第19話 暴走
「この辺りですね」
リリアが周囲を見回す。
今回の依頼は中級程度。
三人での連携確認にはちょうどいい内容だ。
「敵は数体。散開して処理すれば問題ないわ」
カレンが前に出ながら言う。
「まずは――」
その時だった。
「――きゃあああああ!!」
森の奥から、甲高い悲鳴が響いた。
「……!」
三人の動きが止まる。
「今のは……」
リリアが顔を上げる。
「人の声ね」
カレンが即座に判断する。
しかも――
「ただ事じゃないわ」
魔力の気配が、異常に乱れている。
暴走に近い。
「行きましょう」
レインがあっさり言った。
すでに足は動いている。
少し進むと、すぐに現場に出た。
開けた場所。
その中心で――
「む、無理無理無理ぃぃぃ!!」
一人の少女が、半泣きで叫んでいた。
年はレインたちより少し下くらい。
ローブ姿で、杖を握っている。
だが、その杖の先。
魔力が、暴れていた。
「来ないでって言ってるのにぃぃ!!」
少女の周囲を、魔物が取り囲んでいる。
数は多くない。
だが――
問題はそこじゃない。
「魔力が……」
リリアが目を細める。
「制御できていない」
「典型的な暴走ね」
カレンが舌打ちする。
「このままだと、自爆するわよ」
魔物よりも危険。
制御不能の魔法は、味方ごと巻き込む。
「ど、どうしようどうしよう……!」
少女は完全にパニック状態だ。
杖を振り回し、さらに魔力を乱す。
「落ち着いて!」
カレンが叫ぶ。
「魔力を止めなさい!」
「止め方分かんないぃぃぃ!!」
即答だった。
「……最悪ね」
次の瞬間。
少女の周囲で、魔力が一気に膨れ上がる。
「――っ!」
「来るわよ!」
カレンが剣を構える。
防ぐしかない。
だが、この規模は――
「大丈夫ですよ」
レインが前に出た。
「え?」
二人が振り向く。
そのまま、少女へ向かって歩く。
暴走している魔力の中へ。
「ちょ、待ちなさい!」
カレンが止める。
「近づいたら巻き込まれる――」
言い終わる前に。
レインは、少女の目の前に立っていた。
「大丈夫ですか?」
いつも通りの声。
「ひぇっ!?」
少女が驚いて後ずさる。
「来ちゃダメぇぇぇ!!」
だが、もう遅い。
暴走した魔力が、レインを飲み込む。
――はずだった。
「ちょっとだけ、静かに――」
レインが、軽く手を伸ばす。
次の瞬間。
暴れていた魔力が、止まった。
ぴたりと。
まるで最初から何もなかったかのように。
「……え?」
少女の声が、間の抜けたものに変わる。
周囲の空気も、静まり返る。
さっきまでの危険な圧が、完全に消えていた。
「これで大丈夫だと思います」
レインが手を下ろす。
何事もなかったかのように。
「……は?」
カレンが固まる。
「今の……どうやったのよ」
「えっと、ちょっと整えただけです」
「整えた……?」
意味が分からない。
リリアも静かに目を見開いていた。
(魔力の流れを……完全に制御した?)
しかも、他人のものを。
それも、暴走状態で。
「……ありえない」
小さく呟く。
「え、えっと……」
少女が恐る恐る口を開く。
「助かりました……?」
「はい、たぶん」
レインが普通に答える。
「もう大丈夫だと思いますよ」
「……ほんと?」
少女は自分の手を見て、魔力を感じ取る。
さっきまでの暴走が嘘のように、静かだった。
「……ほんとだ」
ぽかんとした顔になる。
そして――
「た、助けてくれてありがとうございます!!」
勢いよく頭を下げた。
「死ぬかと思いましたぁぁ……」
涙目で訴える。
「それはよかったです」
レインは軽く頷いた。
「……で?」
カレンが腕を組む。
「あなた、何者?」
さっきと同じ質問。
だが、今度は少女に向けてだ。
「え、えっと……ミアです!」
慌てて名乗る。
「見習い魔導士で……その……ちょっと失敗して……」
「“ちょっと”じゃないでしょ」
即ツッコミが入る。
「完全に暴走してたわよ」
「うぅ……」
ミアがしゅんとする。
「とりあえず、安全な場所に移動しましょう」
リリアが提案する。
「また暴走すると危険です」
「は、はい……」
ミアは素直に頷いた。
そして、ちらっとレインを見る。
「あの……」
「はい?」
「一緒にいてもいいですか……?」
不安そうな目。
完全に頼る気満々だ。
カレンが眉をひそめる。
リリアは少し考える。
そして。
「……仕方ないですね」
と、リリアが答えた。
「一時的に同行しましょう」
「ありがとうございます!」
ミアの顔が一気に明るくなる。
レインはその様子を見て、
「にぎやかになりますね」
と、いつも通りに言った。




