第26話
「……という夢を見たのだけど、ロイアはどう思う?」
「それはもう神の啓示としか言いようがございませんね」
夢を見た後、さっそくロイアに説明すると彼女はうんうんと深く納得していた(ショッキング過ぎるので、ここが乙女ゲームの世界なことは伝えていない)。
「メイナさんたちも信じてくれるかしら」
「ノエル様のお言葉ならば、どんなことでも信じるでしょう」
「う、うん……どんなことでもね」
今日は休日なので授業もない。メイナと話していると攻略対象ズも勢揃いしたので、一緒にベンチに座る。このときばかりはキャラたちの特性に感謝した。彼女らに夢の話をすると、それはもうロイアとほぼ同じ反応をしてくれた。
「やはり、ノエル様は特別なお方ですわ。夢の中で神様にお話されるなんて」
「君は常に僕の想像を超える存在だね。興味が引かれるエピソードばかりだ」
「俺も神と話して~。もっと強くなれば夢に出てくるのか?」
「怖気づかず話すなんて、ノエル様はすごいです。僕なんか、きっと驚いて何も話せませんよ」
結局、こっちでも神の啓示扱いとなってしまったけど、まぁ、よしとしよう。
「じゃあ、さっそく図書館に行ってみましょう」
というわけで、学院の図書館に来た。例に漏れず、これもまた大きな建物だ。高校の体育館くらいは余裕であるね。
「ノエル様、どこにその本はあるのですか?」
「閲覧不可の棚にあるって言っていたわ」
「「閲覧不可の棚……」」
その名の通り、見てはいけない本たち。部屋に入っているのが見つかっただけで始末書一冊物だ。でも、そんなことはどうでもいい。メイナたちも後をついてきてはいる(ロイアはちょっと用事があるとか言っていた)けど、なんだかドキドキしている。
全年齢向けキャラとしては、校則を破るのは勇気がいるのかもしれない。
「大丈夫ですわ。もしバレても私が代表して罰を受けますので」
「「……!?」」
前よりさらに輝かしい瞳で見られている気がするけど、気のせいにしておこう。図書館に入り、バラバラと閲覧不可の棚へ向かう。集団で行動していると目立つからね。目的の場所は図書館の奥の壁。まるで城門のように重厚な扉を開くと、普通は見られない本がたくさん納められているのだ。
さりげなく集まりつつ奥へ。本棚の影から伺うと、すぐ横の机に女性が座っている。さすがに見張りというか、チェックしている人がいるか。あの人は夢の話を信じてくれるかな。すごく真面目そうだけど。
「ど、どうしましょう、ノエル様。」
「そ、そうね。ちょっと待って、今考えるから……」
う~む、困ったね。また忍術使う? それとも忍びらしく気づかれないように侵入して……って、あれ? 思考を巡らせていたら、その人がやけに気になった。
落ち着き過ぎているほどに落ち着いたキレイな女性。なんかどこかで見たような気がするんですが。
ま、まさか……。
「ロイアじゃない。こんなところでどうしたの?」
「いいえ、私はそのような人物ではございません」
その丁寧過ぎる言葉遣いでロイアだとすぐにわかる。変装していたのだ。
「……ロイア」
「申し訳ございません、ノエル様。閲覧不可の棚に向かうとお聞きして、私もお手伝いをと思った次第でございます」
軽く睨んだだけなのに、ロイアはすぐに白状してしまった。一瞬悪役令嬢っぽさが出てしまったような気がするけど、気にしないことにした。
「ヴィラニール家のメイドだけじゃなくて、こんな副業もしていたのね」
「いえ、副業ではありません。私はノエル様一筋でございますので」
「そ、そうなの。ありがとう」
どうやら、私の勘違いだったらしい。あれ、ということは……。
「ほ、本当の受付の人はどこにいるの……?」
「騒がしくなると面倒ですので、少々お眠りしていただきました」
「な、なるほど……」
お眠り……ね。ロイアのことだから、丁寧に眠らせてくれたはずだ。さて、さっさと本を見つけましょう。
「では、皆さん。中に入りましょうか」
「「は、はい……」」
ゴクリと唾を飲むメイナと攻略対象ズ。たしか、ノエルは右奥の棚って言っていた。一部、彼らには刺激が強いであろう本たちもあったので、視界に入らないようさりげなく誘導する。右の奥へ進んでいると小さくも頑丈そうな棚があった。そして、ちょうど真ん中のところに一冊の黒い本が収まっている。
「これだわ」
「ずいぶんと黒い本ですわね」
夢でノエルが言っていたように、表紙も裏表紙も真っ黒だ。恐る恐るもめくってみると、邪悪な存在についての記述が書かれていた。
⦅……邪悪な存在はプレイヤーの怨念に満月の力が注がれたことで生まれた。完全に消滅させるには満月の日に倒さねばならない……⦆
⦅ひとたび人間への憑依を剥がされると、満月から力を得ないと消滅してしまう……⦆
ふむ、ノエルの言葉通りの内容だね。彼女が私たちのためにこの本を生み出してくれたことを思うと、胸が締め付けられるとともに、今度こそ仕留めなければ、という気持ちがより強くなる。みんなで注意深く本を読んでいたら、メイナが疑問に感じたようにポツリと呟いた。
「ノエル様、プレイヤー……とはなんでしょう」
「……私たち人間のことよ」
「「人間……」」
きっと、前世でプレイしていた人たちのネガティブな感情が、ゲームの世界にも伝わってしまったのだろう。だったら、なおさら私が頑張らなけらばならない。
「次の満月は今週末ですわ、ノエル様」
「ええ、そうですわね」
次の満月……それは、ゲームの中でも重要な位置を占めるイベントだ。一番好感度の高い攻略対象と、とうとう正式にお付き合いする関係となる。その後は卒業まで愛を育む……となるわけだけど、今回はそうならないだろうね。まさかこんなことでイベントを迎えることになるなんて。今になってようやくわかったけど、どんなゲームも楽しく進めるのは危機がないからなのだ。
ここで邪悪な存在を倒さなければ、ゲーム世界のみんなはずっと怖い思いをするし、本来あるはずの楽しいイベントだって起こらないかもしれない。
――絶対にみんなを守るんだから。
本を持ってアルクサンドル先生の下へ行くと、意外にも協力を求められた。
「ノエル嬢、ルシファーはまた魔力無効化の魔法を使ってくるかもしれん。そこで、貴殿の力をまた借りたいのだが……協力してくれるかの? もちろん、貴殿の安全は最大限確保する」
「ええ、ぜひ私も戦わせてください。むしろ、腕が鳴りますね」
「まったく、頼もしい1年生じゃ」
満月のことは学院中に伝えられ、厳戒態勢で当日を迎えることになった。




