第13話 強がり
綾乃が朝登校すると、優美の下駄箱をのぞくルキの姿があった。
「あっれえ~? 優美ちゃんおやすみー?」
「ああ、病み上がりだからな」
周りの目を気にせず、おかまいなしにルキと話していると今度は温人が登校してきた。
「おい、雷鳴。人目のつくところでルキと話すな。周りの奴らに見えないんだから怪しまれるだろ…」
「あ、やべ。ついつい」
ルキは天界の者であり、一般人には姿・形が見えない。
姿を認識できるのは温人たちのような能力者のみである。
まったく関係のない一般人からの視点では綾乃は誰もいない場所に話しかけているも同然であった。
「僕は優美ちゃんが心配なので彼女のお家に行ってきます!!!」
「はあ!? お前なんかに任せられるか! 私も行く!」
やれやれ、と温人が肩をすくめていると後ろから来た空奈がバシっと温人の背中を叩いた。
「おっはよー! なーによ温人、そんなに優美が心配ならアンタも行ってくれば?」
「授業をサボるわけにはいかないだろ」
「真面目なんだからーっ。綾乃はどうするの?」
「仮病を使って授業抜け出して早退するに決まってんだろ」
「さすが綾乃! ルキにはまかせられないもんね、行ってらっしゃーい!」
こうして綾乃は無事、仮病を使って早退に成功した。
「ぜんぜん怪しまれることなく早退できるもんなんだねえ~」
「どうにでもなるもんさ」
「ふーん」
ニヤニヤしながらルキは綾乃を見つめる。
「なんだよ!!」
「んー? 日頃の行いが良いからできることだろ? よく伝わってくるなと思ってさっ☆」
「なっ、何言って…! いいからさっさと行くぞ!」
「はあーい♪」
おちゃらけたルキの相手をしているうちに二人は優美宅へ到着した。
チャイムを鳴らすとパジャマ姿の優美が顔を出した。
「どちらさまで……、わあ!」
「ヘイ優美ちゃーん! お見舞いでーす!」
「わ! 綾乃、ルキさん! わざわざお見舞いなんてすみません…、でも嬉しいです!」
「みんな心配してたよ」
「そんな、恐れ多いです。綾乃も保健室にいたから移してないか、とても心配…。大丈夫でしたか?」
「……優美はなんで、そんなに他人のことを心配するんだ?」
「え?」
どうして優美はこんなにも優しいのだろう。
私一人いなくたって大したことなんかないのに。
(綾乃、またこんな点数とってきて。お兄ちゃんはね、いつも成績が良かったのよ?)
いつも兄と比べられる毎日。
自分は自分なりに頑張っても認められなくて。
そうして周りと比較して、落ち込んで、情けなくて悔しくて。
だけれど、弱い自分に負けたくない。
綾乃は弱さを必死に隠そうと、いつからか強がって素直になれなくなっていた。
「私がいなくたって、優美がいれば事は運ぶだろ? 周りは自然と優美の優しさや才能を認めていく。他人のことをそこまで心配できる優美はすごいよ」
私もそうなりたかった。
そんなふうに優しく生きられたら。
いつだって誰かと自分を比較してこんなにも周りが羨ましくなる。
「綾乃は、すごいです」
「す、すごい?」
予想外の言葉に綾乃は目を丸くした。
「はい、そんなふうに自分の気持ちを素直に言えるって、素敵です」
そうやって、不思議と優美はみんなの心の闇を解き放ってくれる。
「きっと、自分自身だと気付かないのです。優しいところも素敵なところもあるのに、他の人の良いところばかり見えてしまうものです。綾乃は優しいです。いつも見守ってくれている気がします」
「綾乃は良い子だからねーっ♪」
「うっさい! バカにしてんのかお前は!」
おちゃらけてたルキが急に柔らかな表情になり、言葉を続け出した。
「弱さがあるから強さもあるんだよ。僕は綾乃の強さも弱さも、とても尊いものだと思ってるよ」
「な、なに急に真面目なこと言ってるんだよ」
「綾乃の素直さや正確さは、必ず人を導きます。私はそう思っていますよ」
優しい微笑みで綾乃を見つめる優美。
空奈も、仁美も、そうやって優美に救われてきたんだろうな。
「そっか…、ありがとう。優美、早く良くなれよ! 学校で待ってるから。さっさと闇の連中も倒さないとだしな! ほら、ルキいくぞ!」
「えー、もう行くのー?」
「病人なんだからあんまり騒ぐと迷惑だろうが。優美、ほんと、ありがとな」
素直になれない愚かな自分。
人はどうしても他人を羨ましいと思ってしまう。
けれど、自分だから、自分の良さに気付かないだけ。
そう受け入れてくれた優美の言葉に、綾乃もまた救われた1人となった。
(やっと、自分と向き合えた気がする)
そしてあの時のルキの言葉と表情があまりにも優しく穏やかで綾乃はその日はルキの顔が忘れられなかった。
夕方ー
(今日は綾乃とルキさんがお見舞いに来てくれてすごく嬉しかったです)
つい笑顔が零れると、チャイムが鳴った。
「はーい…、って、坂上くん!?」
「よ。具合は?」
「あ、もう大丈夫です! 明日からは登校できそうです!」
「そっか。これ、プリント届けにきた。嫌じゃなければ上がってもいいか? 飲み物とか持ってきたから、重いし運ばせてほしい」
「あ、どうぞどうぞ。わざわざすみません」
「慌ただしいのが2人来ただろ? 大丈夫だったか?」
「はい、嬉しかったです! 差し入れもわざわざ持ってきてくれて、皆さんには感謝です」
「その寝癖を見てたらゆっくり休めたみたいだって分かる」
温人は意地悪そうに笑う。
「えっ!? そうでした! 寝起きなので! み、見ないでください!」
恥ずかしくなった優美は毛布に隠れた。
「バーカ。それくらいで…」
バサっと勢いよく毛布を剥ぎ取ると、温人は自身の額を優美の額に合わせた。
「うん。熱は下がったみたいだな」
「さ、坂上く…」
「ゆっくり休んで、明日から無理せずな。そしたら、また」
温人を見送ったあと、優美はしばらくドキドキが止まらなかった。
(あんな近い距離…、反則です)
熱は下がったはずなのに、しばらく顔の火照りが収まらなかった。
一方、闇の空間では。
「ブラック姉妹…、失敗ばかりで無能なものだな」
「お悩みですか? デッド様」
「お前は…?」
「申し遅れました。私は堕天使、ルイ・キド。闇の勢力を強くするため遣わされた者」
「ふむ…、闇の上層部から来たのか」
「その通り。無能な者は闇に不必要。無能な者は消すべき。光は進化し続けているわ。闇の力を強くしなければ光には勝てない」
「なるほど。それで?」
「まずは、1匹目。ヒート・ブラックから消していきましょう」
ルイと名乗る堕天使は不気味な笑みを浮かべた。




