第11話 上級依頼
「……これ、本当に受けるんですか?」
ギルドの掲示板の前で、リリアが少しだけ慎重な声を出した。
手にしているのは、先ほど選んだ依頼書。
――複数パーティ推奨。
――危険度、高。
明らかに、これまでとは格が違う内容だ。
「難しそうですか?」
レインは覗き込みながら、特に緊張した様子もなく聞く。
「はい。少なくとも、通常は二〜三パーティで対応する規模です」
「なるほど」
レインは頷く。
(まあ、ちょっと多いくらいか)
その認識が、すでにおかしい。
「でも、他にも人がいるなら大丈夫そうですね」
「……そういう問題ではないのですが」
リリアは小さくため息をついた。
だが、止める理由もない。
この人なら――という確信が、すでにある。
「……分かりました。行きましょう」
「はい」
依頼の集合地点は、町の外れ。
すでに何組かのパーティが集まっていた。
装備も雰囲気も、これまで見てきた冒険者たちとは違う。
「おい……あれ」
「見ねぇ顔だな」
視線が一斉に集まる。
レインとリリアに向けられるその目は、明らかに品定めのそれだった。
「新人か?」
一人の男が近づいてくる。
「ここがどんな依頼か、分かって来てんのか?」
「えっと……ちょっと難しめ、ですよね?」
レインが素直に答える。
男は一瞬だけ固まり、すぐに顔をしかめた。
「“ちょっと”じゃねぇよ。下手すりゃ死人が出るレベルだ」
「そうなんですね」
それでも、レインの調子は変わらない。
その態度に、周囲の空気が微妙にざわつく。
「おいおい、大丈夫かよ」
「新人が来る場所じゃねぇぞ」
「足引っ張んなよ?」
遠慮のない声が飛ぶ。
だが――
「気をつけます」
レインは軽く頷くだけだった。
反論もしないし、気にもしていない。
それが逆に、違和感を生む。
(この人……)
リリアは横目でレインを見る。
周囲の圧に、まるで影響されていない。
いつも通り。
(やっぱり、普通じゃない)
改めてそう思う。
「全員揃ったな」
リーダー格の男が声を張る。
「今回の対象は、群れを形成してる魔物だ。数が多い」
簡単な説明が始まる。
「包囲されると厄介だ。各パーティ、連携を意識しろ」
頷きが広がる。
「じゃあ、行くぞ」
その一言で、全員が動き出した。
森の中へと進む。
先頭、中衛、後衛。
それぞれが役割を持って配置されている。
レインとリリアは、やや後方寄りに入った。
「この位置で大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません」
リリアが小声で答える。
「むしろ、今は周囲の動きを見た方がいいかと」
「なるほど」
レインは素直に頷く。
(みんな、ちゃんと連携してるな)
当たり前のことを、少し新鮮に感じていた。
その時――
「……止まれ」
前方の男が手を上げる。
全員の動きが一斉に止まった。
空気が変わる。
「気配が……多いな」
低い声が響く。
通常よりも、明らかに濃い魔物の気配。
「囲まれるぞ、警戒しろ!」
一気に緊張が走る。
剣が抜かれ、魔力が集まる。
「……」
レインも周囲を見回す。
(確かに、多いかも)
だが、それだけではない。
もっと奥に――
「……ん?」
わずかに、違和感。
数ではなく、“質”。
空気の奥に、重い何かが混じっている。
「レインさん?」
リリアが小さく呼ぶ。
「何か、感じますか?」
「えっと……」
少し考えてから、正直に答える。
「なんか、一匹だけ強そうなのがいますね」
「……!」
リリアの表情が引き締まる。
その時だった。
――ズシン。
地面が、揺れた。
一度だけではない。
ゆっくりと、確実に近づいてくる重い振動。
「おい……なんだ今の」
「こんなの、聞いてねぇぞ」
ざわめきが広がる。
次の瞬間。
森の奥から、巨大な影が姿を現した。
それは、明らかに――
依頼の想定を超えていた。
「……は?」
誰かが、呆然と呟く。
「冗談だろ……」
空気が、一気に張り詰める。
レインは、その様子を見て。
「……あれ、ちょっと強そうですね」
と、いつも通りの調子で言った。




