第11話 優しい人
「由文…」
「大丈夫? 急に倒れたから保健室まで運んだんだ」
「ほっといてって言ってるのに…」
「ほっとけないから仕方ないでしょ」
一気に記憶が甦えったことで、どうやら脳の処理が追いつかず倒れたようだ。
…まだ頭が重たい。
(そうだった。中学の頃からずっと由文は私をほっとかない奴だった)
母親を亡くしてから、由文と付き合うようになり心も救われ楽しい毎日だった。
なのに、空奈といることで由文が周りから悪く言われるのが空奈には耐え難かったのだ。
(あんな不良と付き合って、やばいよね)
(直井くんが騙されてるのよ)
由文は気にしないと笑っていたけれど、空奈への嫌がらせも次第にエスカレートしていく一方。
由文は空奈を庇い、嫌がらせから守ってくれていた。
由文は空奈がいればそれで良いと、いつも隣に居て笑ってくれていた。
しかし嫌がらせは空奈に留まらず由文までをも巻き込んでしまったのだ。
ある日、移動教室のため階段を昇っていた由文はクラスメイトから突き落とされ右足を骨折する大怪我をしてしまう。
由文は入院することになった。
空奈は献身的にほぼ毎日お見舞いに来ていた。
「私のせいで、由文が怪我するなんて……」
泣きじゃくる空奈の頭を撫でながら由文は優しく微笑む。
「大丈夫! 安静にしていたらすぐに治るさ。それに、空奈が無事で良かった」
彼の優しさも愛も、まっすぐ温かいもの。
由文に沢山支えられているのに、自分は何も出来ない。
むしろ一緒に居る事で傷付けてしまう。
――強くならなければ。
由文が入院中も、空奈は一生懸命学校へ通った。
いじめに負けじと耐えながら。
「お前さ、いつまで学校に来るつもり?」
「本当に目障り。ちょっと可愛いくてスタイルが良いからって調子にのんなよ!」
「くっ……! はなして!」
ある日クラスメイトから罵声を浴びせられ髪の毛を掴まれる。
そのまま引きずられた先は屋上だった。
「お前、疫病神じゃね? 両親もいないわ、彼氏も怪我してさ。みーんな可哀想。生きてる価値なくね? お前が死ねば? ここから飛び下りてさ!」
「ま、出来ないだろうけど!」
まるでゲームでもしているかのように笑う生徒達。
……もう限界だった。
心の傷の積み重ねが空奈を自殺へと追い込む。
「ごめん、ごめん、由文……」
空奈の足は止まらない。
ゆっくりフェンスを越え、無心でその場から飛び下りた。
聞こえるのは生徒たちの叫び。
死ねと言ったくせに。
記憶を全部思い出した空奈は俯うつむきながら呟いた。
「私といても、ロクなことないのよ。もうお願いだからほっといて」
「今度は、守るよ」
「何言って…、え?」
由文の手にはクロスが光り輝いていた。
その真ん中には赤いバツ印の紋章が埋め込まれている。
「あんた、なんでそれ…」
「俺、空奈がいない世界なんて耐えられなくてさ。空奈が自殺したことを知った時、もうこんな世界消えれば良いって思った。でも…、それと同時に空奈を守れなかった自分が悔しかったんだ」
呆然とする空奈に由文は優しい笑顔で言葉を続ける。
「空奈は知らないでしょ。俺、空奈の後を追って自殺したんだよ」
「…え? う、嘘」
「俺の能力は治癒。戦闘はできないんだけどね」
「な、んで……」
「空奈のことが大好きだから。どこまででもついてくって決めた。そして今度こそ守りたいって。ま、地獄の果てまでついていくつもりだからよろしくっ♪」
「ば、バカじゃない…」
ポロポロと涙が溢れる。
「もう1人になんかさせないよ」
由文はもう絶対に離さないとばかりに強く彼女を抱き寄せた。
(私は強くない。だけど強いフリをして生きてきた)
優美に強く当たってしまった原因もわかってる。
由文に対してもそうだ。
だって。
だって、優しい人にはすがってしまいたくなるから。
落ち着いた頃、休み時間を見計らい空奈は優美のクラスへと足を運ぶ。罰が悪そうな顔で教室の前で待っていると後ろから温人が声をかけてきた。
「何してんだよ、こんなところで。入れば?」
「うっ、うるさいわね! いま行くところよ!」
「空奈さん…!」
温人とやりとりしていると優美が2人に気付き、歩み寄ってくる。
「う…」
謝りたくて意を決して来たものの、いざ本人を目の前にすると怖じ気づいてしまい身体がこわばる。
「天空になんか話あって来たんだろ? 大丈夫だって。じゃーなー」
「ちょっと温人! もう!」
優美と空奈の2人の間には気まずい雰囲気が流れている。
しかし、先に口を開いたのは空奈だった。
「優美…、ごめん。仲間じゃないなんて、あの時言ったこと嘘だよ。自分の弱さから逃げてただけなの」
まともに優美の顔を見れずにいると、優美はそっと空奈の手を取った。
その手は驚くほど温かく、優しい。
「少し、遠回りをしただけなのですよ。大丈夫です。だって今、こうやって一緒に居るのですから」
空奈が顔を上げると、そこには優しく微笑む優美の姿があった。
「…ありがとう」
小さな声でそう呟つぶやいた空奈に対し、優美は何も言わず手を繋ぎ、微笑みながら空奈が泣き止むまで隣に寄り添った。




