第11話 生きている音
学校を終え、帰宅した優美は真っ先にベッドに横たわった。
闇との戦いを経て、色々ありすぎて疲弊していたこともあるが、何より自己嫌悪に陥っていた。
ルキの裏切り。
あの時言われた言葉がずっと心に突き刺さる。
(君みたいに真っ直ぐで考えの甘い子が大嫌いなんだ。なんでも出来るとか、信じてれば叶うとか。そういう綺麗事だけじゃ、上手くいかないんだよ)
両親を亡くしてから、哀しみに暮れていた日々。
でも、自分なりに前を向いて生きてきた。
綺麗事かもしれないけれど、それでも前を向いていれば、信じていればなんでも出来る気がしたから。
(――あの時死ねば良かったのに)
まだ幼い頃に両親を亡くした優美は、祖父母も早くに亡くなっており、周りに引き取り手がいなかった。
親戚はいたものの、小さい子ども1人引き取ることは大変なことで、大人達はヒソヒソと話す。
『可哀想に』
『一人だけ残るなんて、せめて一緒に逝けたほうが幸せだったのにね』
幼いながらにわかっていた。
周りの大人達は、自分が邪魔なことを。
好きで亡くした訳じゃない、好きで生き残った訳じゃない。
優美自身も、できることならば大好きな両親と共に死んでしまいたかったと思うことも少なくなかった。
そんな過去の記憶がルキの言葉で度々思い出される。
「私って、何のためにいるのでしょうね」
さらに、シャインクロスの持ち主だとか、ライトシャインの継承者だとか。
そんなことを言われても、かつての天界の長、ライトシャインの様の様に強いわけでもなく、優美は無力な自分を責めていた。
「どうしてこんなことになったのでしょう。お母さん、お父さん。どうして私にこのクロスをくれたの?」
写真立てに問いかける。
「こうなることを知っていて渡したの? わからないよ」
深いため息をつきながら、優美は渋々起き上がり私服へと着替える。
生活必需品も足りないこともあり、気分転換に買い物へ出かける事にした。
お店に着くと、そこには見慣れた人の姿がある。
「あれ、天空」
「坂上くん!」
驚きつつ、他愛もない会話をしながら一緒に買い物を済ませた後、2人は途中まで一緒に帰ることにした。
「アクアプレス!」
「リーフドロー!」
すると、二人の前に突然攻撃が襲いかかる。
ギリギリで温人と優美は避けた。
目の前にはエリアスとナテューアが立ちはだかっていたのだ。
「ちっ!」
「お2人さん、こんばんはーっ!」
「大人しくクロスを渡してもらおうか!」
「渡すわけないだろ!」
「闇の思うようにはさせません!」
すぐさま変身し、戦闘態勢になった2人は容赦なくエリアスとナテューアに攻撃をしかけるが、うまく交わされてしまう。
シャインクロスの持ち主である優美は集中攻撃されてしまい、なんとか避け切るので精一杯だった。
「プレシャスライトニング!」
温人が強い攻撃をしかけると、バチバチと黒い光がエリアスとナテューアを襲い、2人は体勢を崩した。
「きゃあ! 危ない!」
「くっ、なかなかやるな!」
「今だ、天空!」
「あ、はい! シャイニングスター!」
眩い光の雨が、エリアスとナテューアめがけて勢いよくは降り注ぐ。
「ちっ、一筋縄ではいかないか。また出直して次こそシャインクロスを奪ってやる!」
「えーん、あちこち痛いよお。今日はもう帰るもん!」
2人は耐えきれずに逃げ出した。
「やったな、天空!」
温人が駆け寄ると優美は浮かない顔をしている。
「天空?」
温人が優美の手に触れようとすると、パシっと手を払い除けられた。
「あ…。ごめんなさい、私」
「天空、どうした?」
今回も助けられてしまった。
優美は1人の力で戦えない情けなさでいっぱいになっていたのだ。
「私のいる意味ってなんでしょう」
いつも、自分の無力さにうんざりする。
自殺してしまおうと思った事もあった。
両親も、親戚も、周りに悲しむ人もいない。
それに、死んでしまえば両親の元へ行けるかもしれないと考えた事もあった。
人に迷惑をかけるくらいなら自分なんていない方が良い。
「いる意味、か。そんなもの、要らないんじゃないか?」
「でも、私は役たたずです」
「そんなことない」
「どうして? 私はいつも坂上くんに助けられています。私は無力だから、いない方が良いんです」
「俺は天空にいて欲しいと思う。いる意味とか関係なく、ただそこに居てくれれば良いけどな」
温人は、もう一度優美の手を取り、そしてその手を自分の左胸に持っていった。
優美はハッとする。
(心臓の音が感じられない)
「天空は無力なんかじゃないさ。みんなに生きる勇気を与えてくれるし、一緒にいると明るくなれる。希望が見えてくるんだ。だから、いない方が良いなんて言わないでくれよ」
優美は、温人が自殺した者だということをまざまざと思い知らされる。
いない方が良いなんて軽率に言ってしまった自分を恥じた。
「まったく、天空は自分のことになると不器用なんだな。1人でなんでも抱えるなよ、わかったか?」
「温人くん」
温かい人だから、温人。
この人は本当に優しく温かい。
優美は思わず名前を呼んでしまっていた。
「あ、ごめんなさい、私…!」
「温人でいいよ。その…、嬉しいし」
「は、はい」
なんだかお互いに恥ずかしくなりつつも、優美の心は温人によって溶かされ、またひとつ強く、前進するのであった。




