第24話
「ノエル様、この度も大変にお疲れ様でございました。皆様方も。よろしかったら、お茶でもお召し上がりくださいませ」
「ありがとう、ロイア」
今、私たち(メイナ+攻略対象ズ)がいるのは、特別棟にある私の部屋。邪悪な存在、ルシファーの襲撃を受けてから数日間、学院ではまた大きな会議が開かれている。今から1時間後に大礼拝堂で全生徒へ向けての説明があるということで、それまでの時間を潰していた。ロイアの作ってくれたお菓子を摘みながら、メイナたちはこの前の戦いの感想を話している。
「……やっぱり、今回一番ご活躍されたのはノエル嬢でらっしゃいますわね」
「僕もメイナ嬢に異論はないな。魔法が封じられた状態で魔法が使えるなんて、君はどこまで僕の興味を引いてしまうんだい」
「このままじゃお前との差は開くばかりだな。追いつくにはどんな訓練をすればいいか考えなければ……」
「ノエル様、今度僕にも魔法の稽古をつけてください。僕もノエル様のようなカッコいい人になりたいんです」
前世では青春を食いつぶすだけだった忍術だけど、ここに来て一番の武器になっている。修行はたしかにだるかったし、とにかく辛かった。でも、そのおかげでみんなを守ることができているのだ。これはもう感謝しかないね。ありがとう……じーちゃん。
「ノエル様、そろそろお時間が来たようです」
心の中で日本にいるじーちゃんにお礼を告げていたら、ロイアが時計を指した。もうじき予定の時間だ。
「そうね。参りましょう、皆さま」
ということで、私たち(ロイアは部屋でお留守番)は学院の大礼拝堂へとやってきた。アイボリーホワイトの壁と天井に木造の落ち着いた長椅子。そして、全校生徒がまるまる収まるくらいの広さ。オシャレで立派な建物だけど、ゲームではあまり馴染みがない場所だ。
なぜか一番前の席に通されたので、私たちはそこに座る。少し待つと、アルクサンドル先生が出てきた。徐々にざわめきが小さくなる。
「さて、皆の者よ。知っておる者たちも多いじゃろうが、我らがアリストール魔法学院は邪悪な存在の襲撃を受けた」
アルクサンドル先生の言葉に、大礼拝堂はどよめきに包まれる。先生たちがいくら静かにしなさい! と言っても、誰も言うことを聞かないようだった。生徒たちは基本的には怖がっているけど、中には俺たちだけで倒しに行こうなどと抜かしているヤツまでいる。実際に対峙していない人は何とでも言えるのだ。
アルクサンドル先生が両手を前に出すと、礼拝堂はトーンダウンする。
「そして、捜査の過程で、トシリアス先生が邪悪な存在に操られてしまったことも判明した。先日起きた毒物混入事件も、邪悪な存在がトシリアス先生を操って起こした事件じゃ」
「生徒の皆さんには、本当にご迷惑とご心配をおかけしてしまいました。謝って済むわけではありませんが、謝らせてください。申し訳ありませんでした」
アルクサンドル先生の隣に立ったトシリアス先生が深く頭を下げる。静かに上げた顔には、涙が一滴伝っていた。
「操られていたとはいえ、学院の生徒を傷つけようなど教師失格です……」
小さく肩を震わせるトシリアス先生を見て、やがて誰も喋らなくなっていった。その悲しい様子を見ていると、『アリストール魔法学院は恋の庭』におけるトシリアス先生のプロフィール欄が思い出される。先生は孤児として生まれ、ずっと色んな人から虐げられるように生きてきた。
そんなある日、現アルクサンドル先生に魔法の才を認められて拾われたのがトシリアス先生だ。それ以来、恩に報いようと頑張ってきた……という裏設定がある。
「トシリアス先生は悪くありません!」
前世の記憶を思い出していたら、礼拝堂に女性のややキツめな声が響いた。え、誰だろう、トシリアス先生を庇うのは。すごい優しい人だな。案外、トシリアス先生は生徒に慕われてるんだね。なんだかんだ生徒想いなのは確かだし。
と思いきや、やたらと視線を感じるのはなぜ。といか、なんで、みんな私を見ているの?
「ノエル様、なんて素晴らしいお方なのですか……!」
「……え」
いきなり、メイナが私の手を掴んだ。なになになに?
「先生を尊敬するその気持ち、私も見習わなければなりません……!」
「あ、え……?」
知らないうちに、大きな声で伝えていたらしい(私が)。自分の声を自分でキツめの声と認識しているなんて……。地味なショックを受けていると、トシリアス先生は悪くない! という声で礼拝堂がいっぱいになる。
「どうやら、生徒たちはトシリアス先生に辞めてほしくないようじゃの」
「私は……この学院の教師で良かったです……」
檀上でアルクサンドル先生はトシリアス先生の肩を優しく抱く。礼拝堂はさらに大きな拍手で包まれた。
「さて、今回邪悪な存在を退けたのは、なんと1年生なのじゃ」
「「え……!?」」
明るい歓声であふれていた礼拝堂は、一転して驚きの声に包まれる。
「ここにいるノエル・ヴィラニールが邪悪な存在の正体を暴き、操られたトシリアス先生をメイナ・キャラバンとともに救った。これはまさしく学院の救世主と言えよう」
アルクサンドル先生が両手を広げながら言うと、大礼拝堂は歓声で包まれた。先生たちに促され私たちも檀上に立つと、あちらこちらから私やみんなの名前が飛んでくる。
「さすがは三大公爵家の跡取り娘だ。きっと、あの気迫で邪悪な存在も追い払ったのだろう」
「聖属性の特待生と一緒ならば、それこそ怖い物なしじゃないか」
「邪悪な存在でさえ縮み上がるようなご尊顔だな。迫力がある……」
微妙な称賛の声も混じっていた気がするけど、聞かなかったことにしよう。
「そして、肝心の学院生活じゃが先生方と協議した結果、普段通りの生活を送ることとなった。アリストール魔法学院は、将来国を導く人材を育成する最高峰の学び舎じゃ。邪悪な存在などには決して屈しない!」
アルクサンドル先生が一段と強く宣言をして、その日のお知らせは終わった。
やがて、一週間も経たないうちに、学院には右も左も王国騎士団の衛兵たちが集まるようになった。彼らは魔法を使わなくてもすごく強いので、魔法を封じられても対処できるということだ。すっかり重々しい学校になっちゃった。トシリアス先生もしばらくは休養をとることになった。ここまで来ると、もうゲームのシナリオからは程遠いね。良かったのか悪かったのか、よくわからないけど。処刑フラグが遠のいて安心すると同時に、邪悪な存在という別の危機に瀕している。
そうは言っても、いつフラグが立つかわからないのだ。気を引き締めていかないと……死ぬぞ。
夜を迎え、寮の自室で思案していると自然に言葉が出た。
「用心に越したことはないわね」
「どうしましたか、ノエル様」
「あ、いえ、なんでもないわ。それじゃあ、私はもう寝るわね」
目を閉じたらすぐに眠りに落ちたことがわかった。思ったより疲れていたのだろう。ここのところ忙しかったから。
「……あれ?」
しかし、寝たと思ったのに、やけに私の意識はハッキリしていた。おかしいな。というより、なんか変な感じがする。全身が柔らかいクリームに包まれているような……。
あっ! こ、この感触って、もしかして……。
そう確信したとき、後ろからあの凛とした声が聞こえてきた。
〔お久しぶり、龍渡ノエルさん〕




