに合わせた計算を弾き出し、次々と納得の表情を浮かべていく。


 フランチェスカは手元のバインダーの数値を更新しながら、目の前のレインハルトの底知れない経営手腕に、内心で自身の評価をもう一段階上のものへと引き上げていた。


(……見事ですわ。不確定要素による事故を、最速で持続可能な最大利益のビジネスモデルへと昇華させるなんて。やはり、この方のセンスは本物ですわね)


 アルベルト社長が、満足げに重々しく木槌を鳴らした。


「決議はなされた! では、ただちに『ミモザ監修・ミモザ印のハーブティー』を、ホールディングスの全リソースを投入して超特急で商品化させよ! これにて緊急株主会議を閉廷する!」


 ――ところ変わって、お花畑スタジオの新居の食堂。


「あの……ですから、ミモザCHO。我々は会社の命を受け、正確な品質管理のために調査を行っているのです。この乾燥させた茶葉の、正確な配合比率は何対何ですか!? お湯の温度は、八十五度ですか? それとも九十度ですか!? 蒸らし時間は三分十五秒ですか、それとも二分半ですか!?」


「ひゃああん! 分かりません、分かりませんぅ! ミモはいつも、適当に手づかみでバサッとお鍋に入れて、ぐつぐつってしてるだけですぅー!」


 食堂には、親会社から派遣された「ハーブおよび紅茶業界の最高権威」と呼ばれる気難しそうな専門家たちが、何人もずらりと並んでいた。彼らは白衣をまとい、天秤や温度計を片手に、涙目のミモザを完全に取り囲んで、ミリ単位の細かい尋問を行っている。


「手づかみ!? そのような不経済な再現性のない調合では、製造ラインに乗せられません! ほら、もう一度正確なグラム数を!」


「う、うぇぇん……! ルピぃー! おじさんたちが難しそうな言葉でいじめてきますぅ! 助けてくださいぃー!」


 ミモザは半べそをかきながら、テーブルの向こうでヴァルデマールと共にハラハラと見守っていたルピナスに、必死の思いで助けを求める。


「これこれ、専門家の皆様、ミモザ様をあまり困らせないでいただきたい。現場の健康管理を預かる身として、過度な精神的負荷は――」

「そうだよ! ミモザを泣かせちゃダメだ! ミモザの感覚こそが、世界一のハッピーブレンドなんだから!」


 ルピナスとヴァルデマールが慌てて専門家たちの間に割って入り、ミモザを背後に匿う。新居の現場は、商品化に向けた別の意味でのドタバタ劇で大忙しとなっていた。


 そんな数々の苦難(?)と、親会社による驚異的な突貫工事の末、ついに『ミモザ印のハッピー・チル・ティー』が全国で一斉に発売された。


 結果は、言うまでもなかった。

 配信が始まった瞬間、全国の平民たちが「よし、今すぐミモザ特製のお茶を淹れろ!」「二人と一緒に乾杯だ!」と一斉にネット通販のボタンを連打。


 五百ペルという手軽さも手伝って、売上カウンターの数字は、これまでの記録をすべて塗り替えるほどの恐ろしい速度で跳ね上がり、文字通り「びっくりするくらい」爆発的に売れまくるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。