第14話 否定
「――上級相当、ね」
その声は、静かだがはっきりと場の空気を変えた。
ざわついていたギルドが、一瞬だけ落ち着く。
入口の方から歩いてきたのは、一人の女だった。
整った鎧。無駄のない動き。
そして、まっすぐに通る視線。
誰が見ても分かる――実力者。
「カレンだ……」
「王都帰りの……」
「なんでこんなとこに……?」
小さなざわめきが広がる。
その中心で、カレンは止まった。
視線は、まっすぐにレインへ。
「あなたが、その新人?」
「たぶん、そうだと思います」
レインはいつも通りに答える。
その気の抜けた返答に、カレンの眉がわずかに動いた。
「……噂は聞いたわ」
一歩、近づく。
「単独で上級相当の魔物を倒したとか」
「えっと……まあ、たまたまです」
「たまたま」
短く繰り返す。
その声には、はっきりとした疑念が含まれていた。
「そんな都合のいい話、あると思う?」
「どうでしょう」
レインは首を傾げる。
「実際できたので、あるんじゃないですか?」
「……」
一瞬、言葉が詰まる。
周囲が小さくざわついた。
(なんだこいつ……)
カレンは内心で舌打ちする。
態度が軽い。
だが、挑発しているわけでもない。
ただ本気で、そう思っているように見える。
それが逆に、気に入らない。
「私は信じない」
はっきりと言い切る。
「偶然か、何かのトリック」
「トリックですか?」
「ええ」
腕を組み、見下ろすように言う。
「運よく状況が重なっただけ。そういうことはある」
その言葉に、周囲の何人かが微妙な顔をした。
実際に見た者は知っている。
“そんなレベルではない”ことを。
だが、カレンの立場もまた絶対的だった。
「なるほど」
レインはあっさり頷く。
否定もしない。
反論もしない。
その反応が、さらにカレンの神経を逆なでする。
「……あなた、自分がどう見られてるか分かってる?」
「えっと……ちょっと目立ってる、くらいですか?」
「その程度じゃないわ」
きっぱりと言い切る。
「実力が伴っていなければ、すぐに潰れる位置よ」
その言葉は、警告でもあり、試しでもあった。
だが――
「そうなんですね」
レインは特に気にした様子もなく答えた。
「じゃあ、気をつけます」
軽い。
あまりにも軽い。
「……」
カレンはじっとレインを見つめる。
(本当に分かってないのか……?)
それとも――
(分かった上で、この態度?)
判断がつかない。
だからこそ、確かめるしかない。
「いいわ」
カレンは一歩引き、言った。
「ちょうどいい依頼がある」
その一言に、周囲が反応する。
「おい、それって……」
「例のやつか?」
ざわめきが広がる。
カレンは構わず続ける。
「複数人での対応が前提の依頼よ」
視線をレインに固定したまま。
「あなたが本当にその実力なら、問題ないはずよね?」
「たぶん、大丈夫だと思います」
即答だった。
迷いがない。
「……そう」
カレンの口元が、わずかに歪む。
「じゃあ、一緒に来なさい」
完全に“試す”つもりだ。
「レインさん……」
リリアが小さく声をかける。
少しだけ警戒した様子。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思いますよ」
レインはいつも通り答える。
「一緒に行くだけですし」
問題の本質を、まったく気にしていない。
(この人は……)
リリアは小さく息をついた。
「決まりね」
カレンが背を向ける。
「準備して、すぐ出るわよ」
その言葉に、場の空気がまた変わる。
期待と、不安。
そして――
「……面白くなってきたな」
誰かが呟く。




