第10話 戻れない想い
「ルキ、どうして」
綾乃は、2人で優美のお見舞いに行った時にルキがかけてくれた言葉がずっと心に残っていて、忘れられなかった。
(僕は綾乃の持つ弱さや強さはとても尊いものだと思ってるよ)
あの時のルキの表情も言葉も優しいもので、嘘だとは思えなかったのだ。
「綾乃、元気かなーと思って遊びにきちゃった♪」
いつもと同じような、おちゃらけた態度のルキに綾乃は困惑している。
「私たち、敵なの?」
震える声で俯きながらやっと出た言葉だった。
ルキの裏切りをまだ受け止めきれていない綾乃は、訳も分からない気持ちに占拠され心が痛くて泣き叫びそうになる程だった。
綾乃の質問に対しての答えが返ってこず、恐る恐る顔を上げルキのほうを見ると、なんともいえない切なそうな表情のルキがそこにいる。
「敵、だろうねえ」
今度はルキが綾乃から顔を背け答える。
「僕は闇を裏切れない」
「へえ、そっか」
ルキはいつもおちゃらけていてどこか掴めない存在だ。
けれど、綾乃にとっては支えられた存在。
ルキの言葉で前に進めたのだから。
なのに、敵だという答えが返ってきた以上、もうルキへ好意を寄せることはできない。
ルキの言葉に傷付いてはいけない、と必死に拳を握った。
「だったら、私もだな。光を裏切る訳にはいかないよ」
優美達の顔が浮かび、綾乃は必死にルキへの想いに蓋をして心を切り替えた。
「どうし、わざわざここに来た? 会いにきただけなんて、嘘なんだろ? 何が狙いなんだよ」
「綾乃が好きだからねえ」
その答えにまた心が振り回される。
「ふざけないで!」
急に雨が降り出す。
綾乃は咄嗟にその場を逃げ出した。
思い切り走り続ける。
裏切っておいて好きだなんて、意味がわからない。
綾乃の頬には雨と共に涙が伝っていた。
一方その頃。
春夏、真は亜衣と合流していた。
今回の敵である綺羅に関する事と、優美のシャインクロスについて亜衣に報告した。
亜衣もまた、敵に襲われたことを報告する。
「闇側はシャインクロスを狙ってるはずなのに、なりふりかまわずクロスを奪おうとしてきているのが気がかりですわ」
「シャインクロスにこだわらず、他のクロスも奪って力を増幅させる考えなんだろうか? まだわからないが」
色々な可能性を探る春夏と真。
すると、しばらく黙っていた亜衣が口を開いた。
「いや、もしかしたらシャインクロスの持ち主が他にもいるのかもしれない」
「根拠は?」
「まず一つ目は、ライトシャインの象徴であるシャインソードが出てこなかった時点で不完全すぎることが分かる。二つ目は、坂上と火野は自殺した者であり、生きるチャンスと引き換えにクロスを授かり能力者となったわけだよな?」
「ライトシャイン様の継承者である天空優美と水村、雷鳴はそれに当てはまらない…となると」
「そう。そもそも坂上と火野は、脳力者を探す段階から『クロスはばら撒かれてしまい、自覚の無い者も能力者になっている可能性があるから』ということで能力者を探していたはずだ」
「クロスがばら撒かれた時点で、シャインクロス自体も歪みのせいでバラバラになった可能性があるってことですわね」
守護神として、水面下で闇から世界を守り続けていた春夏、真とはまた違い、単独行動が得意で戦略的に闇の動向を1人伺っていた亜衣はやはり情報や視点が違い、段々と問題が明らかになっていく。
「今の所、お互い天空がシャインクロスということしか分かっていない。情報も少ない。だからなりふりかまわずクロスを奪おうとしているんだろうな。それがハズレのクロスでも、使い方次第では力を増幅させるものだし、奪って損はない」
「私たちは、闇より先にシャインクロスの持ち主を見つけないといけませんわね」
「敵も増えたことだし、一層注意しよう。また何かあったら教えてくれ」
「ああ。私は新しい敵2人について動向を探ることにする。春夏と真は天空優美のシャインクロスを守ることに徹してくれ」
3人は頷き、その場を後にした。
――雨が降り続く中、暫く走り続けた綾乃は一度立ち止まった。
息を整えながら気持ちを落ち着かせる。
(大丈夫、私は弱くない)
ひたすら自分に言い聞かせる。
その度泣きそうになるが、グッと堪えて帰路へ戻ろうとしたその時、後ろから傘を差し出された。
「え?」
「大丈夫? ずぶ濡れだよ」
目の前には、黒の学ランに金髪の男子生徒が綾乃に傘を差し出していた。
「だ、大丈夫。気にしないで」
「それは無理だな、気になるもん」
「う…」
「風邪引いちゃうよ? 俺、家この辺だからその傘使ってよ。じゃ!」
「あ、ちょっと!」
声をかけるが、その男子生徒はさっさといなくなってしまった。
「もう、変な人」
ずぶ濡れだった綾乃は大人しく傘を借りる。
いきなりの事で驚いたのもあり、自然と涙も止まっていた。
「綾乃…、ごめん」
その様子を木の上からこっそり見ていたルキは、悲しげな表情でそっと呟き、闇へと帰っていった。




