第5話 堕天
温人が人間界へ旅立ってから、留衣は天界でつまらない日々を過ごしていた。
「温人は元気かしら」
ため息をついていると背後からクスクスと笑い声が聞こえる。
「誰?」
「初めまして、ルイ」
「どうして私の名前を? あなたは?」
「私は夜深。お前があまりに寂しそうだったからほっとけなくてね。私は負の感情に引き寄せられてしまうんだよ。」
「私、そんな寂しい顔してたかしら」
「それは私にしか分からないだろうな。ルイ、人間界の様子を見てみたいとは思わないか? 気になるのだろう? 彼の様子を」
「そりゃ、気になるけど…。 なんで知っているの?」
「私はなんでも知っている。霊や死者が教えてくれるからな。ほら、これをご覧」
夜深が大きな玉を出す。そこを覗くと人間界の様子が見えた。
「あ、温人!」
久しぶりに見る彼の表情は、天界にいたときよりも穏やかで柔らかな表情をしていた。
違和感を感じるルイ。温人の隣にいたのは優美の姿だった。
「誰、この人」
「所詮人間は裏切るもの。どんなに1人じゃないと言っても結局こいつはお前を置いていったのだろう?」
「違う、そんなんじゃない!」
「もうお前のことなど忘れているさ」
「そんなこと…」
「人は必ず裏切るもの、世界は綺麗事ばかり並べているだけ。誰にだって心に闇はあるもの。それを否定して殲滅させる天界の考えは狂っている。そうは思わないか?」
夜深の言葉がルイの心に突き刺さる。
――そうだ、いつだってそうだった。
人は誰だって自分のことしか考えていない。
私をイジメてきた奴らだってそう。
私が死んだって、ヘラヘラと明るい今を生きている。
そんな世界が嫌で自殺した。
嫌い、嫌い、大嫌い。人間なんて、信用ならない。
温人もみんな、全員…。嫌いよ!!
ルイの中の憎悪が膨らむ。
「そうだ、そうやってお前の心に素直に従うと良い。私と共に行かないか?悪くはしないさ」
そうして、ルイは夜深と行動を共にし、天界から逃げ堕天使となった。
「生きるチャンス? くだらない。人間なんてみんな大嫌いよ。温人も、天空優美も、光は全て消してやる」
「何言ってるんだよ、留衣! お前、闇に利用されてるんだぞ?」
「あんたこそ、光に利用されてるのよ。闇が全て悪いなんて誰が決めたの? 思い知れば良いわ!」
ルイが攻撃をしかけてくる。
上手くかわしながら変身し、反撃しようとしたその時。
「おっとストップ!」
「反撃すればこの子の命はないわよ?」
温人の前には優美を人質にしたフレアとリップが立ちはだかった。
「くっ、卑怯な真似を! おい、天空! 目を覚ませ!」
「ふふ、無駄よ」
(――なんだろう、遠くで坂上くんの声が聞こえる。
私、どうしたんだろう?なんだか夢の中にいるみたいです。)
優美の意識はまるで夢の中にいるかのようだった。
(私には未だに疑問があった。どうして能力者になったのか。両親からもらったクロスひとつで運命が決まったように思えて)
(お父さん、お母さん。どうしてこのクロスをくれたの? こうなることを知っていたの? 私はこの先どうしたらいい?)
(私、みんなのことまだ何も知らない。坂上くんと空奈さんの自殺の理由も、仁美と綾乃の気持ちも、リリさんとレオンさんのことも、ルキさんのことも。生きることは怖くて…。1人じゃないと言われたあの日から、1人が怖いです)
1人で平気な人間なんていない。
そうだね、坂上くんの言った通りだね。
「天空を離せよ」
「無理なお願いね」
留衣の気持ちも分からなくもない。
1度生きることをやめ、挫折を味わったのは温人も同じだ。
けれど、温人はまっすぐに前を見つめている。
「坂上くん、私は大丈夫です、から…」
うっすら目を覚ました優美はこんな現状ですら微笑んだ。
(どうしてだろう。天空が1番辛いはずなのに、さも辛くもないように笑うんだ)
優しさの中にある芯の強さ。
諦めない気持ちや運命を覆すくらいの強い光を持つ優美といることで、温人はいつしか前を向けるようになっていたのだ。
「悪いな、留衣。俺は進む」
そう呟いた瞬間、温人の周りには空奈、綾乃、リリ、レオンが現れ、温人は隙をついて優美を敵から取り返した。
「何っ!?」
「残念でした〜!! やられたフリをしていたんだよ。その間にみんなを呼んでたってわけ」
綾乃がいたずらっ子のように、にんまりと笑った。
「光チームを舐めて貰っちゃ、困るのよ!」
空奈も負けじと、敵にあっかんべーと強気な態度である。
「何となく悪い予感がしたので調べてみたらやっぱりね。海外で修行した力を見せてあげるわ」
「闇の思うようにはさせないさ」
リリ、レオンは背中合わせで余裕の表情を見せながら戦闘態勢を保持していた。
綾乃は仁美が行方不明になってから、危険信号も送れなくなったクロスの一件もあり、皆に事前に知らせていたのだ。
温人はジワジワとルイに詰め寄る。
「俺はもう、あの時の弱い俺じゃない。1人じゃない、仲間がいるんだ」
形勢逆転のこの状況で、ルイはそれでも余裕そうにニヤリと笑った。
「仲間、ねぇ。笑わせるわ」
ルイが指を鳴らすと、温人達の前にルキが現れた。
「どういうことだ?」
「え…?」
温人に支えられていた優美が目を覚ますとそこにはいつものルキとは違ったルキが立っている。
ルキの付けていた赤い玉のネックレスは輝き、ルキの額に埋め込まれた。
ルイの額にも赤い玉が埋め込まれている。
そう、それは堕天の印だった。




