第12話 雑な解決
「来るぞ!」
先頭の冒険者が叫ぶと同時に、巨大な魔物が地面を踏み抜いた。
ズシン、と重い音。
その体躯は、周囲の木々よりも一回り大きい。
「こんなの聞いてねぇぞ……!」
「上級どころじゃねぇ、これ――!」
ざわめきが一気に恐怖へと変わる。
「落ち着け! 全員で囲め!」
リーダー格の男が叫ぶ。
だが、指示は半分しか通らない。
圧に押され、動きが鈍る。
「散開しろ! まとめてやられるぞ!」
慌ただしく陣形が崩れる。
その隙を、魔物は見逃さなかった。
「――!」
腕を振るうだけで、衝撃が走る。
地面が抉れ、数人が吹き飛ぶ。
「ぐあっ!」
「回復! 回復急げ!」
「無理だ、間に合わねぇ!」
一気に崩壊の気配が広がる。
(まずい……)
リリアは歯を食いしばる。
想定外の強敵。
連携の乱れ。
このままでは――
「レインさん!」
思わず呼ぶ。
だが、その声は焦りを含んでいた。
「んー……」
当の本人は、少し考えるように首を傾げていた。
(確かに、ちょっと強いな)
周囲の冒険者たちが苦戦しているのも分かる。
(でも、まあ――)
「大丈夫そうですね」
ぽつりと呟く。
その一言が、妙に軽い。
「下がれぇぇぇ!」
誰かの叫びと同時に、魔物が再び踏み込む。
今度は直線的に、前衛へ。
防げない。
そう思った、その瞬間。
「ちょっとだけ――」
レインが一歩、前に出た。
誰も気づかないほど自然に。
手を、軽く上げる。
(弱くして――)
――次の瞬間。
魔物は、消えた。
衝撃も、音もない。
あれだけの巨体が、ただ静かに“なくなった”。
風が一瞬だけ揺れ、草がささやく。
それだけ。
「……は?」
剣を構えていた男の声が、間の抜けたものに変わる。
目の前にあったはずの脅威が、消えている。
「え……?」
誰かが振り返る。
何もない空間を、信じられないものを見るように。
「今……何が起きた?」
誰も答えられない。
答えられる者が、いない。
「終わりました?」
レインが、普通に聞いた。
まるで、軽い作業を終えたかのように。
「……お前」
リーダー格の男が、震える声で言う。
「今、何をした?」
「え?」
レインは少しだけ考えて、
「普通に倒しただけですけど」
と答えた。
「普通……?」
その言葉に、誰もが固まる。
あの存在を、“普通に”。
理解が追いつかない。
「いや、でも……」
「今のは……」
言葉が続かない。
「……ありえねぇ」
ぽつりと誰かが呟く。
それが、全員の本音だった。
ありえない。
理解不能。
「……誰だ、あいつ」
視線が、レインに集中する。
先ほどまで“新人”としか見ていなかった存在。
だが今は違う。
「見たか?」
「いや……見えてねぇ」
「気づいたら終わってた……」
ざわめきが、恐れへと変わる。
リリアは、その光景を静かに見ていた。
(やっぱり……)
もう驚きはしない。
ただ、確信が強まるだけだ。
(この人は、規格外)
完全に。
「とりあえず、安全になりましたね」
レインは周囲を見回しながら言う。
まるで何事もなかったかのように。
「他にもいそうなら、探します?」
「……いや」
リーダー格の男が、首を振る。
「もう、十分だ」
声に、妙な力が入っていた。
これ以上、この場にいるのが怖い。
そう感じているようだった。
撤収の流れが決まる。
だが、その場の空気は元には戻らない。
誰もが同じことを考えている。
そして、ついに誰かが口にした。
「……誰だ、あいつ」
その問いに、答えはない。
だが、全員が理解していた。
ただの新人ではない。
それだけは、確実だった。




