第5話 ギルド登録
森を抜けた先にあったのは、小さな町だった。
石造りの門と、簡素な柵。
人の出入りもそれなりにあり、活気はあるが大きすぎない――ちょうどいい規模だ。
「ここなら、しばらくは困らなさそうですね」
レインは門をくぐりながら呟いた。
「ええ。この規模なら冒険者ギルドもあるはずです」
隣でリリアが答える。
「まずは登録、ですよね?」
「そうなりますね」
仕事を得るには、それが一番手っ取り早い。
二人は人の流れに沿って町の中へ進み、やがて目的の建物に辿り着いた。
木製の大きな扉。
看板には剣と盾の紋章。
――冒険者ギルド。
「ここですね」
「みたいですね」
レインは特に緊張した様子もなく、扉を押し開けた。
中は賑やかだった。
酒の匂い、笑い声、怒号。
依頼書が並ぶ掲示板の前では、多くの冒険者がたむろしている。
「新人か?」
「見ねぇ顔だな」
ちらりと視線を向けられるが、すぐに興味を失ったように視線が逸れていく。
レインとリリアはそのまま受付へ向かった。
カウンターの向こうには、一人の女性。
落ち着いた雰囲気で、淡々と書類を処理している。
「すみません、登録をお願いしたいんですが」
レインが声をかけると、女性は顔を上げた。
「はい、新規登録ですね」
視線が一瞬だけ二人を観察する。
その目は冷静で、無駄がない。
「身分証はお持ちですか?」
「いえ、特には」
「では簡易登録になります。問題ありません」
手慣れた様子で書類を取り出す。
「名前を」
「レインです」
「……リリアです」
さらさらとペンが走る。
「では、次にステータスの測定を行います」
女性はカウンターの奥から、小さな水晶のような装置を取り出した。
「これに手をかざしてください」
「こうですか?」
レインが何気なく手をかざす。
その瞬間――
ピシッ、と小さな音がした。
「……?」
水晶の内部で、光が乱れる。
通常なら、淡く安定した光が浮かび上がるはずだ。
だが今は違う。
強く、弱く、明滅を繰り返し――
やがて。
バチンッ、と弾けた。
「……は?」
思わず声が漏れる。
水晶は黒く濁り、何も映さなくなっていた。
一瞬、沈黙。
「……故障、ですか?」
レインが首を傾げる。
女性――受付嬢は、ゆっくりと水晶を持ち上げた。
「……おかしいですね」
冷静な声だが、わずかに違和感が混じっている。
軽く振り、再起動を試みる。
だが、反応はない。
「別のものを使います」
引き出しから、もう一つ取り出す。
同じように、レインへ差し出した。
「もう一度お願いします」
「はい」
再び手をかざす。
――次の瞬間。
今度は、光が一気に膨れ上がった。
まるで制御できないかのように暴れ、数秒で限界に達し――
バチンッ!
再び、弾けた。
「……」
周囲がざわつく。
「おい、今の見たか?」
「測定器が……壊れた?」
「いや、そんなことあるか?」
冒険者たちの視線が集まる。
受付嬢は、壊れた水晶を静かに置いた。
そして、レインをまっすぐに見る。
「……通常、この装置が壊れることはありません」
淡々とした口調。
だが、その目は明らかに探るような色を帯びていた。
「そうなんですか?」
「はい。規格外の魔力でも、測定不能と表示されるだけです」
「じゃあ、これは……」
「……」
一瞬、言葉を選ぶように間を置く。
「非常に珍しいケースです」
それ以上は言わなかった。
だが、十分すぎるほど伝わる。
“普通ではない”。
「登録自体は問題ありません」
受付嬢は書類をまとめる。
「暫定的に、最低ランクからのスタートになります」
「分かりました」
レインは特に気にした様子もなく頷いた。
「後日、再測定を行います。その際に正確な評価を――」
そこまで言って、少しだけ言葉を切る。
「……いえ、評価が可能であれば、ですが」
小さく付け加えた。
登録が終わり、ギルドを出る。
外の空気は、どこかさっきよりも軽く感じた。
「とりあえず、これで仕事は受けられますね」
「そうですね」
リリアは頷きながらも、少し考え込んでいた。
(やっぱり、この人は……)
だが、それを口にすることはなかった。
一方、ギルドの中。
受付嬢――エルナは、壊れた水晶を見つめていた。
「……ありえない」
小さく呟く。
これまで何百、何千と測定してきた。
だが、こんな反応は一度もない。
ただ強いだけでは説明がつかない。
「レイン……」
名前を口にする。
その視線は、完全に“仕事”のそれだった。
「少し、調べる必要がありますね」
静かにそう結論づける。




