第2話 温かさ
入れ替わってしまった優美と温人。
しばらく状況を飲み込めずにいたが、今日はもう時間も遅い。
尚且つ解決策も分からない。
やむを得ず二人はそれぞれ帰宅することにした。
「自分の家に帰りたいところだが、明日も学校だしな」
「ですね…、朝の支度や準備するのには帰らないと」
「仕方ない、明日みんなに話そう。ルキならなんとかしてくれるかもしれないし」
2人は渋々と双方の家に向かった。
「はあ、参ったな」
温人が帰宅するなり悩んだのは、お風呂と着替え問題だ。
そんな下心などは無いが、目をつぶって出来るものではない。
かと言って堂々とする事でもない、と頭を悩ませる。
一方の優美も悩みながら温人宅で過ごすのであった。
「うぅ、困りました」
いくらなんでも恥ずかしい。
でもお風呂と着替えはしなければならない。
優美は不器用ながらも終始目を閉じ生活を遂行するのであった。
一方その頃、闇の空間では。
「夜深様、お呼びですか?」
「ああ、ルイ。あの4人はうまくやってるか?」
夜深と呼ばれるその女性は、大きな鎌を持っている。
長髪で、その目からは生気を感じない。
「ええ、早速エリアスが人間界に降りたみたいです。なにより、4人とも好奇心旺盛です」
ブラック姉妹とデッドがいなくなった後、エリアス、フレア、リップ、ナテューアという4人の配下を夜深が造り出し、ルイにプレゼントしてくれたのだった。
この4人は対光メンバー用に造られた。
エリアスはその中の一人、水の力を持っている。
「私からのプレゼントだ、上手く使うといい。ただし使えないものや必要無いものは消していく。なにかあれば報告するように」
「はい、夜深様」
「闇は、無限の広がり。光など足元にも及ばぬ。じわじわと支配していこう」
――次の日。
優美と温人はルキ含め皆に昨日の事を話した。
「ええ!? 入れ替わったの!? じゃあ温人が優美で優美が温人?」
混乱しながら仁美は2人を交互に見る。
「あははは! っていうか普通、敵の質問に答えるか!? あはは!」
ルキは相変わらずの様子で陽気に笑っていた。
「答えようが答えまいがこうなってただろ。相手は敵なんだ、笑ってる場合か!」
「はい、スンマセン」
綾乃がすかさずルキを叩き、ルキは一瞬で静かになった。
「でも不思議ね、温人と優美のクロスだけ光ったんでしょ? 私や仁美、綾乃のクロスはなんともなかったのよ?」
「そうだな、しかも相手は新しい敵だ。聞いていたら本当に挨拶がわりというか、おちゃらけてるようにしか感じないし」
空奈と綾乃は冷静に推測する。
「まあ、解決方法も分からない。もう1日様子を見てみたらどうだい? まだ24時間経ってないわけだし」
「うんうん、それがいいよ! なんとかなるなる! 大丈夫だよ〜!」
仁美はどんまい、と温人の姿の優美をポンポンと撫でた。
それに続き空奈も綾乃も優美達を励ます。
「なにかあったらすぐ言うのよ! 私たちがついてるからね!」
「そうだ! 1人で悩んじゃダメだぞ!」
「うう、みなさんありがとうございます」
「俺の姿で泣くな!」
幸先は不安だが、ルキの提案で24時間は様子を見ることになった。
とは言え、学校生活も色々と難しい。
優美の口癖が敬語なため、クラスメイトからは
「温人大丈夫か? 頭打った?」
と心配される始末である。
一方温人はなるべく話さないようにしていた為、優美よりはうまく過ごせていた。
だが、あまりに喋らないため周りからは具合が悪いのかと心配されていた。
(くっ、過ごしずらいったらありゃしねえ。早く帰りてえ)
(どどどどうしましょう、全然坂上くんのように上手く振る舞えません!)
2人は1日が早く終わることを祈った。
やっと学校を終え、優美が温人宅へと帰宅すると疲れきってベッドに突っ伏してしまった。
一息ついたのもつかの間、そんな中スマホの着信音が鳴る。
見ると表示は「姉」だった。
ここは怪しまれてはいけないと思い、電話に出ないことを決める優美だったが慌てて通話ボタンを押してしまった。
「もしもし温人!? あんた元気なの? たまには顔でも見せないよね、バイト先でもらったお菓子あるから近々取りに来なさいよ!」
「あ、えっと」
当たり障りなく通話していると優美は突然、家族の温かさを感じた。
「ちょっと大丈夫? 変な温人! 温人じゃないみたい! じゃ、また連絡するわ!!」
その場をなんとかやりきった優美は電話を切った。
だが、なんだか寂しい気持ちになる。
家族と話すことはこんなにも温かいんだと。
けれど、今話したのは自分の家族じゃない。
温人の家族だ。
当たり障りなく電話をしているうちに自分の家族のような気分になり、「温人じゃないみたい」と言われた時、急に現実に戻された。
その時、家のチャイムが鳴る。
恐る恐る確認するとそこには優美の姿をした温人が立っていた。
「坂上くん、どうしたんですか?」
「いや、なんか心配になって来ちまった。なんともないか? 敵とか」
「だ、大丈夫で…」
泣くつもりのなかった優美から涙がこぼれる。
「天空!? どうした、どこか痛むか?」
焦る温人を横に優美は首を横に振る。
「違うんです、なんともないんです。ただ、ごめんなさい。坂上くんのお姉さんから電話がきて、話していたら家族って良いなって。寂しくなっちゃって、心細くなっちゃったのです。私は1人で大丈夫って思って生きてきたのに、こんな…、寂しいなんて」
「天空」
温人は優美を引き寄せポンポンと背中を撫でた。
「あのな、1人で平気なんて人間はいないんだよ。あんまり1人で溜め込んで無理するな」
温人は言葉を続ける。
「それにな、俺は自殺した者。能力者になって、家族からは自殺の記憶を消してもらってるんだ。家族を騙しながら、それでも今俺は生きてる。実際は俺だって1人だ」
「坂上くん…」
「でも、今は天空や他の仲間がいる。だから頑張れる。お前も1人じゃないんだ。だから寂しくなったら泣けばいいし、甘えればいいし頼ればいい。もう、1人で大丈夫だなんて言わせないから」
「あ、ありがとう、坂上くん」
涙を流しつつも安心した笑顔の優美を見ると、温人はぎゅう、と強く彼女を抱き締めた。
その次の瞬間、2人の体は光り出す。
「何だ!?」
「何ですか!?」
突然の眩しい光にぎゅっと目をつむる。
しばらくしゆっくり目を開けると、2人の体は元に戻っていた。
「あれ?」
「元に戻ってる! やったな!」
2人はあまりの嬉しさに抱き合って喜び合ったが、冷静になると恥ずかしくなりパッと離れた。
しばしの沈黙の後、照れくさそうに、もう夜遅いからと温人は優美を自宅まで送ってくれたのだった。
無事に帰宅した優美は、温人の言葉や抱き寄せてくれたことを思い出しその光景が頭を巡らせる。
(どうして、こんなにドキドキするのでしょう?)
元には戻り安心したものの、優美はその夜なぜかドキドキが止まらず眠れなかった。




