第20話 保護
「この辺なら大丈夫でしょう」
森を少し抜けた開けた場所で、リリアが足を止めた。
周囲に魔物の気配はない。
「一旦ここで落ち着きましょう」
「は、はい……」
ミアはまだ少しおどおどしながら頷く。
だが、さっきまでの混乱は落ち着いていた。
「……本当に、大丈夫そうね」
カレンが腕を組みながら言う。
「魔力の乱れも収まってる」
「はい。安定しています」
リリアも静かに確認する。
通常なら、ここまで綺麗に整うことはない。
暴走の後は、しばらく不安定になるものだ。
(やっぱり……)
視線が、自然とレインへ向く。
「どうかしました?」
当の本人は、特に何もしていないような顔で立っている。
「……あなたよ」
カレンがため息混じりに言う。
「さっきの、どうやったの」
「さっきの?」
「魔力の制御よ」
「えっと……」
レインは少し考えて、
「流れがバラバラだったので、整えただけです」
と答えた。
「だから、その“整える”って何なのよ……」
頭を押さえるカレン。
理解を諦めかけている。
「あ、あの!」
ミアが勢いよく手を挙げる。
「ちょっと試してもいいですか!?」
「試す?」
レインが首を傾げる。
「はい! もう一回魔法、使ってみたいです!」
さっきまで泣きそうだったとは思えない元気さだ。
「でも、また暴走したら……」
リリアが少し心配そうに言う。
「大丈夫です!」
ミアはぐっと拳を握る。
「今なら、ちゃんとできる気がします!」
根拠は薄い。
だが――
「まあ、いいですよ」
レインがあっさり頷いた。
「危なくなったら止めますし」
「軽いわね……」
カレンが呆れる。
だが、それが事実なのも分かっている。
「じゃ、じゃあいきます!」
ミアが杖を構える。
深呼吸。
集中。
「――火よ、集まって!」
魔力が動く。
さっきとは違う。
流れはまだ粗いが、形になっている。
小さな火球が、ゆらりと現れた。
「や、やった……!」
ミアの顔がぱっと明るくなる。
だが――
次の瞬間。
火球が、不安定に揺れた。
「……あ」
嫌な予感。
魔力が再び乱れ始める。
「ちょ、ちょっと待って……!」
制御が効かない。
膨らむ。
歪む。
「また暴走――!」
カレンが動こうとする。
だが、その前に。
「大丈夫ですよ」
レインが、そっと手を伸ばした。
火球に触れる。
「少しだけ――」
軽く、押さえる。
それだけ。
次の瞬間。
揺れていた火球が、ぴたりと安定した。
形を保ち、静かに燃えている。
「……え?」
ミアの目が、丸くなる。
「消えてない……?」
さっきと違う。
“止めた”だけではない。
“維持されている”。
「そのまま、ゆっくり離してみてください」
レインが言う。
「は、はい……」
恐る恐る、ミアが魔力を操作する。
火球は、崩れない。
安定したまま、そこにある。
「……できてる」
信じられない、という顔。
「できてる……!」
徐々に実感が湧いてくる。
「すごい……!」
そして、次の瞬間。
「すごーい!!」
ぱっと笑顔になる。
完全に、子供のような反応だった。
「できました! ちゃんとできました!」
ぴょんぴょんと軽く跳ねる。
さっきまでの不安が嘘のようだ。
「よかったですね」
レインが普通に言う。
「はいっ!」
満面の笑みで頷くミア。
そのまま、ぐいっと距離を詰める。
「あなた、すごいです!!」
目がキラキラしている。
完全に懐いた。
「えっと、ありがとうございます」
レインは少しだけ戸惑いながら答える。
「……」
カレンはその様子を見て、静かに息を吐く。
(また一人……)
増えた。
確実に。
「レインさん」
リリアが柔らかく声をかける。
「やはり、あなたの制御は……」
言いかけて、止める。
もう説明を求めても無駄だと分かっている。
「すごいですね」
それだけに変えた。
「そうですか?」
レインは首を傾げる。
本気で分かっていない。
「ねえねえ!」
ミアがまた話しかける。
「私、もっと練習したいです!」
「いいと思いますよ」
「一緒にいていいですか!?」
即座に本題。
「いいですよ」
これまた即答。
「やったぁ!!」
ミアが嬉しそうに手を上げる。
完全に加入する気満々だ。
「……はぁ」
カレンが小さくため息をつく。
だが、口元は少しだけ緩んでいた。




